第43話 只今食べ歩き中

 屋台が並ぶのは四方の各門前の広場とそこをつなぐ通り。

 広場の真ん中には舞台があり、音楽や演劇、舞いを旅芸人達が披露している。 

 花より団子な私達は音楽や演劇、舞いには目もくれず、気になった屋台へ並んでは一人前買って半分ずつ分けて食べる。

 こうすると、沢山の種類を食べれるからね。


 「うま」

 「ああ。だが、驚きは少ない」

 「レシピ出してからそんなに経ってないし、こんなもんじゃない?」

 レシピ通りの屋台もあるが、レシピを工夫している屋台も結構ある。

 フーさんが唸るような料理もそのうち出てくる筈だ。


 「兄ちゃんが満足出来るようになるには時間が足りないんだって」

 「ぬう」

 「ま、兄ちゃんが満足いかんでも、私は満足だけどねぇ」

 「おまえの舌は何故そこまで貧相なんだ」

 「不味くなかったらそれで良いから?」

 美味しいに越したことはないけど、不味くなければ十分です。

 ビバ、食べられる幸せ。


 「基準が低くすぎだろ」

 「兄ちゃんは基準が高過ぎるよねぇ。あ、私としては大歓迎よ?美味しい物が毎日食べられるもの」

 「俺が不味い物を作る訳がねぇだろ」

 「ですよねー」


 うん、とっても自信満々。

 確かにフーさんは料理上手なんだけど、素直に頷けないよ。


 「あっ、気まぐれ屋!」

 「「?」」

 屋号を呼ばれて振り返ると骨付き肉と串焼きを両手に持ったアントニーがいた。

 彼の周りには同じ物を持ったパーティーメンバーらしい2人。


 「祭り見物?」

 あ、このセリフ何処かで聞いた事がある。

 「食い倒れです」

 「だよねぇ」

 アントニーはニコニコ笑いながら近づいてくる。

 パーティーメンバーらしい2人も、歩み寄って来た。

 「あ、この2人は俺のパーティーメンバー」

 

 体格の良い方が槍使いのジャン。

 細身の方が狩人のティロン。

 2人ともアントニーの一歳年下で、同じ孤児院の出身だそうだ。


 「ナナです。兄ちゃんの屋台で売り子をしてます」

 「フーだ」  

 「すいません、家の兄ちゃん愛想ないから」

 「フーは美味しい物作ってくれたらそれで良いよ。な、」

 「おう」

 「美味しいは正義だよ」

 「「「コロッケ、美味しかった」」」

 

 あ、この子達3人とも食いしん坊だわ。

 「そうか」

 フーさんもそれが分かって何だか雰囲気が柔らかくなっている。

 自分が作ったものを褒められると誰だって嬉しいよね。

 私も、私が作った訳ではないけど嬉しい。

 何だかサービスしたくなるね。


 「次回も楽しみにしていてくださいね?」

 何の屋台になるかはフーさん次第だけどね!

 でも次の屋台は魚関係になると思うけどね。

 「「「もちろん!」」」

 うんうん、良いお返事です。

 

 「是非、行って見てくれ」

 「絶対美味しいから、ちょーお勧め。な」

 「うん」 

 何の話し合いかって?

 3人に、お勧めの屋台を教えてもらったの。

 そのお勧めが彼らがいた孤児院がやっている屋台だったのには、正直微妙な気持ちになったけど、詳しく話しを聞いて考えが変わったよ。


 ダンジョンの泉で採った川魚を焼いた物を売る屋台。


 何でも3人がいた孤児院はスラムにある孤児院で、運営費を稼ぐためにダンジョンの川魚をスラム全体で囲い混んで独占しているそうだ。

 町的には余り宜しい事ではないのだけど、理由が理由な為に領主も見て見ぬふり。

 此処フィスでは珍しい魚を売って、3人はそれなりに生活が出来ていたそうだ。

 「ダンジョンのお陰で最近は益々良くなったけどな」

 「お陰で今回で焼き魚の屋台は最後なんだ」

 そう、それなりに金に出来るダンジョンのドロップ品と採集物が孤児院の子供でも集められるようになって、スラムの元締めは川魚の独占を辞めることにした。

 なんだか、自分達の為にやっていた事で誰かの為になっていたなんて妙な感じだ。

 それに、ダンジョンの周りの他の町でも同じような事が起こっていそうだし。

 こういうのが、バタフライエフェクトって言うのかな?


 まあ、負の魔力を昇華する機会が増えるのならダンジョンとしてはそれで良いよ。


 「焼き魚か」

 「川魚って焼き魚か甘露煮のイメージしかないよ」

 「甘露煮?」

 「ちっちゃい鮎とか、ごりを醤油と砂糖で煮たの。沢山食べようとは思わないけど、結構美味しいよ」

 「佃煮か」

 「そうそうそれそれ。そんな感じ」

 

 ちょろちょろちまちまと、食べ歩きを続けながらスラムのある方向へ向かう。




 「なに?」

 「気まぐれ屋の2人が来ました」

 「・・・・そうか。アホ共はどうしている」

 門番から上がって来た報告に、領主は深々と溜め息を吐いた。

 「貴族街で集まって宴会中です」

 「昼間から良い御身分だな、おい」

 領主の舌打ちが止まらない。


 「それで?」

 「気まぐれ屋の2人には、冒険者ギルドが斥候を付けております。もしアホの関係者が近づこうとした場合には、排除を依頼しております」

 「アホはアホだが、妙な所で勤勉な所があるから困る」

 「はい」

 「それで?あの2人の目的は何だ?」

 「食い倒れだそうです」

 「・・・そうか。食い倒れ、かぁ」

 フィスを含めたダンジョンに面した町や国は、最近ダンジョンの恩恵を受けている。

 それはもう、大いに受けている。

 なのだが、ダンジョンの関係者と思われる2人がちょくちょく現れるお陰で、領主は欲に負けたお馬鹿な人々の対応に苦慮するのだった。

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