第45話 幻想曲
既に何人もの猛者達が唄っていました。
その歌声に明日香も凄いとしか言いようがありませんでした。
唄った後は拍手が体育館内で反響しまくるくらいに、凄い音が鳴り響く。
「 続きましてはエントリーNo.8。
二年生の伊集院麗美選手。 どうぞ! 」
遂に優勝候補の麗美が唄う。
「 も〜しもぉ〜〜 。 世界がーー っ。 」
恥ずかしがらずに前を向きながら体育館に広がるくらいに、大きく口を広げて遠くまで響く。
さすがはカラオケの常連。
高音から低音。 凄い温灸つけつつ唄う。
その歌声は明日香も一位だと思うくらいの美声。
そして歌い終わり一礼する。
パチパチパチパチっ!!
拍手喝采。 鳴り止む事のない拍手が鳴り響く。
明日香も裏方で拍手していました。
「 さすがは二年生のエース!
点数は…… 97点。 97点だぁーーっ! 」
ここ何年も97点なんて出たことはありません。
この点数は音楽の先生や何人かの先生。
一般のランダムに選ばれたお客さんの持ち点の合計点数が、選手の与えられる点数になる。
なので不正や補正はほとんど意味をなしません。
この点数がどれだけ凄いかお分かり頂けるだろう。
麗美は嬉しそうに手を振りながら裏方へ戻る。
少しファンが出来てそうなレベルでした。
ですが惜しくもその一つ前の、優勝候補の響に一点差で負けてしまいます。
その頃、音弥達は何も出来ずに体育館に来ていました。
( もう少しだったのに…… もう少し。
後少しで明日香はみんなの前で笑えるようになったのに…… 。)
音弥が悔しそうに壁を叩く。
トッシーは膝を着きながら泣いてしまう。
「 俺のせいだよ…… ごめん。
なんであんな事に。 」
誰もトッシーを攻めませんでした。
仕方がない事なのです。
もう誰も
そこへ翔が息を切らして現れました。
「 はぁはぁ。 オルガンここに来るぞ。 」
みんなは何を言ってるのか分からなくキョトンとしてしまう。
「 俺が…… ここの文化祭が好きな金持ちに頼んだんだ。
オ…… オルガン。 頼むって。 」
音弥はその泥だらけな翔を見て、必死に頼んでくれたのだと察しました。
直ぐに音弥は舞台裏へ。
翔の横を通りすぎるときに一言。
「 ありがとう…… 。 疑って悪かったな。 」
そう言い翔を信じて走って準備に行きました。
トッシーは慌てて翔に駆け寄ります。
「 でもでも。 次の番なんだよ?
後十分くらいしか時間ないんだよ。
絶対間に合わないよ。
ここから近くの小学校だって車で20分以上かかるんだよ。
絶対無理だよ…… 。 」
トッシーは現実的に考えてしまう。
熊さんもママもこれには何も言えません。
麻衣ちゃんは明日香を励ます為に裏方に行っていて気付いていません。
( 何だよ…… 金持ちなんだろ?
どうにかしてくれよ…… 約束したんだぞ。 )
どうしようもない状況にただただ苦しむのでした。
そして校長室には一本の電話が。
「 はい。 こちら金ヶ崎高校の校長です。 」
「 いつもお世話になっております。
白鳥ですが少し宜しいでしょうか? 」
校長はその名前を聞いた瞬間に慌てて立ち上がりながら電話の対応をする。
「 白鳥お嬢様。 どどう言ったお話でしょうか? 」
「 実は体育館に一つ入れたい物があるので、扉を大きく開けて頂けますか? 」
直ぐに了解して対応をしました。
そして電話が切れてしまう。
「 はぁ〜 びっくりしたぁ。
何で白鳥お嬢様がそんな物を? 」
校長は良く分からなかったが、この高校に大量の資金提供してくれている娘さん。
断れる筈ありませんでした。
そして時間になってしまう。
明日香は会場へ行く事に。
音弥はピアノが無くて何も出来ません。
動揺している明日香の前へ麗美が来ました。
「 明日香! あんた…… 自信持ったら?
いつも放課後聞こえてきた歌声は悪くなかったわよ。
行ってきなさい。 」
麗美が明日香を励ましました。
明日香はその励ましで不安感が少し晴れました。
「 麗美さん…… 初めて名前で呼んでくれたね。
絶対頑張る! 」
行こうとしたときに音弥が事情を話しました。
明日香は少し残念そうにしながら。
「 仕方ないよ。 みんなに理由言おう。
みんな頑張ったんだもん。 」
そう言いステージへ向かう。
「 エントリーNo.13番。
持田明日香選手お願いしまーー す! 」
拍手が起きる中、明日香は深く頭を下げました。
「 みなさんごめんなさい…… 。
私は今日唄う事が出来なくなってしまいました。 」
大きな声で伝えると会場からはブーイングが起こる。
「 本当はオルガンで伴奏を弾いてもらう予定でしたが、ハプニングにより出来なくなりました。
音源も準備してなくて満足いく物が出せないと思います。
だから…… ごめんなさい…… 。 」
深く頭を下げると響がステージに上がり、いきなり演説を始める。
「 みなさん。
あまり攻めるのは酷だと思います。
伴奏が無くても披露してもらいたくありませんか?
折角出場したのに…… そう思いませんか?
みなさん!! 」
パチパチパチパチっ!!
拍手が鳴り、明日香へ唄う催促が起こる。
トッシー達は悔しそうに見ていました。
「 何だよ…… ただの見せしめじゃないか。
優勝ほぼ確定なのにあんまりじゃないか。 」
トッシーは悟りました。
犯人は響なのではないかと…… 。
でも証拠がない。 どうしようもないのです。
翔も悔しそうに握り拳を作りながら、悔しそうに見つめていました。
( 酷いじゃないか…… ほとんどいじめだ。
こんな事俺はしてたのかよ。
遠くから見て初めて分かったわ…… 。
ちくしょう…… 間に合わなかった。 )
目をつぶって諦めてしまったその時!?
ガラガラーーンッ!!
大きな扉を先生達が開けました。
片方だけ開くとそこまで音が鳴りませんが、両方同時に開けると凄い音が鳴るのです。
凄い音がして会場の観客が振り向きました。
「 そうですね。
ならどうせ唄ってもらうなら、最高の伴奏が無くてはいけませんわ。 」
そう言い一人の女性が入って来ました。
そうです。 大金持ちのご令嬢です。
そしてピアノが運び込まれて来ました。
大の大人12人の力でやっと運べるくらいの大きな、光輝く黒のグランドピアノ。
「 えっ…… ? このピアノって。 」
響には見覚えがありました。
このピアノは近くの資産家の家にあると言われていた、世界でもお金に糸目をつけないくらいの国宝級の宝。
それがどうしてここへ?
「 私のお父様の古くからお付き合いのある知人がこの近くに住んでいまして、ピアノが必要なのでお願いした所、快く了解してくれましたわ。 」
そう言いながら優しく微笑む。
そしてピアノがステージの上へ運ばれる。
このご令嬢はとんでもない人だったと翔は察しました。
「 すげぇ…… 。 オルガンじゃないのかよ。 」
口を開きっぱなしの翔の前にお嬢様が来る。
「 遅くなってしまい申し訳ありません。
これで存分に披露出来るかと。
それでは私は席で堪能させて頂きますわ。 」
執事を連れて席へ歩いて行きました。
翔は直ぐに追いかけてお礼を言おうとします。
「 こんな事までしてくれて…… 。
なんてお礼をしたらいいか。 」
「 それは大丈夫!
だって見せてくれるのでしょ?
あなたがあんなにも必死になるくらいの、自慢の同級生の歌声を。 」
そう言い席に歩いて行きました。
翔は笑ってしまいました。
お金持ちの道楽なのかもしれない…… 。
それでもこんな奇跡が起こるとは思っていませんでした。
ステージでは明日香は何が起こってるか分からず、ただ動揺して立っていました。
音弥が駆け寄って来ました。
「 翔が頑張ってこのピアノ用意してくれたんだわ。
後でお礼を言いに行こうぜ? 」
明日香はこのピアノが翔のお陰だと分かり、凄い嬉しくて心が温かくなりました。
観客席からも応援の声が鳴り止まない。
「 最高の明日香ちゃんの唄、聴かせてくれ! 」
森じいが立ち上がり応援している。
「 明日香ーーっ! 頑張れっ! 」
「 そうよ。 あなたなら出来るわよ! 」
熊さんとママも大きな声で叫んでいます。
「 さぁ。 料理だけではなく、歌声も如何な物か…… ワクワクしますね。 」
人間国宝のお爺さんも応援に。
「 明日香ぁーーっ! ガンバ! 」
「 俺も応援してるよ。 」
「 お姉ちゃーーん! がんばりぇーー! 」
麻衣ちゃんとトッシーと海人が跳び跳ねながら手を振る。
明日香の体の震えが止みました。
もう…… 恐れるものなんか何も無い。
こんなにも応援してくれている人が沢山居る。
明日香のお母さんは泣きながら笑って見ていました。
学校に行けなかったあの子が、こんなにもみんなに見守ってもらっている。
最高の瞬間でした。
「 明日香…… 頑張れ。 」
麗美も静かにエールを送る。
「 音弥君…… 行くよ?
そんな高いのちゃんと弾けるの? 」
「 バカにすんなよ。
おんぼろオルガンと大差ないさ。
行くぞ? 」
そして始まる明日香のたった一度の晴れ舞台。
最高のピアノで奏でられる音色に負けないくらいの、音弥の才能で歌が始まる。
明日香はマイクを持ち口をゆっくり開く…… 。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます