第26話 講習の2日目

 「・・・おはようございます」

 「・・・おはよう」

 もそもそ起き出して、今日の朝ご飯は昨日炊いたご飯で卵かけご飯。

 フーさんはさらに納豆と刻みネギを混ぜて乗せていたけど、私は納豆が無理なのでちょっと距離を取る。

 おかずはサバの味醂干し、揚げと大根の味噌汁。


 食べ終わったら、商人ギルドへ直行。

 今日は見学と試験。

 見学は兎も角、試験は憂鬱だ。

 

 昨日講習を受けた会議室へ集まり、全員が揃った所で商人ギルド職員に案内されて屋台の並んだ通りを過ぎ去り、町の外れへ。

 屋台の区割りやらは試験に合格してから、説明するらしい。


 これから私達が行くのは、ゴミの集積所。

 集積所の近くには貧民街があり、領主主導の支援策として貧民街の住民を中心としたゴミの処分事業をしている。

 領主は貧民街の元締めをゴミ処分事業商会の事業主として雇い、元締めは住民を従業員として雇う。

 1日に1度、貧民街の住民が町のあちこちに設置されたゴミ置き場からゴミを回収し、そこで更に細かく分別し、再利用とスライムを使った最終処分が行われる。


 「スライム?」

 「再利用出来ないものは、スライムの餌にするんです。スライムから採れるスライムゼリーは様々な物に加工可能なので、幾らスライムがいても足りないんです」

 「へぇ」

 包み紙やら簡易の器やらに、スライムゼリーは引っ張りだこで、貧民街のゴミの集積所はスライムの養殖場としても稼働しているそうだ。

 領主の力を借りなくても、貧民街はある程度自立出来るような制度作りをしているようだ。

 

 因みに、ゴミ置き場では燃えるゴミ、生ゴミ、燃えないゴミ、その他で大雑把に分けられる。

 一般市民は大きなゴミや、大量のゴミが出た場合は直接集積所へ持って行く。

 屋台から出たゴミは、ゴミ置き場ではなく直接集積所へ持って行かなくてはならない。

 決まり事なので守らなければだけど、ちょっと面倒臭い。

 

 「生ゴミでしたらお金を払う必要はありませんが、それ以外ですと重さによって処理にお金がかかりますので、注意をしてください」

 壁に囲まれた一画。

 全員で、門の受付で名前と要件を帳面に書き込む。

 ゴミの持ち込みがある場合は、この受付でゴミの種類と重さも記録してお金を払うらしい。

 此処からのゴミの運び込みと細かな分別は、集積所の従業員がやってくれる。


 今回、私達は見学なので普段は入らない受付けの奥まで、入れる。

 これは新規に屋台を出そうとする者の特典なのだろうか?。

 ちょっと楽しみ。


 「広いねぇ」

 「そうだなぁ」

 商人ギルド職員の案内に着いて行きながら、きょろきょ辺りを見回す。

 敷地の中には幾つか小屋と大きな倉庫のような建物が建っており、何ゴミ用の小屋なのか分かりやすいように看板が取り付けられている。

 倉庫のような建物は、見学出来ないそうだ。

 

 私達が見せてもらったのは、燃えるゴミの中でも紙ゴミを処理する為の小屋。

 「職人がいっぱい」

 此処の世界の紙は和紙のような紙なのだろう。

 集められた古紙はインクを洗い落とし、何かの液体でどろどろに溶かされ、新たな紙としてすかれている。

 「いっぱいだなぁ」

 いっぱいだ、いっぱいだとフーさんと言い合いながら、せっせと働く者達を眺める。

 他の見学者達も私達と同じ様に珍しそうに見ているので、フィスの住民にとっても集積所の中という場所は珍しいのだろう。


 「あまり長居しても邪魔になるだけですから、そろそろ外へでましょうか」

 商人ギルド職員に促され、のそのそ列になって小屋の外へ出る。

 「このように、再利用出来るものは全て再利用します。ですが、中にはどうしても再利用出来ない物もあります」

 

 そう言って案内されたのは、一際大きな小屋。

 中は穴が幾つも整然と掘られ、子供や大人がせっせと穴に細かな何かを放り込んでいる。

 穴の中には色とりどりのスライム。

 穴毎に色が違っていて面白い。

 「面白いでしょう?残念ながら、何をどうすればこうなるのかは、秘密だそうです。私達も分かりません」


 きっと、色毎に違った特徴があるんだろうねぇ

 あの白いの、何やろ


 再利用出来ない物が餌というだけあって、見るだけで何を食べているのか分からない。

 別の穴では赤かったり、灰色だったり、茶色に黒だったりしている。

 うん、謎!

 でも、カラフルな葛餅みたいなぷるぷるした見た目がとても面白い。


 家で、スライムをペットにするのもいいかもしれない。

 ダンジョンマスターだからこそ試せる事だよねぇ。


 「ナナ」

 「あっ、ごめん!」

 いつの間にか、スライム小屋の中には私しかいなかった。

 慌てて小屋から出る。

 「すいません、お待たせしました」

 フーさんだけならごめんの一言で済ませるんだけど、違うので深々と頭を下げる。

 「いえいえ、スライムに夢中だったのは貴女だけではかなったので、大丈夫ですよ」

 フーさんと商人ギルド職員以外スライムに夢中だったようで、そっぽを向いて照れ笑いしている。

 「私だけ出なくて、良かったです」


 一安心、一安心


 「さ、では皆さんギルドに戻って、最終試験ですよ」

 『・・・・・』

 試験!

 すっかり忘れていたよぅ。


 忘れていたのは私だけではなかったようで、フーさんも含めて、ヤバっと言いたそうな表情だ。

 ですよね、すっかり忘れていたよね。

 色々見せて忘れた所で思い出させるなんて、酷すぎる。

 いや、だからって試験を受けないって選択肢は無いんだけどねぇ。


 全員、テンションを低くしながら商人ギルドへ戻り、休む間もなく試験を受けた。

 休憩は試験が終わって、採点をしてくれている間に昼ご飯と共に。

 私達のご飯は、2人で作ったサンドイッチ。

 他の人達は、外に食べに行った。

 

 「では、合格者を発表します」

 30分後、ずぱぁっと試験の結果が発表された。

 私とフーさんは無事に合格した。

 正直、ほっとしたよ

 不合格だった人は、また次回の講習を受ける事になる。

 

 不合格だった人達が部屋から退室してから、仮ギルド証を回収されて本式のギルド証を手渡して貰った。

 そうそう、不合格者の仮ギルド証はそのまま彼らの手元にある。

 合格を目指す限り、仮ギルド証は有効らしい。


 「鉄だねぇ」

 「鉄だなぁ」


 商人ギルドのランクは、鉄、銅、銀、金、魔銀の5種類。

 それぞれランクに応じた金属で作られたドックタグのような物に、商人ギルドの釣り合う天秤に乗った硬貨のマークと名前、どこような商売形態なのか簡単に刻まれている。

 私達の固定の店を持たないので、一番ランクの低い鉄製。

 売上に税金はかからないが、その代わり出店する度に出店料を払う必要のあるランクだ。

 ギルド証を握って魔力を通したら、“私”のギルド証が完成。

 更に、その場で年会費1人銀貨1枚を徴収された。


 「ギルド証は、常に見えるように身に付けて下さいね?」


 あ、常にですか、はいはい

 

 言われてみると、ギルド職員も職人用のギルド証を見えるように身に付けている。

 一緒に渡された茶色い革紐にギルド証を通し、首にかける。

 さあ、これで私達も商人ギルドの一員だ。

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