第46話 歌姫
「 この胸が熱いの〜〜 。 」
明日香は恥ずかしがらずに遠くを見ながら大きな声で唄いました。
伴奏と美しい歌声が上手く調和されている。
二つが合わさりパーフェクトハーモニーに。
まるで歌手のような響く高音。
それに負けないピアノの伴奏。
観客は二人の虜に…… 。
そして唄いきり伴奏も静かに止まる…… 。
パチパチパチパチっ!
パチパチパチパチーー 。
「 すげぇーーぞ! 」
「 プロみたいだったわ。 」
「 凄いぞ転校生! 」
「 もっと聴きたいわ。 」
鳴り止まない歓声に明日香と音弥は喜びました。
二人の苦労が報われたのです。
響は静かに崩れ落ちました。
元々明日香に負けてないつもりでした。
それが緊張が失くなって自信をつけた明日香は才能がフルに出てしまいました。
何もしなければ負けなかったのかもしれません。
自分が焚き付けてしまったです。
お膳立てをしてしまったのでした。
明日香を見ると神々しく、むしろ気品も感じられるくらいでした。
点数の合算が終わる…… 。
そして会場が静まりかえる。
「 それでは持田明日香選手の点数は…… 。
おい…… おいおいおいの100点です。
100点です!! どうなってんだっておーーいっ! 」
司会者もびっくりの点数!
この学校で満点は初めての出来事。
会場も歓声が頂点に達しました。
拍手と声が会場を包み込む。
明日香は涙を流しながら喜びました。
隣で見ている音弥は、そんな明日香を見て一言。
「 もう明日香をいじめる奴なんて居ないよ。
やっぱりすげぇわ。 あっはっはは! 」
音弥も笑いが止まりません。
もうそこに居たのはいじめられていた彼女ではありません。
この学校一の歌姫でした。
「 明日香おめでとう! おめでとう! 」
自分の事のように喜んで駆け寄る麻衣ちゃん。
「 ありがとう、麻衣ちゃん。 」
そんな麻衣ちゃんが大好き。
司会者が明日香の元へ。
「 明日香さん。 歌姫から一言貰えますか? 」
動揺しつつもマイクを受けとりました。
明日香は思っている気持ちを話す事に。
「 本当に…… あの、ありがとうございます。
こんなに喜んでもらえて最高に幸せです。
少しだけ勝手ですが話したい事が…… 。 」
会場は静かになり歌姫の話しに耳を傾けました。
そして勇気を振り絞り口を開く。
「 私は前の学校でいじめられて転校して来ました…… 。 」
会場はざわついてしまう。
明日香は急にどうしたのでしょうか?
「 私は…… 元々人と接するのが上手くありません。
それをあまり良く思わない人も多く、いじめの対象になってしまいました。
登校拒否になってしまい、学校に行けなくなりました。
どうしたら良いか分かんなかったんです…… 。 」
みんなは黙って聞いていました。
「 両親は私を想い、ここの学校へ転校をさせてくれました。
環境も良く私はこの学校や街が直ぐに大好きに。
でも…… ここでも友達を作るのは、とても大変でした。
一人の時もありました。
ですが少しずつ…… 少しずつ周りから私へ手を差し伸べてくれる人が。
私は周りばかりのせいにしてました。
何で私だけ? 何もしていないのに…… 。 」
麗美やいじめていた人は心が痛くなる話でした。
「 私は思いました。
…… 人に求めてばかりではダメなんだって。
私も変わらないと。
じゃないと何にも変わんないって分かったんです。
だからこの大会も私が変わろと思った切欠の一つでした。 」
明日香は必死に話しました。
何で話したくなったかは分かりません。
それでも伝えたくなってしまったのです。
「 もしも目の前にいじめられてる人が居たら?
もしも冗談のつもりでも相手を傷つけていたら?
胸に手を当てて考えて見てください。
そうすれば直ぐに答えが出るはずです。
私は変わります。
友達のように困ってる人に手を差し伸べられるようになりたい…… 。 」
明日香は変わろとしていました。
その始まりにしたかったのかもしれません。
「 だから…… みなさんも少しずつ。
一緒に変わりませんか?
そうすれば楽しい学校生活になると思います!
あっ…… ! 変な話してすみません…… 。 」
我に返り、お辞儀をしました、
直ぐに恥ずかしくなり退場しようとする。
パチパチ…… 。
一人が手を叩きました。
そして二人目も手を叩く…… 。
パチパチ…… パチパチ!
パチパチっ! パチパチパチパチ!!
大きな拍手が起こりました。
明日香の良く分からない葛藤の想いが観客に届いたのでした。
「 カッコいいぞ! 」
「 負けんなぁ! 」
「 私は歌姫の味方だよ?? 」
「 ありがとうーー。 」
「 凄い感動したよ!! 」
様々な声が聞こえて来る…… 。
少しでもこの想いが伝わって嬉しかったのでした。
明日香はもうここの歌姫。
でも今までと何も変わらない。
ただ歌が好きなだけの女の子。
翔は考えが変わっていました。
今日からでいい…… 変わろと。
「 あれ? あの金持ちは!? 」
いつの間にか居なくなっていました。
お礼を伝えたかったのに帰っていました。
「 セバス…… ? だから言ったでしょ?
バクバク…… 最高の歌声が聴けないなんて勿体ないって。
にしてもこのクレープ美味しいですわ。
まだ食べたりないくらい。 」
沢山のクレープや焼きそばと他にも色々持って、車に向かっていました。
「 姫様。 本当に最高でしたね。
こんな物滅多に見られた物ではありませんね。
さぁ。 近くの別荘に帰りましょう! 」
「 そうですね。 楽しかったぁ。
お父様とお母様に教えてあげよう。
また来たいですわ。」
二人は大きなベンツで別荘へ帰りました。
力を貸して本当に良かったと思う白鳥姫子でした。
明日香の気持ちも純粋で、心が温かくなりました。
この女の子についてはまた別の機会に…… 。
麗美は三位になり少し悔しかったですが、何故か晴れ晴れとして屋台に戻りました。
「 クレープ苺の下さい…… 。 」
「 はい! 今作り…… 葵? 」
麗美の目の前に居たのは葵でした。
麗美の電話を受け取り来てくれたのです。
直ぐにクレープを作り手渡す。
「 葵…… 少し話出来る? 」
二人は一目があまりないベンチへ行きました。
麗美は葵へしたことを謝りました。
償いたくても償い切れない…… 。
心の傷を塞ぐ特効薬はないのですから。
「 あむ。 …… もういいよ。
直ぐには許せない…… 。
でも凄い反省してて謝ってもらって、私は許したくなったの。
麗美…… 凄い頑張ってたし。
このクレープで許す…… 。
凄い美味しいから。 」
葵も素直にはなれませんでした。
麗美はその葵の気持ちが嬉しかった。
頑張って本当に良かった…… そう思いました。
「 ありがとう…… ありがとう。
それとごめんなさい。 」
麗美は泣きながら頭を下げました。
葵も泣きそうになりながらクレープを食べる。
「 だからもういいって。
まだこの街知らないから…… また来た時に案内してくれない?
出来れば…… で良いんだけど。 」
麗美は直ぐに笑顔になり答える。
「 余裕じゃん! 全部教えるよ。
チョーーっ美味い店とか可愛い店とか。
綺麗な景色もいっぱい見せたげる。
梨香と香織も絶対連れて来るから。
凄い話せばいい奴らなの。
あいつらも謝りたいって言ってたの! 」
まだ友達ではないかもしれませんが、ゆっくりと歯車が動き出したのを感じました。
友達になるのも直ぐなのかもしれません。
「 うん…… 楽しみにしてる。 」
少しだけ笑いながらクレープを食べていました。
葵にとってもこの文化祭に来て本当に良かったと思いました。
葵が何故麗美に会いに来たのか?
明日香の気持ちを聞いて、同じ境遇に感じたのでした。
それでも変わろとする姿を見て、自分も変わりたくなったのでした。
明日香が話した気持ちは無駄ではなかったのでした。
そうしてゆっくりと文化祭が終わるのでした。
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