第40 話 素晴らしきはお魚階層!

 「マジ?」

 「ああ」

 いや、うん、何度確認しても直ぐには信じられないよ。

 「もう一回お願いします」

 「うむ」

 フーさんも、また神妙な顔をして重々しく口を開く。


 「115億」


 聞きましたか?

 「もう一回」

 「115億」

 「もう一回」 

 「115億」

 「・・・・素晴らしい!」


 一階層増やすために必要な負の魔力は100万ぽっち。

 地形をいじり倒して整備しても精々1億。 

 ドラゴンやベヒーモス等のお高い魔物を出しても10億はいかない。

 それなのに、良くもまあ魚釣り階層で115億も使えたと正直感心してしまう。

 「凄いね!」

 「凄いのはそなたの世界の生き物だぞ?」

 「そうなの?」

 「ああ。しらす一匹に3000使った」

 「さんぜんっ!?」

 あんなちっさなしらす一匹に3000!

 いや、確かに彼方の物を取り寄せると割高になるがなかなかの高値だ。

 大変素晴らしい。

 あ、因みにしらすって言うのは稚魚全般の事なので特定の魚の事ではないので、悪しからず。


 「魚凄い!」

 「自然淘汰されて、1日あたりの負の魔力の消費量もしらすだけで3億増えた」

 「どんだけ淘汰されてんのっ!?」

 此処の階層にいる魚は魔物ではないので、魔物がしない食べたり食べられたりがある。

 どんどん弱い魚が食べられて数を減らし、減った分はどんどん補充される。

 負の魔力の消費量は鰻登り。

 そして私は思うのだ。


 「ねぇ、フーさん」

 「ん?」

 「この階層さ、冒険者に解放したらどうなるかな」

 「負の魔力の消費量が爆上がりするだろうな」

 「ですよね」

 「「・・・・・・」」

 冒険者を入れないのは勿体ないよね。


 「何階層に入れ込む?」

 「3階層」

 沢山の冒険者に来て欲しいが、2階層だと難易度が低すぎるでしょ。

 子供とか一般人とか戦闘能力の低い人が今以上にほいほい来るようになって、不注意で死なれても困るからね。

 「そうか」 

 「うん」

 「階層の移動は一斉討伐が始まってからにしろよ?」

 「う、うん」


 分かっているよ?

 一斉討伐が始まったら暫く1階層以外から人が消える。

 人が居ないの時を狙って入れ込まないと、冒険者達が驚いてパニックになっちゃうからね。

 人が居ない時を狙って3階層へ入れ込まないとね。


 「ただな、ナナよ」

 「なに?」

 「冒険者共は、魚を釣ると思うか?」

 「あー、どうだろ」

 終わりのダンジョンは、内陸にあり海は遠い。

 川があれば川魚を取ったりするだろうが、魚に対して馴染みは薄いだろう。

 魔物がいないこの階層で、冒険者達が魚釣りに勤しむかどうかは謎に満ちている。


 「この階層に来た時に説明した方がえいかもね」

 「うむ。チュートリアルと言うものだな」

 「そうそう。釣り道具のレンタルとかした方がえいかな」

 「釣り道具なぞ、持っておらんだろうからな」

 「あー、そうかも」

 手掴みとか、槍で刺して捕ってそうなイメージがある。

 まあ、それもありっちゃありなんだけどねぇ。

 「魚をきちんと料理出来るかも問題だ」

 「確かに」

 川魚って、塩焼きのイメージしかない。

 海の魚もうちのダンジョンの周辺国じゃ、干物が良いところだろうし。

 「料理本、置くようにするよ」

 

 2人で、あーでもないこーでもないと言いながらタブレットをぽちって設備を追加していく。

 この階層へ初めて来た者に対して使い方と注意事項を知らせる為のチュートリアル。

 複数ある階段の側に釣り道具とその他オプションの貸し出しを行う施設。

 対価は負の魔力を昇華するための魔力。

 各ポイントを繋ぐための転移陣。

 沖に停泊する船には、転移陣でしか行けない。

 さらに、各転移陣の付近にレンタル施設を追加で設置。


 1億5000万程追加で使ってしまったよ。

 ここまで負の魔力を大盤振る舞いしたのは初めてだけど、実に気持ちが良かった。

 でもね、こんなにバカスカ使ったのに、9が沢山並んだ負の魔力の残量は一瞬減ってまた直ぐに元に戻ってしまった。

 まあ101階層、いや今は102階層になったフーさんの本体がいる階層の床を埋める欠片が、幾つか減ったからそれはそれで良い事だと思う。


 「これを3階層に入れ込んで、いったいどれだけ負の魔力が消費されるか楽しみだな」

 「うん、やっばいね。ちょー楽しみ」

 「だが今は私達が独り占めにしてしまおう」

 「ぴっちぴちの魚を期待してます!」

 「・・・まさかそなた、釣りをしないつもりか?」

 「え?まあ、私魚は好きやけど釣りは興味ないし。やったこともないし」

 「初心者用補助付き万能釣竿の性能を試すチャンスではないか」

 「ええーっ」

 

 釣竿を押し付けられる。

 フーさん監修、誰でも使える初心者用補助付き万能釣竿。

 因みに音声案内付き。


 「え?餌?持ってないけど」

 釣りするつもりはなかったからね。

 「ほれ」

 「おぉう」

 すいっと差し出された入れ物の中には蠢くミミズ。

 あ、これが餌なのね・・・・。

 「あ、ありがとう」

 しっとりむにょりとしたミミズを摘まみ上げ、音声案内に従って針にかける。

 「・・・・・・」

 ミミズは平気な私だけど、針に刺すのは地味に心にダメージがあった。


 ぽちょんと針を海に沈める。

 あ、今いる所は桟橋です。

 フーさんと二人並んで椅子に座って魚が掛かるのを待っている。


 「「!?」」

 私とフーさん、ほぼ同時に魚が掛かった。

 早くない?

 魚が掛かるの早くない?

 針を落としてから10秒も経っていないんですけど!

 「合わせて、巻き上げろ!」

 「合わせるって、何を!?」

 「我の真似をせよ」

 「りょりょ、了解」

 

 フーさんはぐんっと引くように竿を立て、それからリールを巻いている。

 私も真似をして竿を立て、張り切ってリールを巻く。

 竿が大きくしなり、糸がキリキリ言っているが大丈夫。

 初心者用のこの竿は、折れない切れない仕様になっております。


 「おおっ」

 キリキリ巻いて、釣れたのは小ぶりな鯵。

 初めての釣果、どんな大きさでも嬉しい。

 「フーさん、つれっ。ほ?」

 喜びを報告しようと振り返ると、フーさんも釣り上げていた。

 いや、でも、それって釣り上げるようなものなの?

 餌、私と同じミミズを使っていたよね!?


 「何で海亀?」

 30センチくらいの、まだ小さな海亀。

 釣れちゃってるけどさ、海亀って釣れるものなの?

 「知らん」

 フーさんはその海亀を針から外し、ブーメランを投げるように海へリリース。

 流石に食べる気にはならなかったようだ。


 「・・・・・」

 黙って針に餌をつけ直して再チャレンジ。

 私も小アジを針から外してもう一度。 

 それから渡しが釣るのは何故か小アジばかり。

 桟橋から海を覗くと他の魚も見えるのに、不思議な話しだ。

 「・・・・・・」

 フーさんの方を見ないようにしつつ、小アジを針から外してクーラーへぽいっと投げ込む。

 あんまり小アジばかり大量に釣れるもので、飽きてしまったから釣竿を置く。

 別の事をしようと思います。

 自分が釣り上げた小アジの頭を落として開きを生産します。


 え?フーさん?

 いや、あのね、フーさんもちゃんと釣り上げているの。

 最初が海亀でしょ、オウムガイ、カツオノエボシ、大きなヤドカリ他にも食べれるのか食べられないのか良く分からない生き物が色々と釣れた。

 今も眉間にシワを寄せながら釣糸を垂らしている。


 「河豚か。・・・魚ではあるが、毒持ちではな」

 ぽいっと河豚を海へぶん投げ、重々しい溜め息を一つ。

 釣竿を片付けて無言で私の作業を手伝い始める。

 「お互い、ビミョーな成果やね」

 「そうだな」

 私は小アジばかり。

 フーさんは食べれるのかビミョーなものばかり。

 初めての釣り体験は、良く分からない結果になりました。


 小アジ?

 さばいた後に骨を取って、フーさんが小アジの南蛮漬けを作ってくれたよ。

 大変美味しゅうございました。

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