第45話 貰って微妙なお手紙

 「「げふぅっ」」

 食べ過ぎた。

 食べ過ぎちゃたよ。

 いや、なんでか餃子の屋台が並んでいたから、ついつい各屋台の餃子を買っちゃったんだよね。

 一ヵ所で止めておけば良かったのに、ついつい全部食べちゃって胃袋が餃子でみっちみちだよ。

 消化が追い付いてなぁい。


 「やっぱり町で食べ放題とか無理だよ」

 「ああ、実感した」

 ベンチに腰掛け、重い腹を撫でさすれば、胃袋がぽっこり飛び出て存在を主張している。

 道行く人々を眺めながら胃袋に余裕が出来るのを待つ。


 「あ、あの」

 「「?」」

 何だか気弱な感じに声を掛けられた。

 見れば声と同じように、気弱そうな女性が立っていた。

 何かに怯えるように辺りを気にして視線がうろうろとあちこち動いて落ち着きがない。

 え?不審者?

 

 「これ、あなた達に渡してくれって」

 「私達に?」

 「わ、渡したから!」

 押し付けられ、何かを言う前に女性は逃げるように駆けて行った。


 「なんだ?」

 「さあ?」

 「手紙?」

 「不審物だよねぇ」

 「妙に質の良い不審物だな」

 「ねぇー」


 不純物が除かれ、真っ白に漂白剤された封筒。

 何かの家紋のような物が押された封蝋。

 ふんわりと香る甘い煙の匂い。

 絶対に開きたくない不審物だ。


 「これ、開けたくないがやけど!」

 何だか面倒そうな気配を感じる。

 「そうだな」

 「でも、開けんとますます面倒な気がするき腹立つ!」

 「うむ」


 二人そろって溜め息を吐き、封をべりっと破って中身を取り出す。

 入っていたのは剣と丸十字が皿に乗った天秤マークが赤インクで、でかでかと押されたカードが一枚。


 「なんぞコレ」

 意味不明である。

 「「・・・・・・・」」

 ぺろっと裏返せば更に意味不明な文言が、やけにカッチリした几帳面な文字で書かれている。


 『ダンジョンは我らが必ず根絶する』


 「うちを?」

 え?うち、負龍を封印するためにあるダンジョンなんですけど。

 そんなダンジョン根絶して、中にいる負龍をどうするつもりなの?

 倒すの?

 は?無理無理!

 うちのダンジョンが存在するそもそもの理由が他のダンジョンとはちょっと違うんですけど!?

 上の方は兎も角80階層から下は即死級の極悪難易度なんですけど?


 「自殺志願者?」

 「だな。放っておこう」

 「うん。負の魔力の昇華が出来たら、何でもえいよ」

 さすさすと腹を撫でさする。

 うん、ちょっとはこなれてきた。

 「それでこれ、どうしよ」

 「燃やすか」

 「どこで?」

 「グレイの宿とか?」

 「あー、良いかも」


 「フーと、ナナか?」

 「「あ」」

 なんて、グッドなタイミングなのでしょう。

 「グレイさん、竈貸してください」

 「竈?」

 「はい。これを燃やします」

 私がぴらぴらと振るカードを、フーさんがぺっと奪ってグレイに渡す。


 「!?」

 赤インクのマークを見たとたん、グレイの目がカッと見開かれた。

 彼は何か言いたそうに唇をもごもごと動かし、ぐいっと眉間に深いシワを寄せる。

 「どうした」

 「何かありました?」

 「このカード、預かっても良いか?」

 「「どうぞ?」」

 元々燃やすつもりだったので、全く問題ない。

 「そうか、悪いな。じゃあな」

 「「・・・・・・・・」」

 すたすたと、足早に去って行く。


 「あのカードを送り付けて来た先は、よっぽどアレなんだろうね」

 「そうだな。・・・そろそろ行くか」

 「ほーい」



 フーとナナからカードを預かったグレイはその足で衛兵隊の本部へ行き、隊長、副隊長と面会をし問題のカードを突き付けた。

 「これが、あの兄妹へ送り付けられた」

 「おいおいおい、マジかよ。やっべぇじゃん、どうするよ隊長」

 「相手は教会の過激派ですよ?どうしようもありませんって。領主様経由で、決着はダンジョンの中でつけるよう釘を刺してもらうしかないです」


 3人は、そろって溜め息を吐いた。

 教会を示す本来の印は、聖印である丸十字をてっぺんにいただいた天秤。

 剣と丸十字の聖印を皿に乗せた天秤は、ダンジョンを神々に反する悪しき物と言って根絶を主張する過激な一派が掲げる印。

 本来教会はダンジョンを神々の試練、もしくは恩寵として適切な関わりを基本としているのに、彼らは主張するだけでなく実際に幾つかのダンジョンを滅しているから質が悪い。


 但し、ダンジョンマスターが居るダンジョンは危険度が高いので、ダンジョンマスターの討伐が推奨されている。

 終わりのダンジョンに現れたらしいダンジョンマスター?

 周辺国連合では、ノータッチが全会一致で決定しております。


 「そうだがよぉ。たく、ダンジョンが良い感じに変わって来たってのに迷惑な奴等だ」

 「全くです。そもそも、神々が邪龍を封印するために作った終わりのダンジョンを滅してどうするつもりなのでしょう」

 邪龍が出てきて困るのは、この世界に生きる生き物全てである。

 「過激派の考えなぞ分かるものか。領主には上手く伝えておいてくれ」

 「はい、お任せ下さい」

 「そう言って、伝えに行くの俺なんでしょ!?」

 「もちろん」

 「言い切るんじゃねぇよ!」

 じゃれ始めた2人を尻目に、伝えるべき事を伝えたグレイはさっさと本部を後にするのだった。

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