第34話 母の気持ち


明日香ママに全てぶつけて、怒られる準備をしていました。

明日香ママは少し考え。


「 私はいじめは絶対に許しません。 」


明日香ママは真剣な表情で言いました。

麗美は怖くて下を向きながら聞きました。


「 でもね? いじめた相手が反省してたら、私は許すチャンスがあっても良いと思うのよ。

だって同じ人間だもん。

間違える事もあるって。 」


明日香ママはそう言いながら生地をかき混ぜる。


「 後ね…… 明日香と話したの。

あの子ね。 」


それは麗美の謝りに来た日の事。


「 明日香。 あの子がいじめてた子なの?

なら私がもう少し叱っても良かったのよ?

またするかもしれないし…… 。

明日香の心に傷が残ってるし。 」


明日香はベッドに座りながら全く暗くなる様子はありません。


「 お母さん? 私ね。 麗美さんのあんな顔。

初めて見たんだぁ。 沢山泣いてて。

私ね? 初めて会ったときに、話しかけて来たの凄い良く覚えてるの。

それが凄い嬉しくて!

ただの興味本位だっただけなのかもしれない。

でも凄い私は嬉しかったんだぁ。

この人と友達になりたいなぁ〜って。 」


明日香は静かにそう言いました。


「 後ね? 許さない事は簡単だよ?

私は許さないで立ち止まるより、少しずつでも許して前に進みたいの。

心の傷を治すのは時間じゃないの。

気持ち次第だって分かったの。 」


明日香ママはその強い意思を聞いて、嬉しくて泣いてしまいました。


( 明日香…… 。 強くなったわね。

もうあの頃とは大違いね。 )


明日香ママは本当に嬉しくて、頭を撫でながら抱きしめました。


「 だから私も明日香みたいに許すの。

私も麗美ちゃんと友達になりたいしね! 」


そう言いながら微笑む姿は明日香そっくり。

麗美は深く、深く心の中で反省していました。

そして涙を流してしまう。


「 麗美ちゃん? まずはあなたが自分自身を許す事から始めないと。

もう…… 充分気持ちは届いてるから。 」


前に進む為には、まずは自分を許さなければいけません。

麗美はその優しさが嬉しかった。

許すには時間がかかるかもしれません。

ゆっくりでも良い…… 。

一歩。 一歩と進んでいけたら。


「 麗美ちゃん? 明日香は今まで沢山傷ついたの。

だから少しでも楽しませてあげたいの。

学校は楽しいんだって。

そう思わせてあげたいの。 麗美ちゃん。

あの子と友達になって貰えないかしら?

無理にとは言わないわ。 少しでもあの子と仲良くなりたかったらね。 」


麗美は迷う事なく。


「 明日香さんが私なんかと友達になりたいかどうか。

でも私は…… あの子のように優しくなりたい。

もっと沢山話したい…… そう思います。 」


その話を聞き、明日香ママは嬉しくなりました。


「 ありがとうね。 麗美ちゃん。

いつでも来て良いんだからね?

お菓子習いにでも、テレビ見たいときでも。

海人と遊びたいときでも。

気軽に来てね。

もう私は何とも思ってないんだから。 」


その優しい言葉に黙って涙をこらえながら、何度もうなずきました。

もう二度と悲しい想いをさせないように…… 。

そう思うのでした。


二人は何時間もクレープ作りに熱中。

その甘い匂いを二階で嗅ぐ恐竜が。


「 それでね。 この図鑑の中でね。

…… ん? この甘い匂いは??

クレープの匂いだぁーーっ!! 」


遊ぶのを止めて直ぐに一階へ向かう海人。

音弥も笑いながら後を追う。

そして美味しそうなクレープが、テーブルいっぱいに広がっていました。

海人は目を輝かせて見ていました。


「 うわぁ…… ぉ。 こりゃあ…… 。

天国かな? 僕の今年2回目の誕生日かな? 」


イチゴクリームのクレープ。

レアチーズケーキ味や抹茶味。

お店のような色とりどりの鮮やかな出来栄え。

音弥もびっくりしてしまいます。


「 これね。 麗美ちゃんと二人で作ったのよ。

さぁ。 好きなの食べて! 」


明日香ママがそう言うと、男達は獣のようにかぶりつく!


「 うまいっ。 うまいっ。 うまいよぉ〜! 」


海人のうまい三連発が出ました。

これが出たら美味しい証です。


「 旨いなぁ。 やみつき! 」


音弥もレアチーズケーキ味の虜。

海人はチョコクリームをむさぼる。

口の回りはいつものようにクリームだらけ。


「 本当にもう。

立派な小学生なんだからちゃんと食べなさい。

仕方ないんだから。 」


そう言いながら口の回りを麗美が拭きました。

海人は拭いてもらいながらも、次の一口をまた食べようとしている。

本当に美味しいのです。

明日香ママは料理上手なのでした。


「 おばさん…… 今日は…… 。 」


麗美がしんみりしながら話そうとすると。


「 そう言うのは無しよ!

私も楽しかったし、男共のオヤツ代節約出来たし。

今日はむしろ助かったわ。

また来てね。 凄い上手になってたわよ。 」


麗美は誉められて凄い嬉しくなりました。

その時、ふと思った事が…… 。


麗美はお母さんと料理した事がありませんでした。

麗美のお母さんは料理がへたっぴ。

家政婦に頼めば健康で、美味しい料理は何でも作ってくれる。

だからお母さんと二人でキッチンに立った事は、一度もありませんでした。


沢山料理教わってから夕方に帰りました。

麗美は帰ってからやりたい事が出来ました。

お母さんが家政婦さんに、今日の料理を頼もうとしていると。


「 ママ? …… 今日の夕飯。

二人で作らない? 」


勇気を振り絞り言いました。

まずはここから変わりたかった…… 。


「 えっ!? 料理?

そんなの家政婦さんがやってくれるでしょ? 」


いつものお母さんの返答でした。


「 私は! お母さんと作りたいの!

普通の家ではやってるんだよ?

だから…… 。 」


麗美のお母さんは傲慢でした。

それに高級品大好き。

面倒な事が大嫌い。

ですが麗美の事が大好きです。

可愛い娘が真っ直ぐ見てそう言いました。

こんな事は初めてでした。

分かっているようで何も分かってませんでした。

お母さんは優しく麗美を抱き締めました。


「 ごめんね…… 麗美。

料理下手だから上手く出来なくて、甘えちゃってたのかもしれない。

今日はお父さんに怒られるかもしれないけど、二人で大きいハンバーグ作ろう!

ねっ。 麗美。 」


麗美はそのお母さんの温もりがとても暖かかった。

何よりも嬉しかった。

過保護にして欲しかった訳じゃない。

同じ歩幅で歩み、怒るときは怒って欲しかったのです。

今ここの家族も一歩踏み出しました。


それを涙ぼろぼろながしながら見ている家政婦。


「 おうっ…… おうおうおう…… 。

奥様。 麗美ちゃん…… 本当に。

本当に良かったです…… おうおうおう…… 。」


家族の幸せを考えてくれている優しい家政婦さん。

それにしてもワイルドな泣き方でした。

お父さんが帰って来るまでにハンバーグを作る為に、家政婦さんに習いながら頑張るのでした。

お母さんはいつもピリピリしていたのが、嘘のように笑いながらメイクが崩れるのを気にせず作りました。

二人は今までの中で一番と言っても言い程笑い、楽しみました。

麗美の生活も少しずつ変わっていくのでしょう。


「 ただいまぁ。 …… ってお前。

麗美も。 そんなに汚れてどうした? 」


お父さんが帰って来ました。

お母さんはエプロンびしょびしょで、顔も汚れてしまいながらの出迎え。

プライドの塊のお母さんには考えられない光景でした。


「 あなた…… お帰りなさい。

麗美とね。 あの…… ハンバーグ。

作ったんだよ。 焦げたりしたけど頑張ったんだよ?

食べてもらえないかしら? 」


お父さんは凄く嬉しかった。

箱入り娘だった奥さんが、結婚したときから何も料理なんて出来ませんでした。

優しさで家政婦を雇っていたのですが、間違えていた事が良く分かりました。

下手でも良いのです。

少しずつ、少しずつ上手くなれば良いのです。


「 じゃあ、食べようか。

もぐもぐ…… 旨いっ!!

これは3つ星シェフにも負けないぐらいだぞ。

わっはっはっはっ! 」


お父さんも大喜び!

お母さんも嬉しくてむしゃむしゃと食べました。

麗美はずっと何か不満があってイライラしていました。

その理由が今分かりました。

他の家のような家族団欒が味わいたかったのです。

今、やっとそのお金では買えない温もりを手に入れて、幸せを噛み締めるのでした。

麗美にとっても一番の料理になりました。


少し視野を広めてみませんか?

そうすれば意外にも近くに幸せが落ちているかもしれませんよ?

その日は麗美にとっても忘れられない一日になりました。

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