第25話 飛び出す勇気


翔達は熊さんに恐れて音弥に手出しする事はなくなりました。

明日香や麻衣ちゃんも同様。

そんな裏で決戦があった事も分からずに、今日も明日香は俊彦君の家へ。


「 あの…… 俊彦君の体調はいかがでしょうか? 」


「 ごめんなさい…… 今日も無理みたいで。

あの子、一度間違えたら自分はダメな奴だ。

って思い込んじゃってるみたいで。 」


良く学校休んでる人へ、羨ましいなぁ。

ズルいなぁ。 って言う人が居ます。

休んでいる人は楽しいのでしょうか?

楽してる気持ちなのでしょうか?

全く正反対…… 毎日、毎日苦しんでいるのです。

外を歩くにも周りの目を気にして、外出すら出来なくなってしまいます。

両親への申し訳なさでいっぱいで、どんなに休むのを許してもらっても気が休まる事はないでしょう。

本当は…… 学校に行きたいのです。


今日も俊彦君は顔を出してくれませんでした。

明日香はしょんぼりして帰ろうとします。


「 もう諦めんのか?

だらしないぞ。 」


音弥が明日香の事を気にして駆けつけてくれました。


「 音弥君…… 今日もダメだったの。 」


ため息をしながらがっかりしていました。


「 諦めないのがお前の良さだろ?

俺が良いこと教えてやるよ。

何でも行動ありだ! 」


その良いことを聞き明日香は微笑む。


「 うん! ナイスアイデアだね。

ありがとう。 」


その日の夕方…… 。

俊彦君は黒い上下の服を着て、帽子を深く被り外へ出ていきました。


( 本当にしつこいなぁ…… あの転校生。

来る度にこっちがどう思ってんのか考えろよ。

余計なお世話なんだわ…… 。 )


そう思いながら、小さな古本屋に来ていました。

ここは小さな古本屋で、おじいさんとおばあさんが切り盛りして経営しているお店。

古い見た目ですが毎日の掃除により、凄い綺麗なお店でした。

新しいお店よりも味があり、逆に人気が出そうな雰囲気でした。


「 おっ。 トッシー坊や。

今日もマンガ買いに来たのかい? 」


「 うるさい! 坊やって呼ぶなよ。

家に居てもやることないんだから仕方ないだろ?

何か面白いのある? 」


文句言いながらマンガを本棚で探している。

ミーハーな人気のマンガはほとんど読破していて、最近読むのは少し変わったマンガばかり。


( んー…… 何にしようかな?

母さんから少しお小遣いもらったから、少し多めに買えるぞ。 )


そう思いながら探していると。


「 お客さん。 このマンガがおすすめだよ。 」


そう言われて俊彦君がマンガを見る。


「 ん? ネッシーは本当居た!

ネッシーとの大冒険…… ってB級マンガじゃないか。

って…… えっ!? 」


そのマンガを勧めてきたのは明日香でした。


「 げっ!? 持田さん?

どうしてここに? 」


「 音弥君が俊彦君はマンガ大好きで、いつもここに来るって聞いてたから待ってたの。 」


俊彦君は明日香が帰ってから4時間以上経ってから出て来ました。

そう考えると明日香は4時間以上も待っていた事になります。

少しびっくりしてしまいました。


「 ずっと待ってたの…… ? 」


「 そうだよぉ。 毎日心配してたんだよ。

お話したくて。 」


ニコニコ笑う明日香と目を合わせるのが恥ずかしくて、直ぐに店を出ようとします。


「 待って! もう少しお話しよ? 」


「 かまうなよ! 俺はもう学校行かないから。

ほっといてくれよ!! 」


そう言いながら走って行きました。

明日香は離れていく俊彦君を見続けていました。


( 俊彦君…… やっぱり辛いよね。

無理に来てごめんね…… 。 )


強引に会ったのは逆効果だったのか?

明日香は深く落ち込みました。


「 ほっほっほっ! お嬢さん。

少しかけてお話しませんか? 」


本屋の店長のおじいさんが話をかけてきました。

明日香はゆっくりと小さな椅子に腰を下ろしました。


「 おじいさん…… 私ってダメダメだったかな?

凄い嫌がってたよね? 」


おじいさんは口に手を当てて考えました。


「 どうだろうねぇ…… ワシにはトッシー坊やが少し嬉しそうに見えたよ。 」


「 えっ? 嬉しいそうに?

絶対嘘だよぉ。 あんなに拒絶してたじゃない。 」


どう見ても嫌そうに見えました。


「 ワシは小さな頃からあの子を見てきたんだ。

あの子は物静かで思った事を言うのが得意じゃないんだ。

そのあの子があんなにも自分の気持ちを伝えてて、大きい声で叫んでるの初めて見たよ。 」


そう言いながらゆっくりとコーヒーを飲みました。


「 嫌だから大きな声出したんだよ。

絶対そうだよ…… 。 」


明日香はおじいさんを信じようとしませんでした。

おじいさんはゆっくりまた話し始めました。


「 お嬢さんはトッシー坊やが好きなのかい? 」


「 異性の好きとは違うけど、俊彦君とは友達になりたいんだぁ。

私もいじめられてて毎日大変なんだぁ。

でも頑張って学校行ってるの。

だから俊彦君にも勇気出して一緒に行かないかなぁって。 」


そう言いながら明日香はまた落ち込んでしまいました。


「 トッシー坊やが言ってたよ。

毎日家に来る女の子が居るって。

ずっと最近はその話ばかり…… 。

本当は気にしてくれる人が何より嬉しいんだよ。 」


「 そうかなぁ…… 逆効果じゃないと良いけど。 」


明日香は立ち上がりゆっくり帰ろうとする。


「 あっ! おじいさん。

お願いがあるんだけど良い?? 」


「 おっほっほっ! 何かな? 」


明日香はある事を頼み帰って行きました。

おじいさんは見えなくなるまで見届けていました。


「 良いお嬢さんだ…… 全く汚れのない、目を見つめて話す優しい女の子だ。

純粋に育っている。 良い両親なのだろうね。

ばぁーさんやぁーー。

カステラまだあっただろ?

持ってきておくれよぉ。 」


隣の部屋に居るおばあさんに話をかける。


「 おじいさんや。 それは一週間前に食べたでしょ?

毎日、毎日同じ事を言わせないで下さいな。 」


「 あれ? そうだったかのぉ? 」


呑気なおじいさんでした。


その日の夜。

また俊彦君が本屋に来ました。

周りを気にしながらこそこそと中へ。


「 じぃちゃん。 勇者と天変地異を頂戴。

やっぱり王道が一番! 」


おじいさんは直ぐにマンガを持って来ました。

一巻から五巻まで大量買い。

おじいさんがゆっくりと紙袋に丁寧に入れて、しおりのおまけを付けて渡しました。


「 トッシー坊や。 あの子、悪い子じゃないよ。

信じても良いんじゃないかい? 」


俊彦君は少し下を向きながら口を開きます。


「 知ってるよ…… 。 そんな事。

ただ…… 期待に答えるのが怖いんだ。

また逃げちゃうかもしれないし…… 。

あの子が怖いんじゃなくて、裏切ってしまう自分が一番怖いだ。

僕はそれだけはしたくないんだ…… 。 」


おじいさんはモナカを食べながら聞いていました。


「 ゆっくりと考えると良い。

まだまだ時間があるのだから。

はい! いつもありがとうね。 」


本を受け取り、家にゆっくり帰って行きました。

部屋でゆっくりとマンガを見ました。


「 王道過ぎてつまらないなぁ。

初めての本って一気買いは禁止だな。

損したなぁ…… ん? 中にまだ入ってる? 」


マンガを五冊買った筈なのに、もう一冊入っていました。

ゆっくり取り出してみる。


「 ネッシーの大冒険 」

明日香の勧めていたマンガが入っていました。


「 何だよ…… 勝手に入れやがって。

暇だし見てみようかなぁ。 」


ゆっくり読み始めました。

見ているとネッシーを本当信じている人には最高なマンガになっていました。

読んでいると笑いがこぼれてしまいます。


「 あっはっは! 何だよこれ?

持田さんはネッシー信じてんのかな?

居るわけないのに! あはははっ! 」


実はこのマンガ、そう言う信じてない人が読んでも楽しく、読んだ人が元気になるようなマンガになっていました。

最後まで夢中で読みきってしまいました。


「 あっ…… なんとなく最後まで読んじゃった。

まぁ…… 暇だし良いっか。

ん? 何かメモがある。 」


そのメモを読んでみると。


( 面白かったでしょう?

ネッシーは洞穴で暮らしてるから姿現さないんだよ。

オスとメスがこっそりと、この日本の何処かで暮らしてるかもしれないの。

今度探しに行こう! )


と書かれていました。


「 プッ! ぷはははっは!!

本当に信じてるのかよっ。

あはっはっはっはっは。 」


涙が出るくらい大笑いしていました。

その後にまたそのマンガを読み直していました。

必死に読んでいる姿をお母さんが、こっそりと見守っていました。

お母さんには嬉しかったのです。

外に出なくてもいい…… 。

自分の息子に笑顔になってもらいたい。

両親は誰でも同じ気持ちでしょう。

その日は俊彦君はマンガに夢中でいるのでした。

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