第47話 万を辞しての階層挿入?

 「ただいまー」

 「うむ」

 家に帰って、即効で写し身から自分の体に戻る。

 フーさんもいつの間にか若い姿から壮年の姿に戻っていた。

 うん、やっぱり自分の体が一番だ。

 写し身はねー、そっくりなんだけど何だか違和感があるんだよねー。

 

 写し身を収納し、布団を片付けてダンジョンにいる侵入者の有無を確認する。

 周辺国連合は揃って一斉討伐後のお祭り中なこともあり、侵入者は一階層に数人いるのみ。

 いるのかよ!と、突っ込みたいけど我慢である。


 「今、一階層にしか人おらんき、魚釣り階層ぶち込む?」

 「一階層にはいるのかよ」

 あ、フーさんが突っ込んだ。

 「おるねぇ。ほい、タブレット」

 階層を差し込むかどうかの確認画面を表示して、差し出す。

 「そなた、早速ぶち込むつもり満々ではないか」

 受け取ったフーさんは少々呆れ顔だ。


 「早い方が良くない?」

 「それはただ単にそなたが早く入れ込みたいだけであろうが」

 「ばれた?」

 「当たり前だ」

 フーさんの指摘に頭を掻いて照れ笑い。

 「だってさ、冒険者達が右往左往するところが見たいじゃない」

 

 絶対、絶対に彼らは魚釣り階層に驚いてくれるよ?

 本当に魔物が出ないのか疑心暗鬼になりながら階層中を無意味に探索して、行き先を指定出来たり、ランダムだったりな転移陣に頭を抱えてくれるよ?

 見慣れない海の魚に戸惑って、なんの意味があってこんな階層を作ったのかって私達の思惑を無駄に深読みしてくれるよ?

 フーさんが楽しく魚釣りをして、私がほくほく負の魔力を消費するための階層でしかないのに、その徒労感が見ていて最高に楽しくない?


 「・・・・・そなた、」

 「ん?」

 「質が悪いな」

 「えーっ!?」


 ちょっと、何その評価!

 酷い!

 酷すぎるよフーさん。

 もっと素敵な評価をしてください。


 「性悪?」

 「素敵さの欠片も無いよ!」

 酷いっ。

 「はいはい」

 「ちょっとぉ」

 私の抗議は聞き入れてもらえず、フーさんは呆れた顔をしながら魚釣り階層を2階層と3階層の間に差し入れた。

 後は結果が出るのを待つのみなんだけど、何だか釈然としないのは私だけでしょうか?

 


 まあ、細かい事は置いておいて2日後。

 ついに、ついに新3階層に冒険者達が踏み込んだ。

 「きたーーーーーー!!」

 「来たな」

 「怯えちょるわぁ。やっぱりチュートリアルは一人づつに分けて正解やったわぁ」

 モニターは人数分に小さく区分けして、猫に絡まれた子ネズミのようにぷるぷる震える冒険者達を見て悦に入る。


 ああ、イイッ。

 仲間達と引き離され、見慣れない場所で一人怪しい声を聞かされる冒険者達の不安げな表情は実に良い。


 「あっ、今度は一気に複数組。いらっしゃいませー。やっぱり新人さんよりもベテラン勢の方が反応面白いよねっ」

 「そなた、趣味が悪いな」

 「こんな怯えちゅうのに、自分らぁが来た所が危険のきの字もないお遊び階層やって分かったらどんな顔するがやろー!」

 「おい」

 「え?なに?ごめん、聞いてなかった」

 テンション上がりすぎてフーさんの言うこと全然聞いていなかったよ、ごめんね?

 

 「若僧の困り顔で喜ぶな」

 「確かに、フーさんの言う通り新人さんよりもベテラン勢の困り顔の方が面白いよねっ」

 「そういう問題じゃない」

 「え?でも、フーさんやって若もんの困り顔よりもおんちゃんらぁが右往左往しゆうが面白いやろ?」

 フーさんが同じ穴のムジナだって事、分かっているんだからね!

 「・・・・・・」


 「ほらほら、チュートリアル終わったのが釣竿片手に出て来たで」

 彼らが持っているのは当然初心者用万能釣竿である。

 初心者冒険者もベテラン冒険者も関係なく、全員がもれなく初心者用の釣竿である。

 だって、誰も彼もが釣り初心者なのだもの仕方ないよね。

 

 「ほお」

 「くふっ」

 新人達は何も考えていないのか、躊躇いなく釣糸を垂らしている。

 ベテラン勢は冒険者としての経験がある分警戒心を持ってダンジョンの用意した環境と道具を怪しんでいる。

 

 新人は早速釣り上げた魚に一喜一憂し、ベテランは恐る恐る釣糸を垂らす。

 「「ふふふふふふふ」」

 その対比が、何とも言えず面白い。

 「可笑しいねぇ」

 「む?そうだな」

 駄目だよ、フーさん。

 そんな知らん顔したって、さっき一緒に笑っていたの分かっているんだからね?


 「ベテラン共も釣りに夢中になったな」

 珍しくにやにやしている。

 武士の情けだよ、フーさん。今回突っ込むのは無しにしてあげる。

 「初心者用は誰でも釣れる優れものやきね!」

 「だがな、ナナよ。何故我が釣った微妙な連中が、奴らの竿には掛からんのだ?」

 「フーさんが何であんなもんばっか釣り上げるか聞きたいのは私の方で!?」

 突っ込まないとか行ったけど、無理!

 フーさんが釣り上げたまともな魚はウツボがせいぜいですから!

 何で作った人が入れた覚えのない海綿とか釣り上げるの!?

 意味分かんないから!

 何であんな微妙なのばかり吊ったのか聞きたいのはワタシの方だから!


 その日、終わりのダンジョン周辺諸国連合に激震が走った。

 全く何の脅威もない新たなる3階層の出現。

 どう考えても魚を釣れとしか言っていない、至れり尽くせりな環境と設備。

 人にとって都合の良すぎる改編に誰もが恐れ戦き、最後には考えても無駄だと諦めて、初めての釣りに興じるのであった。

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難攻不落の美味しいダンジョン 深屋敷 @emi715

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