第32話 焼き鳥屋2日目 2

 さて、始まりました屋台2日目。

 初っぱなから大盛況ですよー。

 フーさんが焼いてトレーに乗せてくれた物を、私が笹の葉に似た殺菌効果のある大きなサーの葉に包んで代金と交換でお客様へ渡す。

 うん、皆大体本数制限の10本で買っていくから考える事が減ってちょっと楽。


 「お待たせしましたぁ」

 「10本くれ。後、これ」

 「サービス券ですね。了解です」

 たまにサービス券を持ったお客さんがいるから、全部が10本って訳じゃないんだけどね。

 サービス券を持っている人には、サービス券と交換で1本追加っと。

 「兄ちゃん、サービス券!」

 「おう」

 10本焼き鳥が乗ったトレーに1本焼き鳥が追加される。


 「どうぞー」

 「おう」

 渡したらまた次のお客さん。

 「お待たせしましたぁ。あ、貴女方は」

 見覚えのある人達が来た。

 銭湯の洗い場で隣にいた冒険者の3人だ。

 「あ、」

 「お前ら開店遅すぎ!」

 「お陰で昨日は買えなかったじゃないか!」

 先頭にいた腰に長剣を吊るしたお姉さんが何かを言う前に、後ろにいた連れらしき兄ちゃん達がフーさんに向かって不満を口にした。

 文句を言っているようだが、口調は明るい。

 どうやらフーさんをからかっているだけのようだ。


 「兄ちゃん、知り合い?」

 「銭湯で話した程度のな。そっちは?」

 「こっちも一緒」

 「そうか」

 「「・・・・・」」


 さて、どうしようか。

 兄ちゃん達がお姉さん方に怒られている。

 彼女らのパーティーの男性陣は女性陣に弱いのだねぇ。

 それとも女性陣が強いのかな?

 一般人に絡むなと言ってくれるのはとても有難いのだが、注文は良いのだろうか。


 「私達は7人パーティーなの」

 男性陣の説教に参加していない弓を背負ったお姉さんが、のんびりと口を開く。

 「7人分、制限いっぱい頂ける?」

 「70本ですね、少々お待ちください!」

 大量買いは準備に時間が掛かるからね!


 フーさんが収納鞄から次々ストックを取り出してタレを付けては焼き直し、10本ずつトレーに乗せてくれた物をサーの葉でくるむ。

 「1人2000ギルになります」

 「はーい。ねぇ、ちょっと皆焼き鳥いらないの?私が全部貰っちゃうわよ?」

 『ダメッ!!』

 「ならお金、払って。2000ギルよ?」


 焼き鳥を一人占めされては堪らないと言い争っていた彼、彼女らは慌てて言い争いを止め、金を払って焼き鳥を手に入れた。

 「悪かったな、また来るよ」

 「はーい、ありがとうございましたー」

 長剣のお姉さんは少しバツが悪そうにしながら、パーティーメンバーを引き連れて去って行った。

 うん、なかなか愉快な人達だった。

 さて、次のお客さんお客さんっと。

 

 「すいません、お待たせしたしたー」

 「10本お願い」

 「はーい」

 さっと、用意してさっと渡す。

 複数人でまとめ買いじゃなかったら、それなりに早く出来るのだ。


 「あら、早いのね」

 お客さんも早いと思ってくれたようだ。

 「複数人でまとめ買いだと焼き直しにどうしても時間がかかってしまって。お一人ずつだと、比較的早く済むんです」

 「そうなのね。はい、お金」

 「ありがとうございましたー」

 お客さんの列はまだ長い、今日も忙しくなりそうだ。


 「あ、おにーさん達、横入りは厳禁ですよー。最後尾ってプラカード持っててくれてるお姉さんとこに行ってください。じゃないと、家の兄ちゃんに強制排除されちゃいますよ」

 昨日も、ズルして横入りしようとしたのが何人かフーさんの投石の餌食になっているからね。

 「あ、無視です?知りませんよー」

 「しっ」

 はい、フーさんが速攻で実力行使に出ました。

 「「ぎゃっ」」

 『おおー』

 フーさんお得意の石ころでベッドショット。

 一体どんなコントロールをしているのか、フーさんの投げた石はお客さんには当たらず横入りの2人の頭にジャストミート。

 横入り犯はひっくり返り、私とお客さん達はフーさんに称賛の声を上げる。


 ひっくり返った男達は、通りがかった衛兵が回収して何処かへ連れていった。

 横入りは別に犯罪じゃないので、注意位で男達は解放されることだろう。


 “ねぇ、フーさん”

 “なんだ”

 “衛兵の詰所に差し入れ持って行かん?”

 我々、昨日から彼等の世話になりっぱなしである。

 “そうだな、100本位持って行くか”

 “さんせー”

 勿論、おおっぴらに取り置きをすると他のお客さん達から顰蹙ひんしゅくを買いそうなのでこっそり数本ずつフーさんが収納へinしていく。


 「いらっしゃいませー」

 後は屋台を片付けてから衛兵の詰所へ行けば良いでしょ。

 ま、衛兵の詰所は町のあちこちにあるんだけどねぇ。

 屋台2日から一番近いところは広場にあるから、帰り道に寄ってもあんまり遠回りにならないから助かる。


 「ありがとうございましたー」

 最後のお客さんを見送る。

 17時きっかりに終わる事は出来なかったが、焼き鳥を売るのは17時迄に並んだ人と閉店時間近くに言い続けたお陰で、昨日より早く終わる事が出来た。


 「さっさとゴミを片付けて、差し入れして飯に行くぞ」

 「おー!」

 ゴミを種類毎にまとめ、浄化をぶちかまして屋台はそのまま仕舞う。

 はい、片付け終了。

 ゴミ捨ての前に最寄りの衛兵詰所へGo。


 「「すいませーん」」

 詰所の前で立っている衛兵のおじ様方に声を描ける。

 「おう。ん?お前ら気まぐれ屋か。どうした」

 あら?

 私達ってば衛兵に知られちゃってるのね。

 まあ、昨日から見回りで気にかけてもらっているし、フーさんに撃退された横入りを回収してもらっているから、知られていない方がおかしいか。


 「差し入れです!」

 「明日も世話になる」

 「違うって、兄ちゃん。これから、屋台を出す度にお世話になります!」

 「ああ、確かに。お世話になります」

 「「ぷっ」」

 「あははははは、面白い事を言う坊主どもだな」

 「まあ、確かにお前らの屋台は、昨日から色々あったが自分から言うなよ」


 受けた。

 何がこの人達のツボに嵌まったのか良く分からないけど、嫌な感じはしないから問題は無い。

 「差し入れは、有り難く頂く。ありがとう」

 「ありがとう」

 「「どういたしまして!」」

 気持ち良く受け取ってもらえると、気分が良いね。

 『気を付けて帰れよー』

 衛兵さん達に見送られて帰路へ、ではなくゴミ処理場へGO。


 「衛兵さん達と良い関係が持てそうだね」

 「ああ。餌付けは良い手段のようだ」

 「餌付けって、言い方が悪いんじゃない?」

 「そうか?」

 「悪いって。差し入れって言ってや、差し入れって」

 「考えておこう」

 「お願いよー」

 

 多分、フーさんは考えるだけでそれ以上の事はしないだろう。

 けどまあ、衛兵さん達に餌付け云々が伝わらなかったら構わないだろう。

 多分。

 そんなこんなでゴミ処理場でゴミを引き取ってもらい、銭湯へ行くまでの道すがら、客で賑わっている店を選んで突入。

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