第42話 今日は何の日?
今回の一斉討伐は、始まってから13日後に波が引くように終了した。
各地の拠点に冒険者や兵達が集合し、宿営地を撤収して速やかに引き上げて行った。
「ダンジョンに人がおらんなったで」
今の100階層を3階層の上にぶち込むチャンスの到来である。
「さ、どうぞフーさん」
100階層を3階層にぶち込むのは、私よりもフーさんの方が相応しいでしょ。
「今やるのか?」
「え?やらんが?」
あれ?
誰も居ない時にちゃっとぶち込んで初めての釣り階層体験者を見物するんじゃなかったの?
私、そのつもりだったんですけど。
あれぇ?
「祭りは行かんのか?」
「・・・祭り?」
なんのことです?
「一斉討伐後の祭りだ」
「・・・行くつもりやったが?」
私、屋台を出さないから祭りには行かないつもりだったんですけど。
だって、ほら、人ごみにまみれるって苦痛じゃないの。
「おまえな、食べ歩きをするためにレシピをばら蒔いているんだろ。祭りなんて食べ歩きのためのものだろうが」
「そうながやけどさぁ。人まみれやん」
「祭りなんてそんなものだろ。行くぞ」
「えっ」
「写し身を出せ」
「ちょ、待ってって。今日初日で?一番人がうじゃうじゃおるやろうし、初日はパレードがあるき祭りはせいぜい半日で?」
「夜も通して屋台が出ていると言っていただろう」
「まさかのオールナイト!」
いや、まあ確かに三交代制で3日間やると聞いたけど、夜通し屋台を巡るなんて無理よ?
「私達のお腹には限りが、」
「ない」
「・・・・」
「食べたものは即魔力になる。写し身の胃袋に限界はない」
「り、理論上はそうやけど、今までも満腹になりよったやん」
「気のせいだ」
「うぇっ」
「満腹になるのは、生き物だった時の思い込みだ」
「ええー」
「ダンジョンマスターになって初めての食事は、際限なく貪り食ったのだろう?同じことだ」
そうですけどぉ、仕方がないじゃないの。
あれは、数年振りの食事だったんだから。
あー、まあ良く良く考えたらその通りなのよねぇ。
しかし、忘れてはいけない。
私達の写し身が満腹になる原因は思い込みだけじゃない。
私自身すっかり忘れていたけど、町が生み出す負の魔力の方が大きな原因だ。
町は入ってくる負の魔力が多すぎて、魔力への昇華が追い付かないのだ。
ダンジョンの中ならどうとでも出来るけど、ダンジョンから出てしまうと小さなダンジョンコアの欠片じゃ処理能力が足りない。
「町の負の魔力はどうするが?取り込まんようにするとか、無理で?」
負の魔力の吸収は、ダンジョンコアの欠片が当たり前に持つ機能である。
私にはどうしようも出来ない。
「・・・・それがあったな」
「フーさんも忘れちょった?」
「忘れていたな」
フーさんはふうんっと大きく鼻から息を吐き、深々と溜め息を吐いた。
「夜通し屋台で食い倒れは無理だな」
「うん、私もそう思う」
「取りあえず、夜をどうするかは現地で決めよう」
「え、祭りに行くのは決定事項なが?」
「うむ」
そっかぁ、決定事項かぁ。
ああ、フーさんったら座卓を寄せて布団まで引いちゃったよ。
どんだけ行きたいのよ、人ごみよ?
人がゴミのようにごみごみしているのよ?
「さあ、写し身を出せ。そなたは此処へ寝転がれ」
どんだけー。
「人ごみかー」
「よし、行くぞ」
はい、行くことになりました。
うきうきした、楽しげなフーさんには勝てなかったよ。
「「なんぞ、これ」」
フィスとその周りを遠目に確認出来るようになって、私とフーさんのぼやきが重なった。
フィスは周りをぐるりと壁で囲まれた、この世界では一般的な城壁都市なのだが、人とテントが町から溢れていた。
遠目には難民キャンプのような集団は、近づいて見るとテントの一つ一つはどうやらフリーマーケットの出店のようだった。
因みに、町の外での商売は商人ギルドの管轄外。
品質も出所も安心安全の出来ない無保証。
違法でもなければ合法でもない、無法地帯である。
「見てく?」
「商品になりたければ、見て行けば良い」
「あー」
やっぱり?
やっぱりそう思う?
なぁんか変な目で私達を見ているのがいるんだよねぇ、それも複数!
嫌んなっちゃうよ。
「此処、ダンジョンの町よ?ダンジョンのドロップ品だけ扱ってろよねぇ」
「まったくだ」
ダンジョンの町で人を扱うとか、邪道も良いところだよ。
ていうか、商品になるとかまっぴらごめんですから。
「こんにちはー」
いつも以上に賑やかで楽しげな雰囲気を感じながら、いつも通る門で門番さんにご挨拶。
「こんにちは。祭り見物か?」
「はい。兄ちゃんの食べ歩きがメインなんですけどね」
「フーは本当に料理熱心だな」
「ああ」
うん、フーさんってばお外じゃ無愛想な口の悪いキャラなのでこんなもんです。
家じゃ結構ノリの良い素敵な突っ込みさんなんだけどねぇ。
「宿はどこも満室だが、あてはあるのか?」
「「!?」」
宿がない、だと?
“日帰りで!”
“うむ”
容量に限りのある胃袋じゃ夜通し食い倒れなんて出来ない。
宿がないなら、どうしようもないよね。
「お腹がいっぱいになったら帰るようにします。ね、兄ちゃん」
「ああ」
「そうか。不審者には気を付けろよ」
「はーい」
「「おおー」」
いつも端にしか屋台のない門を通って直ぐの広場いっぱいに、屋台が並んでいる。
「よし、食うぞ」
「おー!」
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