第44話 決めろ! 歌姫決定戦。
午後になり少しずつ文化祭は落ち着きを見せ始める。
明日香の屋台は午前中には完売してしまい、自由な時間をそれぞれで楽しんでいました。
チョコバナナを食べたり、かき氷を食べたり。
お化け屋敷に入ったりと文化祭を堪能する。
明日香は麻衣ちゃんに手を引っ張られながら色んな場所へ行きました。
一人では緊張して行けない所も麻衣ちゃんとなら行けてしまいました。
明日香はとても楽しみました。
ぶぃーー ん!!
スマホのバイブで通知に気付きました。
( そろそろ唄う時間だぞ?
準備するから会場に来てくれ! )
音弥からの呼び出しでした。
そうです。 遂に始まるのです。
この日の目玉の行事。
歌姫決定戦が…… 。
全校生徒で100人ちょっと。
そして今回は女子の大多数が参加。
明日香もその一人です。
会場の体育館に着くとそこには歌自慢の猛者達がわんさかいるではないでしょうか?
この為だけにドレスを持ってきたり、男性人気を取る為にメイドコスプレをしたり。
明日香は制服で素の状態で挑みます。
会場は静かに大会へと着実に進行していく。
明日香はドキドキしながら椅子に座り、時が経つのを待っている事しか出来ませんでした。
そこへ王者の合唱部部長。
将来は歌に携わる仕事に就こうと、今から必死に勉強している。
その歌声は天使の歌声だとか。
「 皆様こんにちは。
今日は宜しくお願いします。」
慣れた口調でみんなへ挨拶をする。
みんなも返していましたが、内心はただの王者の自慢気な態度の現れにしか見えませんでした。
明日香を見つけるなり近寄って来ました。
「 見ないお顔です事。 お名前は? 」
「 もっももも…… 持田明日香です。
よよよっよ、宜しくお願いします。 」
カミカミになりながら返答しました。
明日香は元々人前で唄うなんて無理なのですが、みんなの期待にどうしても答えたくて来たのです。
「 ふ〜ん。 あなた…… もしかして。
最近音楽室で練習していません事? 」
響がそう言うと明日香はうなづきました。
( 何て言う事…… この子が。
最近美しい歌声が聞こえてきて嫉妬していたんですよ。
でも…… 念には念を。
悪くは思わないでもらえるかしら? )
響は何やら不適な笑みを浮かべて離れました。
明日香は頭を斜めにさせ、どうしたのだろうか?と思うのでした。
その頃、音弥達は三階から一階にオルガンを運ぼうとしていました。
重たいですが四人がかりで運べばどうにかなります。
熊さんにママに音弥にトッシー。
男? 四人ならどうにか運べる筈。
慎重に階段を降りて行きます。
トッシーが持っていると異変が?
「 何だ…… うっ! ヤバいっ!! 」
トッシーは何か滑りで手を滑らせてしまい、手を放してしまう。
三人は急な重さとバランスが崩れて体制が崩れる。
「 おいっ! 何やって…… うわぁーーっ。 」
音弥も体制が崩れた影響で手を放してしまう。
そしてオルガンが勢い良く落ちてしまう。
ズドォーーーー ンッ!!
凄い音と共に四人は階段から落ちて、転げ落ちてしまいました。
四人は急な出来事に何が起きたか分からなくなる。
「 イテテテっ…… お前ら大丈夫か? 」
熊さんがそう言うとケガはしましたが、四人はそこまで大した事なく無事でした。
ですが…… 。
「 おい…… これって…… 。 」
音弥は見た光景はあまりにも残酷でした。
めちゃくちゃに壊れてどうしようもないオルガンでした。
四人は言葉を失いました。
「 俺のせいだ…… あの時、手を滑らせたせいなんだ。
そのせいでこんな事に…… 。 」
トッシーは青ざめながら必死に話しました。
音弥は肩に手を置き、仕方ないから代わりになる物を探す事を提案しました。
直ぐに音弥とトッシーに熊さんはオルガンの代わりを探しに行きました。
足をケガしたママは一人残りました。
後片付けを仕方なくやる事に。
「 仕方ないわね…… オヨヨ?
これはオイルが塗られている?
何で持つとこにこんな物が。 」
誰かに細工されて滑るようになっていたのです。
今はそれ所ではありません。
ママは片付けて職員室に訳を話しに行きました。
みんなのお察しの通り、これは響の仕業でした。
もしもの保険と言うヤツでした。
音弥のピアノに明日香の唄は少し脅威に感じたからです。
何とも残酷な最低な行為。
明日香の唄うのは最後から二番目。
まだ時間は残されていました。
三人は手分けして代用出来る物を探します。
ピアノ…… 最低だが鍵盤ハーモニカでも良い。
明日香の唄う伴奏がなければ、明日香が唄うのは難しい。
CDもピアノでやろうとしていたので準備していませんでした。
音弥が必死に走っていると思いっきり体がぶつかり倒れてしまう。
「 痛えーーっ! なんだ急に? 」
翔でした。 音弥も直ぐに立ち上がりました。
翔の顔を見て一つ思い当たる節が見つかる。
音弥は思いっきり胸ぐらを締め上げ、壁に翔を押し付けながら持ち上げる。
「 お前っ!! まだこんな酷いことするのか?
ふざけんな! 」
凄い荒ぶりながら翔を問い詰める。
「 痛…… っえ。 何だよ。
俺が何したって言うんだよ。
今まで仕事してたんだぞ?
手が痛くて…… 。 」
その手は少し赤くなっていました。
音弥は勘違いだった事に気付き降ろしました。
「 悪い…… 勘違いした。 」
「 どうしたんだよ? そんなに怒って? 」
翔は音弥に聞くと哀しみながら理由を話しました。
何故か手を滑らせてしまい、オルガンを落としてしまった事を。
「 でも俺は諦めない…… 明日香と優勝するんだ。
あいつを人気者にしてやるんだ。
約束したんだ…… じゃあな。 」
そう言い走って行きました。
当然音弥もバカではないので、代用出来る物なんてそう簡単に見つかる訳ありませんでした。
翔にも直ぐにそれが分かりました。
するとある都市伝説的な話を思い出しました。
この文化祭にはある大富豪が家族で、歌姫決定戦を見に来るのが楽しみなのだと。
( そうだ…… その人に頼めばどうにか…… 。)
翔は走りました。
その唯一の頼みの大富豪を…… 。
探しても探しても見つからない。
そして歌が聞こえてきました。
( クソ…… 始まりやがった。 )
歌が体育館から聞こえて来る。
明日香の番までは後三十分…… 。
( 何でだよ…… ハァハァ…… 。
散々迷惑かけたのに助ける事も出来ないのかよ。)
翔は息を切らして校門まで行き、息を荒げながら立っていました。
もうダメなのか?
「 もう始まっていますわ。
早く行きましょ。 」
「 はい。お嬢様。 」
横を綺麗な服と匂いをさせて通る姿が。
隣には執事を連れている。
間違いない…… この人だ…… 。
翔は確信する。
田舎にこんなにも凄い車で、この感じは間違いなく大富豪だと思いました。
「 ちょっと待てよーーっ!! 」
凄い勢い良くその女性の肩を掴む。
すると勢い良くSP達が走ってきて押さえ込まれてしまう。
「 危険人物確保!! お嬢様。
お怪我はないですか? 」
翔程の大男でも瞬殺されてしまう。
プロの仕事ぶりでした。
押さえ込まれながら悔しくて無念で涙がこぼれてしまう。
( クソぉ…… 体が動かねぇ…… 。
謝る為にも償いたい…… 償いたい。 )
頭を地面に押し付けられて動けない。
そこにお嬢様が近寄って来ます。
「 放して下さいますか?
この方は悪い人では御座いませんわ。
さぁ。 早く! 」
お嬢様がそう命令するとSP達が離れる。
翔は泥だらけになりながら静かに立ち上がる。
「 ごめんなさい。
そう言いながら汚れた服をハンカチで拭いてくれました。
「 お嬢様!! まだ危険かもしれません。
近付くのは。 」
「 この方は何か私に何か話があったのでは?
だからあなたは泣いていたんではないですか? 」
執事もお嬢様の判断に任せる事に。
「 実は…… 俺のクラスの転校生の唄う為にあったオルガンが壊れて…… 。
それで唄えなくなってるんだ。 」
翔がそう言うとお嬢様は黙って聞いてくれていました。
「 俺は…… その転校生を沢山いじめたんだ。
そして沢山悲しませた…… だから。
だから力になりたかったんだ!
あんたお金持ちだろ? 力……貸して…… 。
オルガンをどうにか…… 手配してもらえませんか?
お願いします…… 。 」
翔は土下座してお願いしました。
翔は人にこんなにお願いしたのは初めてでした。
屈辱的でもあり悔しさもあるのかもしれません。
それよりも明日香を助けたい気持ちが勝っていました。
「 青年よ。 さすがに失礼では?
私達とは赤の他人…… 。
自分勝手過ぎるのでは? 」
執事から強い口調で話されました。
翔もその通りだと思いました。
「 そうです…… 。 他に分かんなくて。
バカだからこんな事しかできないんです。
お願いします…… 。 」
頭を地面につけて頭を上げません。
お嬢様が近付いて来ました。
「 顔を上げて下さい。
格好良い顔が台無しですわ。 」
お嬢様は新しいハンカチで翔の顔を拭きました。
そして不器用な行為に少し笑ってしまいました。
「 ごめんなさい…… 。
こんなに想われて転校生さんは幸せ者ですね。
直ぐに手配します。
会場まで運ぶので少しだけお待ちを。 」
「 ありがとうございます。
本当にありがとうございます。
それじゃみんなに伝えます!! 」
翔は何度も頭を下げて走って行きました。
「 お嬢様!! 何でこんな頼みを!? 」
「 その転校生の歌声…… 聞けないなんて勿体ないと思って。
あんなに必死に頼まれたら断れませんわ。
直ぐに手配を。 セバス。 」
そう言いながらニッコリ笑いました。
執事のセバスはタメ息を吐きながら直ぐに手配をする。
「 お嬢様は相変わらずお人好しなのですから。
分かりました。 」
そしてゆっくりと会場へ向かいました。
そのお嬢様は何処かの大富豪さんなのですね。
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