第14話 良い物がありました

 さて、突然負龍と意志疎通が可能になった私です。


 この人?この龍?

 今はもうすっかり目が覚めてしまって二度寝が出来ないそうで、暇潰しを要求された。

 うん、私とても困った。


 だってね、目が覚めたとは言っても、起きたのは意識だけ。

 封印が解けた訳ではないので、体は相変わらず眠っている。

 動けない状態での暇潰しって、どうやるのよ。

 そもそも、直に触れていないと不龍とは意志疎通出来ないの。

 私が生活に困るし、楽しくないじゃないの。

 それでは、本末転倒。

 意味がない。


 「何かないかなぁ」

 101階層に椅子を置き、靴と靴下を脱いだ素足で鱗に触れる。

 負龍は足下にされることに文句を言っていたが、この体勢が一番楽だし、触る前に足に浄化を掛けたので我慢してほしい。


 ああ、そうそう。

 私が何を探しているのか気になるよね。

 負龍の封印はそのままで、彼が好きに動ける方法を探している。

 ダンジョンの中でなら、ダンジョンマスターの能力で何とかなりそうな気がするんだけどなぁ。


 “どうだ?”

 「んー、まだ見つからんねぇ」

 あ、私負龍相手に敬語を使おうとする努力を辞めました。

 この人ってば、私がどんな話し方でもちっとも気にしないから、敬語なんて使おうとするだけ面倒臭い。

 

 ダンジョンショップに並んだ物を、上から順番に一つずつ見ていく。

 うん、ここまでじっくりダンジョンショップを見るのは初めてだ。

 沢山項目がありすぎて目がしぱしぱする。

 「あ、」

 “あったか?”

 「これ、いけるかも!」

 良い物を見つけた。


 虚構の写し身。

 粘土のように、好きに形を変える事の出来る仮の器。


 「ちょっと待ってや」

 好きな形に出来る事も良いが、様々なオプションを付ける事が出来る。

 さらに、写し身の機能維持の為に、常に負の魔力を必要とするところが良い。

 しかも、写し身の維持にも負の魔力が必要になる。

 高スペックになればなるほど必要になる負の魔力は増える。


 最高か?


 「これやん」

 負の魔力を消費したい私には都合の良すぎる物を見つけてしまった。

 因みに、素の状態の虚構の写し身を一体作るのに必要な負の魔力は10億。

 素敵すぎる。


 “あったか?”

 「あった!ちょっと待って」

 負龍の見た目を、私の好きに出来るチャンス。

 私、ニシキヘビを飼ってみたかったのよね。

 タブレットの画面を操作し、虚構の写し身の初期の見た目をニシキヘビに設定する。


 ん?

 注ぎ込む負の魔力の量?

 負龍の魂が宿る器だ、ケチケチする必要は無い。

 最大限、注ぎ込めるだけ負の魔力を注ぎ込む。 

 あ、二桁負の魔力が減ったとおもったら、あっという間に満タンになった。

 多分、101階層のダンジョン核の欠片から負の魔力が補充されたのだろう。


 え?

 結局どれだけ負の魔力をつぎ込んだのかって?

 つぎ込めるだけつぎ込んだんで、分かりません!

 まあ、何にしろ負の魔力が減ったことは良いことですよ。

 使いたい放題万歳。


 「おおー!」

 そんなこんなで、虚構の写し身を作成。

 全長10m、黄色と茶色の網目模様が大変美しい写し身が出来上がった。

 「どうよ、負龍さん!」

 “見たことの無い模様の蛇だな”  

 「立派なニシキヘビやろ!私がおった世界最大級の蛇ながよ」

 あれ?世界最大級はアナコンダだったかな?

 まあ、ニシキヘビも大きな蛇だから最大級ど良いでしょ。

 “この程度の大きさでか?”

 「元の世界には魔物なんておらんきね」

 全長2kmな負龍な彼にとっては全長10mは小さいだろうが、私にとっては十分大きい。


 「それに、このくらいの大きさが便利やと思うで?そもそも、見えゆうが?」

 “そなたの目を通して見ておる”

 つまり、負龍は見えていないけど、私が触れている間は回りが見えると。

 「ねぇ、それってなんか気が違いそうながやけど」

 聞こえるけど、見えない動けないんでしょ?

 私なら絶対に頭がおかしくなるよ。

 “うむ。我もそなたとの出会いには感謝している”

 なるほど、負龍でも気が違いそうになると。


 「これでえい?」

 “うむ。すまんが、我と写し身に触れてくれ”

 「はいはい」

 私を起点にして、魂の一部を写し身に宿すそうだ。

 うん、良く分からない。

 分からないが、写し身がにょろりと動き出した。

 

 「は?」

 なんということでしょう!

 美しい網目模様のボディが、黒一色へ変化してしまった。

 これじゃ、大きさのおかしい青大将じゃないか!

 

 “どうした”

 「ニシキヘビが、青大将になってしもうた」

 “うん?”

 言葉で説明する事は、難しい。

 イ○ンモールで掌サイズの鏡を取り寄せ、負龍の鼻先へ突き付ける。

 “近すぎて見えん”

 「ですよね!」

 突っ込まれ、改めて距離をとる。

 “なるほど”

 鏡に写る姿をしげしげと見つめ、負龍は何かに納得したようだった。

 “これは、我の魔力に影響されたようだ”

 負龍の魔力は基本的に闇属性だそうで、使う者の影響を受け易い写し身は、その闇属性の魔力に影響を受けて黒く染まったようだ。


 仕方のない事だけど、残念です!


 「そっかー。あ、聞こえ方は妙やけど、普通に声が聞こえるね」 

 これは、念話というスキルだそうだ。

 触っていなくても会話が出来るので、とても有難い。


 「それで、これからどうするが?」

 “どうする、とは?”

 「魂の一部を写し身に入れて、動けるようになったやん?」

 “そなたのお陰でな”

 「暇って、どう潰すが?」

 “・・・・・”

 暇を何とかしたかっただけで、特に何をしたいという訳でもなかったようだ。

 「サブマスターでもする?」

 “面白そうだな”

 「“ふふふふふふふ”」

 サブマスター、ゲットだぜ!

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