第2話 選択肢は無いんですね
「と、言うのがこれから貴女に行って頂く世界のダンジョンにまつわるの神話です」
私の目の前のソファに座った子供は、そう言って無駄に装飾の多い本を閉じた。
此処は、ソファしかない謎の白い空間。
私は、気が付いたらソファに座って子供と向かい合っていた。
訳分からないよね!
「つまり?」
「魔力の循環をテーマに創られた世界なのですが、人が増えすぎた所為で循環バランスが崩れて滅びへと向かっている世界です」
「なんて事なの!」
この子供、とんでもない事を言いやがった。
病を患って長い闘病生活の末に死を迎えた私に、滅び行く世界へ行って魔力循環バランスを整える手助けをしてくれと。
あわよくば、滅びを止めてくれと。
無茶は言わんでもらいたい。
滅び行く世界の魔力循環バランスを司っていた負龍が封じられて以来、その役目を担っているのは各地に点在するダンジョン。
子供は、私にダンジョンマスターになれと言う。
それも、役目をこなせなくなった負龍を封じた世界を浸食するダンジョン。
ダンジョンの中は、過去1人だけいた終わりのダンジョンのダンジョンマスターが完成させているので面倒な事は無い。
ダンジョンマスターは、ダンジョンの魔物に襲われる事は無い。
ダンジョンマスターは、本人が死を望まない限り死なない。
コストは掛かるものの、元の世界の物を取り寄せられるようにする。
渋る私に、子供はダンジョンマスターになることのメリットを並べる。
「デメリットは?」
「・・・・・」
メリットがあれば、デメリットがあって当然だろう。
「デメリットは?」
「ダンジョンの外に出ることが出来ません」
「うん」
「ダンジョンマスターは人にとっては敵になるので、常に命を狙われています」
「他には?」
デメリットが二つだけって事はないでしょう。
「ダンジョンの魔物はダンジョンマスターを襲いはしませんが、コミュニケーションは不可能です」
それはつまり、ダンジョンマスターになれば私は孤独という事ですね。
「以前のダンジョンマスターが精神を病んで自死を選んだので、貴女の精神に手を加えようと思っていたのですが、」
おい、勝手に人をいぢろうとするなよ。
「最後まで聞いてください」
「どうぞ」
きちんと説明してくれるのなら、聞きますよ?
「貴女の精神はとても強靭だったので、必要ありませんでした」
「なるほど、」
それって私、喜んでも良いのかしら?
正直言ってとても複雑。
「正直に申し上げます」
「?」
なんだろう、良い予感がしない。
「貴女のダンジョンマスターへの就任は、決定事項なのです」
「は?」
え?
私の了承無しに、私の大切な死後の過ごし方が決められたってこと?
冗談じゃない!
「私は、来世に暴飲暴食をする夢を託していたんですよ!?」
「え?」
「私は、壮絶な食事制限の末に、最期には何も食べられなくなって点滴で命を繋いだ末に死んだんてすよ!」
そんな私の、食への執着心は強い。
暴飲暴食、それが来世に託した私の未練。
「いえ、あの、ダンジョンマスターになれば今世な延長で、未練の解消が出来ますよ?」
「・・・・・・」
そう言えば、元の世界の物を取り寄せられるようにすると言っていた。
確かに、今世で未練の解消が出来るのなら、不確かな来世に託す必要はない。
「こちらの食べ物を、取り寄せる事も可能です」
「乗った!」
食への欲求が満たされるのなら、躊躇う理由はない。
「太く長く、ダンジョンマスターを勤めてみせようじゃありませんか!」
「あの、ダンジョンの浸食も何とか止めて頂きたいのですが」
「それは、努力目標とします」
私、出来るかどうか分からない事は約束しません。
「そうですか。えっと、ダンジョンマスターになって頂けるんですね?」
「はい」
「ありがとうございます!」
私に選択肢は無いんでしょ?と思わなくは無いけど、礼を言われて嫌な気はしない。
「では、こちらを御覧下さい」
「?」
子供が、紙を差し出した。
個人付与スキル
異世界常識、言語理解、鑑定、無限収納、魔法
制御、生活魔法
ダンジョンスキル
ダンジョン作成、ダンジョン管理、魔物作成、
ダンジョン地図、ダンジョン転移、ダンジョン
ショップ、イ○ンモール
私に此処で付与してくれる諸々のスキルの一覧らしい。
個人スキルは後々、ダンジョンに貯まった負の魔力を使って増やせるそうだ。
好きな属性の魔法を取って使い倒すのも良い。
だが、それよりも私に取って大切なのはイ○ンモールだろう。
実に素晴らしい。
素晴らしいのだが、私はイ○ンモールだけじゃ満足しないよ?
私は、我儘で欲張りなの。
「ネット通販も、よろしくお願いします」
「・・・・分かりました」
よっしゃ、私の食生活がより良くなる事が決定致しました!
子供の手でダンジョンスキルの最後にネット通販と書き加えられる。
「では、此方をお受け取り下さい」
「!?」
子供から紙を受け取ると、紙は光を放ち崩れて消えた。
「あれ?」
紙が崩れて消えたその途端、私の中に今まで無かったものが現れた。
しかもそれは、今まで私にあったものであるかのように、しっくり収まっていて違和感が無い。
「これで、貴女の準備は整いました」
「?」
何でも、私は魂のみがこの良く分からない空間に呼び出され、体はダンジョンマスターとして造られたもので、体の用意だけは既に出来ていたようだ。
まあ、私には選択肢が無かったのだものね。
ある程度の準備は出来ているよね。
「後は、ダンジョンコアに触れれば貴女は正式に終わりのダンジョンのダンジョンマスターです」
「はい」
どうやら、今はダンジョンマスター候補というくくりらしい。
まあ、私の他に候補はいないみたいだけどね。
「ダンジョンに、行かれますか?」
「勿論」
「もう貴女と会える事はありませんが、私は貴女に期待しております。行ってらっしゃいませ」
子供が深々と頭を下げる。
瞬きをすると、私はまた妙な空間にいた。
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