第12話 一大合同イベントがスタートしましたよ?

 「出た、出たよぉ」

 一応言っておくが、出たのはお化けでも宿便でもない。

 ポーションである。 

 ついさっき、初めてポーションの入った宝箱が出た。

 ポーションの瓶をわいわい騒ぎながら回し見ているマッチョな男達に、むさ苦しさと微笑ましさを同時に感じる。


 瓶の中を満たす液体の色は青。

 どうやら魔力ポーションのようだ。


 因みに、体力ポーションは緑色で、治癒ポーションは黄色、回復ポーションは紫色。

 飲んでもかけても効力を発揮するが、飲んだ方が断然効きは良い。

 そしてこれが何より重要な事なのだが、薬師が作ろうが、錬金術師が錬成しようが、ダンジョンの宝箱からでようが、ポーションは不味い。

 薬師が作った物はまだアレンジのしようがあるのだが、ましになるだけで結局不味い。


 「頑張って魔物を狩りまくってや」

 討伐イベントが始まるまで、ポーションの出現率は少し上げている。

 「って、帰った!?」


 びっくりした。

 初ポーションを出した人達、態々帰還石を使ってダンジョンを出てしまった。

 「えー?なんでぇ」

 そこは、ポーション目当てに魔物を狩りまくるんじゃないの?

 予想が外れて、私、困惑しかないんですけどぉ。

 


 これは後から知った事なのだけど、彼らは冒険者ギルドにポーションの出現を報告するために戻っていた。

 この時の私はそんな事より知らなかったから、がっかりしてついふて寝してしまった。

 なので、冒険者達がポーション狩りをしている事に気がついたのはこの日から3日後の事だった。

 


 「あふ」

 朝です。

 「・・・・おはようございます」

 小型モニターの向こうにいる存在に声をかけ、座卓の上に置いてから身支度を済ませる。

 

 そうそう、このダンジョンって実は四季があるのよね。

 今まで暑かったんだけど、最近は朝夕が少し肌寒くなってきた。

 夏が終わろうとしているのだろう。


 昨夜の味噌汁を温め、トースターでバターロールを焼く。

 「・・・・ベーコンエッグでも焼くか」

 此処に来た当初は出来合い物ばかり食べていたが、今はきちんと自炊もしている。

 極々たまには、本を見ながら手のこんだ料理を作ったりもしている。

 ま、朝はだいたい手抜きだけど。

 「バターinのロールパンは焼くががベストやねぇ」


 食後は家の中を歩き回って、浄化であっという間に掃除を終わらせる。

 洗濯物を干し、庭に作った家庭菜園の野菜を収穫し、草を引っこ抜く。

 芋の収穫は、もう少し先。

 木の葉が紅葉してきたら、ニンニクと玉ねぎを植えよう。


 朝夕が肌寒くなったとは言え、動けば汗をかく。

 家の中に入る前に浄化を使って全身をすっきりさせ、靴下を脱いで洗濯機へぶち込む。

 私、家の中では素足派なので。


 「今日のダンジョンはどうかなー」

 モニターをつけると同時に地図を開く。

 「んん~?」

 冒険者達が何時もと違う動きをしていた。

 何時もなら、ばらばらと好きな所で狩りをしたり採取をしている冒険者達が、ダンジョンの中で輪を縮めるように範囲を縮小しながら中央に向かって進んでいる。


 さらに言えば、妙に統率のとれたお揃いの装備の男達もかなりいる。

 これは、軍の兵士か騎士だろう。

 

 「あー、今日が合同イベントの初日か」

 良く見れば、輪が縮まる毎に冒険者を示す点が散らばって来ている。

 強い冒険者は中央を目指し、そうでもない冒険者は少しずつ離れて取り零した小物を殲滅しているのだろう。


 兵士と騎士?

 流石に職業軍人は伊達では無いんだろう。

 騎士が兵士を指揮して中央を目指している。


 「お、負の魔力が微妙に減った」

 減ってもまたじりじりと増えているのだけど、まだ減るスピードの方が早い。

 「おっしゃ、いいね!頑張れ冒険者達!!」

 彼等を応援する声に力が入る。


 下層に全く冒険者が居ない事は不満だけど、負の魔力を減らしてくれるなら、もうなんだって良い。

 あれ?

 今不意に思ったんだけど、軍人達も普段ダンジョンに入っているのかな?

 こんなお揃いの装備の人達、見たことがないけど。

 まあでも、魔物狩りに戸惑いが微塵も無いから、普段からダンジョンに入っているんでしょ、多分。  

 

 「よし!イベント期間限定で、宝箱の出現率上げちゃる!」

 ついでに中身もちょっとオマケしちゃう!

 おお!

 負の魔力の減るスピードが爆上がりした。

 冒険者も軍人も張り切っている。

 これなら、101階層の床に敷き詰まっているダンジョン核の欠片を幾つか取り込んで減らせるかもしれない。


 「行け!頑張れ!そこだー!!」


 


 「なあ、おい」

 「ああ」

 「「やっぱり、おかしい」」

 私が宝箱の出現率と中身をいじくり応援してから少し後。

 戦闘が終わる度に出てくる宝箱と、普段1階層では出て来ない中身に冒険者達がおののいていた。

 「ギルドマスター達が言っていたことが現実味を帯びてきたな」

 「ダンジョンマスターの復活、若しくは再配置か」

 私は気付いていなかったのだが、私の様々なやらかしもあって、冒険者ギルドの一部で私の存在が噂されるようになっていた。

 「おいおい、ダンジョン内の会話は聞かれている可能性があるんだ。気を付けろ」

 「それ、リーダーが言えることか?」

 「あ、」

 「あなたが一番に気をつけてください」

 「すまん」

 ちょっとした漫才もあったようだが、私は知らない。



 「おお!さっすが上位の冒険者達は動きが違うねぇ。あ、この人らぁってアレやん」

 さくさく魔物を狩っていく冒険者を取っ替え引っ替え節操なしに覗き見をしていた私は、妙に覚えてしまった冒険者達を見つけた。


 この人達、ポーションを初めて見つけて、即行で帰還石を使ってダンジョンの外に出た人達なのだ。

 この人達が速やかにギルドへ報告してくれたお陰で、ポーション狙いで魔物を狩る冒険者が目に見えて増えた。

 「お礼をせんとね」

 依怙贔屓、依怙贔屓。

 この人達、ベテランで20階層まで行ってくれる上位の冒険者なのに、収納鞄を持っていないのよね。

 一階層では出していない中型の収納鞄を宝箱の中へ入れてあげよう。

 それも、人数分。


 「早く次の魔物に行き当たらんかなぁ」

 魔物に出会わない?

 それなら、魔物をプレゼントしてあげれば良いよね。

 単品のオークをプレゼント。

 そして、宝箱をどーん。


 「あれ?」

 宝箱から出て来た人数分の収納鞄に、ありえないとわいわい嬉しそうに騒いでいる男達が、妙な事を言っていた。

 “これ、絶対見られているだろ!?” 

 とか、

 “何考えているんだよ、ダンジョンマスター!?”

 とか。

 おや?

 私の存在っていうか、ダンジョンマスターが居るって知られている?


 あー、まあそうだよね。

 私が此処に来てから、このダンジョンの仕様が色々変わっているし、これからも変化があるだろうしねぇ。

 宝箱から出て来る食べ物だって、此処の世界人達には違和感だらけだろうし。


 ・・・・日本人の転生者、来ないかなぁ。

 来たら、依怙贔屓して色々出すのに。

 いや、ほら、まずは食事を美味しくしてほしいからさ。

 私、食事が美味しくなってから食べ歩きしたいのよ。


 まあ、私はダンジョンから出られないけど、絶対何か方法がある筈だから。


 「元日本人を期待するより、現地の人に頑張ってもらう方が早いかなぁ」

 どっちが早いかな?

 ・・・・どっちでもいっか。

 「私、まだ町に行く気にはならんしなぁ」

 わいわい騒いでいる冒険者達を微笑ましく見守りながら、私は溜め息をはいた。

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