第34話 朝の屋台巡り

 「起きろー」

 「ぶぎゃっ」

 ベッドから、転げ落ちて目が覚めた。

 何だか覚えのある目覚めですよ!?

 「酷いよ、兄ちゃん」

 「起きないおまえが悪い」 

 ぐぬぅ、その通りなので反論し辛いじゃないか。

 

 「行くぞ、ぐずぐずするな」

 「はーい」

 手早く身支度を終わらせ、フーさんを追いかけて部屋を出る。

 

 「あれ?」

 「んん?」

 一階のロビーへ降りると、カウンターで誰かがうつ伏せで寝ていた。

 「「誰?」」


 グレイじゃない。

 グレイは、白髪混じりの茶髪だ。

 寝ている人は、金髪。

 全然違う。


 「おい」

 「おーい」

 呼び掛けて、起きない。

 つんつん突いてみても、起きない。

 でも困る。

 このままじゃ、鍵を預けられない。


 「「・・・・・」」

 フーさんと顔を見合せ、頷き合う。

 呼び掛けても起きないなら、実力行使しかないよね。

 「ぎゃっ」

 金髪な彼の頭に、フーさんの拳が振り下ろされた。

 

 「え?なになに!?」 

 飛び起きた彼は、青い目をした今の私と同じ様な年頃の少年。

 彼が暴力を振るわれたと気付く前に、目的を遂行しないとね!


 「おはようございます」

 「お、おはよう?」

 「鍵、預けたいんですけど、大丈夫ですか?」

 「あ、ああ。あれ?焼き鳥屋?」

 「焼き鳥屋は今日までですよ。明日からはやってません」

 「そうなの!?」

 「ええ」

 「絶対、買いに行く!」


 どうやら、彼もお客さんだったようだ。

 彼の名は、アントニー。

 宿代変わりに宿を手伝う、見習い冒険者だそうだ。

 彼に見送られ、外に繰り出す。

 「朝市だよ、兄ちゃん」

 「屋台だって」

 「朝市気にならん?」

 「なるなぁ」

 「だよねぇ」

 「「・・・・・」」


 朝市って、とっても引かれる単語だよね。

 でも、問題がある。

 今日はまだ、ストック分の焼き鳥を一本も焼いていない。

 屋台巡りをしてから、朝市を見て廻っていたら焼き鳥を焼く為の時間が短くなる。


 「明日、だなぁ」

 「だねぇ」

 「明日は自分で起きろよ?」

 「が、頑張るぅ」

 自力で起きる自信?

 そんなものは全くありません!



 フィスは町だが、規模はそれほど大きくない。

 町の始まりは、数組の冒険者パーティーが集まったテント村だったのだから、当然だろう。

 出入口は四方にあるが、市場は1ヶ所だけ。

 ダンジョンから産出された肉と調味料、近隣の村で作られた野菜と穀物が主な取り扱い品。

 そして、屋台は市場の入口に集まっているそうだ。


 「あ、良い匂い」

 「肉ばっかりだな」

 「だねぇ」

 残念な事に、屋台はほぼ串焼き。

 たまに、野菜と一緒に焼かれている物もたまにあるが、肉ばかりだ。


 「あ、美味しい」

 コッカーと玉ねぎに塩をかけだだけのシンプルな串焼きは、シンプルだからこそ肉と野菜の味が引き立って美味しい。

 でも、やっぱりちょっと塩気が薄い。

 減塩だね!


 「うむ」

 フーさんは、カボチャと蕪を刺した野菜串を満足げに噛っている。

 いや、そんな串焼き何処の屋台に売ってたの?

 「食うか?」

 「一口ちょうだい」

 「ほれ」

 「ありがと」

 カボチャと蕪を、一口づつ噛る。

 「うっま」


 え?

 味付けしてないみたいだけど、無茶苦茶美味しい。

 焼いただけの、手を加えていない方が美味しいって何事!?

 料理の意味!

 つくづく、素材が美味しいと料理が発展しないんだねぇ。

 

 「ダンジョン産の野菜なんだと」

 「へぇ」


 あ、良かった。

 こんなに美味しいのは、ダンジョン産だからこそらしい。

 だってさ、素材は美味しいのに料理にしたら微妙って、残念過ぎるじゃないの。


 「あれ?てことは、うちの野菜?」

 「そりゃそうだろ」

 「だよねー」


 この町に一番近いダンジョンは、私のダンジョンだものね。

 でも、こんなのが自生しているとは知らなかった。

 先代が生やしたのかな?

 グッジョブ、先代。

 そして、宝箱とか転移石みたいに、無くなっていなくて良かった。


 「ん?芋か」

 「芋?あ、焼き芋」

 フーさんが見つけたのは、どう見ても焼き芋。

 大きな葉っぱに包まれて、窯で焼かれている。


 「はよ並ぼう」

 「うむ」

 人気店なのだろう、行列が出来ている。

 しかも、1人2本までの制限付き。

 絶対美味しいって。

 

 てことで、おやつゲット。

 ん?

 焼き芋は、私にとっておかずではありません。

 おやつです。

 なので、まだ食べません。

 フーさんは構わず食べているけど、私は収納鞄にしまい込みます。

  

 「美味いぞ?」

 やめて、食べたくなるから誘惑しないで!

 あ、あの店、ぶっといソーセージを焼いてる。

 「兄ちゃん、次はあれどうよ?」

 「あ?・・・まぁ、いいんじゃね」

 よし、フーさんからの焼き芋の誘惑をかわせた。

 ソーセージは自家製で、にんにく入りとそうでないのと2種類。

 取り敢えず、1本づつ皿に乗せてもらってお金を払ってベンチへGO。 

 美味しそうだけど、ちょっと食べにくいのが残念だね!


 「かせ」

 「え?」

 どうやって食べようかと悩んでいた私の目の前で、フーさんは素晴らしい事をしでかした。

 コッペパンを4個取り出し、背中をすっと切り開き、それぞれにキャベツの千切りとソーセージを入れて挟んだのだ。

 ホットドッグ!

 ケチャップはかけていない。お好みで、ということなのだろう。


 「兄ちゃん、天才!」

 「当然だ」

 なんか腹立つけど、今はいい!

 取り敢えず、にんにくの入っていない方に大口を開けてかぶりつく。

 「うま」

 ソーセージから溢れる肉の旨味たっぷりな肉汁、キャベツの爽やかな甘さとまとめるパンの包容力。

 最高。

 「俺、良い仕事した」

 「うん」

 間違いない。

 

 「「・・・・」」

 でも、私達は最初の一つしか食べきれなかった。

 初めは良かったんだよ?

 でも、だんだん肉汁が辛くなってね。

 途中からケチャップをかけて味変しながらやっと食べきったよ。

 私もフーさんも、体は若い筈なのになぁ。

 「後で、トマトソースでも作るわ」

 「酸味、強めでよろしく」

 残ってるの、にんにくの入りの方なのよ。

 「・・・教訓だな」

 「やねぇ」

 もう2度と、食べたことの無い物を1人に一つづつ買わない。

 半分こよ、半分こ!

 うう、胃が辛い。


 まあ、そんなこんなで朝の屋台巡りは終了。

 屋台の準備をするために宿へ戻ったよ。

 え?焼き芋?

 こってりホットドッグを食べた後に何かを食べれる程、私の胃は元気では無いよ。

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