第44話 食べ歩き続行ちゅう

 「あれか?」

 「あれっぽいね」

 もくもくと、美味しそうな白煙を上げている屋台を発見。

 魚を焼いているのは強面なおっさん。

 売り子は十歳くらいの子供達。

 間違いなく目的の屋台である。

 

 「結構並んでるねぇ」

 「美味いからから、それとも最後だからか」

 「両方じゃないの?」

 「・・・だな」

 そそくさと、列の最後尾に並ぶ。

 香ばしい、魚の油が焼ける匂いとジジッと油の弾ける音。

 実に良い。


 「胃袋が刺激されるね」

 「そうだな」

 とは言え、買うのは一本だけである。

 「一本ください!」

 「一本だけで良いの?」

 「ああ」

 「あちこちで沢山食べたいんです」

 「なるほどねぇ、気持ちは良く分かるよ。はい、一本800ギルね」


 「ありがとう」

 「ありがとうございましたー」


 列を離れ、2人してくんくんと焼き魚の匂いを嗅ぐ。

 薪で炙られて香ばしく、皮は見るからにぱりぱり。

 実に美味しそうである。

 「アマゴ?」

 「ヤマメか?」

 「鮎じゃあないよね」

 「鮎っぽくはねぇな」

 「鱒?」

 「鱒は見た目が色々だからなぁ」

 残念ながら、見た目では魚の種類は分からない。

 元の世界で見たことがあるような気がするし、見たことがないような気もする。

 取り敢えずまあ、川魚である。

 「ふむ」

 まずは、フーさんが一口。

 続いて私が一口。


 「「・・・うっま」」

 香ばしい皮のぱりぱり感が素晴らしい。

 旨味の強い淡白な味の魚肉、さっぱりとした油がしっとりジューシー。

 味付けは塩のみ。

 だが、それが良い。


 「良いな、これ」

 「美味しいね、これ。買いだめしておく?」

 「いや、この魚が出る泉を調べて取り寄せてくれ」

 「りょーかい」

 自分の好きなように料理がしたいんですね?

 了解です、喜んでお取り寄せ致しますとも!

 なので、私にも沢山食べさせてください。

 その為にも、今更だけど食べかけの川魚を鑑定する。


 ダンジョン鱒

 身は柔らかく淡白でありながら旨味が強い美味しい魚。

 旬は無いのでいつ獲っても油が乗っていて美味しい。


 なるほど、ダンジョン独自の魚ですね?

 お取り寄せ、どんと来いですわぁ。

 あれ?でもフーさんもお取り寄せ出来るんだけど?

 あ、面倒なんですね?

 いいよ、いいよ。

 私は美味しい料理が食べられればそれで満足なんで、任せておいてよ。

 

 「こんなものか」

 「これ以上は人前じゃ食べれないよ」

 「そうだな」

 キレイに骨だけが残った串をゴミ箱に捨てる。

 大変、美味しゅうございました。


 「そろそろ甘い物を食うか」

 「賛成!気になる、カップケーキが多いのよねぇ」

 「カップケーキはアレンジがしやすいからな」

 「私でも出来るからね」

 トッピングでがらりと変わるカップケーキは、ものぐさな私に優しいスイーツなのです。

 「おまえ、トッピングしたカップケーキは食わねぇだろうが」

 「てへ」

 ごてごて飾ったのって食べ辛いし、甘い物って好きなんだけど余り食べる気にならないんだよねぇ。

 因みに私の好きなカップケーキは何も乗っていない甘さ控えめなプレーンか、甘さ控えめなナッツ入りです。

 ベリー系のドライフルーツが入っているのもいいね。

 勿論、甘さは控えめでお願いします。


 「デコレーションのしがいの無い奴め」

 「いや、兄ちゃんも人の事言えないって」

 フーさんはごてごてデコレーションするのが好きなクセに、甘さ控えめなデコレーションの無いカップケーキしか食べない。

 彼が盛りに盛った芸術的カップケーキは、99.9%宝箱行きである。


 「甘い物は1、2個で良いか」

 「うん」

 甘い物は別腹って良く言うけど、私達の別腹は甘い物に対しては存在しない。

 「取り敢えずはカップケーキと、何にする?」

 「カップケーキの次に屋台が多いやつは?」

 「ドーナツか?」

 「どれもこれも砂糖衣が付いてるねぇ」

 「・・・却下で」

 「うん」

 私達、ドーナツもシンプルな何も入っていないパン屋さんの固めのドーナツが一番好きなのよねぇ。


 「プレーンとベリー、一つづつ下さい」

 半分に割って、わけっこしてカップケーキを食べる。

 「うむ。レシピ通りだな」

 「そうなが?」

 「ああ」

 「流石兄ちゃん」

 そんなこと良く分かるよねぇ。

 ちょっとの違いなんて、私の舌じゃさっぱり分からないよ。


 「飲み物が欲しくなるねぇ」

 「何処かで果汁を売ってなかったか?」

 「あったかも」

 次はジュースですね。


 “所で、気付いているか?”

 “冒険者と衛兵が忙しそうにしてるっぽいね!”

 姿は見えないし、私はフーさんと比べて気配に疎いんだけど、嫌な感じの何かが近づいて来ては何処かに連れていかれているのは分かるよ。


 “何処ぞのアホが我らを拐いにきているのだと”

 “拐って何するつもりなんだろねぇ”

 “さて、アホの考える事は分からん”

 “ですよねぇ”


 どうせダンジョンの生み出す富が目当てなんどろうけど、ダンジョンマスターなんて自分のダンジョンに居なければ何も出来ない。

 私とフーさんの写し身は人の枠外の性能に作ってあるから囲まれても平気。

 もし拐われたとしても、黒幕の元に届けられてから自爆スイッチを押したら万事解決よー。


 え?周りの被害?

 ダンジョンマスターにそんなこと言われても困るよ。

 ま、更地になる範囲は広くないから安心してよ。


 “衛兵にはまた差し入れをせんといかんな”

 “そーだねぇ。冒険者はえいが?”

 “奴らはダンジョンで良い思いをしているから要らんだろ”

 “それもそうやね”


 「ん?」

 「あれ?」

 果汁を買って〆にしようとしていたのに、私達は見つけてしまった。

 「「餃子!」」

 これはもう、並ぶしかないでしょう。

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