第26話 泣き虫トッシー
明日香は麻衣ちゃんと毎日俊彦君の家へ通いました。
毎日プリントと一言の手紙を付けて。
明日香はめげずに夏の暑い中歩いて通いました。
麻衣ちゃんは明日香が行かない! と言ったらいつでも辞めそうな勢いでした。
たまに音弥も付き添ってお見舞いに。
あの手、この手を使い外に出そうと試みるも上手くはいきません。
「 そろそろ放課後かぁ。
また持田さん来るぞ。 寝たふりしよっと。 」
外に明日香と麻衣ちゃんと音弥が居ました。
やっぱりチャイムを鳴らしても出てきません。
「 はぁ〜 、 今日もダメかぁ。
また明日頑張ろう! 」
「 嫌…… 俺に良い手がある。
たしかあいつの好物は…… 。 」
それから数時間後…… 。
俊彦君は布団から出て、外を確認して帰った事を確認しました。
「 今日は
諦めてくれて良かったよ。
期待に応えられないから…… 。 」
そう思いながら自主勉をし始めました。
すると、何故かまだ夜でもないのにお腹が減って来ました。
「 う〜っ。 腹減ったなぁ。
いきなりどうしてだ?
お菓子でも食べるかな。 」
ジューーーーッ!! バチバチ!
外から何やら何かを焼く音が聞こえる。
そして焼いている煙が部屋に直撃!
どんどん匂いが充満して来ました。
「 何だ!? くんくんくん…… 焼き肉!? 」
直ぐにバルコニーから庭を見ると、そこには明日香達と俊彦君のお母さんがバーベキューをしていました。
「 何でウチの庭で!?
しかも…… 俺の大好きなバーベキュー。 」
よだれを滴しながら見詰めていました。
「 みんなぁ〜、沢山焼いているからドンドン食べようねぇ。 」
俊彦君のお母さんが沢山お肉を焼いています。
嫌がらせのように匂いが部屋に突き刺さる!
「 もぐもぐ…… 美味しいです。
俊彦君のお母さん!
俊彦くーーん! 一緒に出て来て食べよう? 」
明日香が大きい声で呼び掛けても返事はありません。
「 やっぱりダメだったのかなぁ? 」
「 いや…… 間違いなく
あいつは食べ物の話になると、直ぐに肉の話になる。
頭の中はお肉でいつもいっぱいなんだよ。
そんかヤツがいつまで我慢出来るかな?
トッシーよ…… 。 」
音弥は学年は違いますが、俊彦君とは家が近くて熟知していました。
ニヤニヤして音弥が下から眺めていました。
当然…… 俊彦君には効果抜群!
お腹をぐぅー、ぐぅーっと鳴らしながら見ているしかありません。
( クソーーっ。 音弥の仕業だな?
母さんも協力しやがって。
しかも炭火で焼ける最高のバーベキューコンロもある。
ウチはいつも電気での焼き肉…… 。
絶対美味いはず…… お腹痛ぇ…… 。
肉の種類も牛から豚に、タンまで勢揃い。
殺しに来てるとしか思えない。 )
よだれを流しながら悔しそうにしている。
好物ばかり焼かれていてしかも、食べたこともないくらいのお肉の部位。
シャトーブリアンまで並べられていました。
どうにか部屋に戻り、ヘッドホンをして音楽を爆音で流して時間が過ぎるのを待ちました。
少し時間が経って夕方に…… 。
いきなりヘッドホンを剥がされる。
「 うぇっ? いきなり誰…… 音弥君…… 。
鍵閉めてたのにどうやって? 」
音弥が部屋に入っていました。
鍵は何か思いっきり叩きつけて壊された形跡が。
「 トッシーよ。 まだ学校怖いんか? 」
黙って下を向いてしまう。
「 んだろうなぁ…… 明日香も怖いのは同じだぞ?
毎日、毎日、辛くても頑張って学校に来てるんよ。
トッシーも学校に来ないか? 」
俊彦君は自分の後にいじめられた明日香に同情していますが、朝に学校の準備をしていても怖くて学校まで行く事が出来ないのでした。
「 トッシー…… 。 今だってそうだ。
あいつなりに頑張って一緒に行こうとしてる。
すげぇー不器用で何したいのか分かんない時もある。
みんな諦めてるけど、あいつだけは信じて待ってんだわ。」
そう言い紙皿一杯のお肉を机に乗せる。
焼いていたけど、俊彦君の分はしっかり残していたのでした。
「 これ…… 。 僕のお肉…… 。 」
「 肉美味いかもしんないけど、みんなで食べると何倍も美味いんだぜ?
もう少しでお開きなるけど…… 。
そろそろ行くわ。 鍵壊して悪かったな。 」
そう言い静かに部屋から出て行きました。
俊彦君は一人残されて考えている…… 。
お腹が減ったので一枚お肉を食べる。
「 あーーむ。 もぐもぐ…… 。
ひっぐ! ひっぐ! ぐすっ。 焼きすぎだよ。
肉本来の旨味が失くなってるよ…… 。 」
明日香の優しさが伝わり、自分を待ち続けている存在が何よりも嬉しくて、涙が溢れてしまいました。
そして明日香から貰ったマンガを思い出しました。
( どんな困難や恐怖も前へ踏み出す一歩が大切なんだ。
さぁ! 仲間達と恐怖に打ち勝ち、無限に広がる未知なる世界を探求するぞーー! )
と言う主人公のセリフが頭を過った。
俊彦君はパジャマ姿のまま部屋を飛び出した。
庭ではまだお肉を焼きつつ、網から鉄板に変えて焼きそばを作ろうかと考えていました。
「 明日香ーー 。 このお肉赤いかなぁ? 」
「 赤い、赤い! 何でもしっかり火を通さないと!
ヒレ何て高いんだから、絶対そうなのよ。 」
と言いながら火を通していました。
そこへ、凄い勢いで走って裸足で庭に俊彦君が出て来ました。
みんなびっくりしていると。
「 はぁ…… はぁ…… 。
肉…… 火を通しすぎだよ!
最高級の部位も台無しになるんだぁ!
貸してくれよ。 」
明日香からトングを奪い、途中からお肉を焼き始める。
パジャマ姿なのに恥ずかしさもなく、必死に焼いていました。
「 このヒレ何て、高温で外側焼いて中はレアが最高なんだよ。
ウェルダンなんて邪道なんだから。 」
ぶつぶつ言いながら焼いていました。
明日香は外に出てきた俊彦君を見て嬉しくなりました。
お母さんも離れた所から見ていて、嬉しくて涙を流していました。
俊彦君が焼いたお肉をみんなで食べる…… 。
「 うまーーいぞぉーーっ! 」
声を揃えて喜びました。
中がレアなのでしっかりとお肉の旨味が伝わりつつ、外側の高温で焼いた部分も塩胡椒でしっかり味付けされていて美味しかったのです。
まるでプロの味!
「 凄いね! 俊彦君。
お肉焼かせたら右に出る人居ないよ。 」
俊彦君は照れながら焼いていると。
「 持田さん…… ありがとう。
僕怖かったんだ。 一人で毎日…… 。
でも…… でも、持田さんが来るようになってからは、鬱陶しい半分…… 一人じゃないと思って嬉しかったんだ。
ありがとう…… ありがとう…… 。 」
後ろから見ているので顔は見えませんが、声は震えていて泣いていました。
明日香は近付いて俊彦君がみんなに焼いていたお肉を箸で持って…… 。
「 はいっ! 俊彦君もあーーん。 」
俊彦君の口にお肉を運びました。
俊彦君は恥ずかしそうにしながらお肉を食べる。
「 もぐもぐ…… 美味しい…… 。
美味しいよ…… ぐすっ。 」
そのお肉は俊彦君が焼いたから美味しいのもありましたが、みんなと笑いながら食べるお肉は何よりも美味しくなるスパイスになり、今まで食べたお肉の中でダントツに美味しかったのです。
にしても…… 俊彦君は気になる事が…… 。
こんな新鮮で美味しいお肉を、スーパー何かではお目にかかる事はまずない。
凄い気がかりになり明日香に尋ねました。
「 持田さん…… このお肉って。 」
「 ん? これねぇ…… 。 」
ドーン! ドーン! っと大きな足音がしました。
玄関からゆっくりと大きな人陰が近付いて来る。
それは、大きくて大きくて怖いくらいの大男。
サングラスを着けた、大男が段ボールを肩に乗せて庭に入って来ました。
「 うわぁーー!! 母さん!
110番してくれーーっ! 」
俊彦君は大声で叫ぶ。
みんなは大笑い。
「 110番はないだろう…… 。
これだから子供は…… 。 」
その大男は熊さんでした。
あまりにも見た目があれなので、みんなに怖がられてしまうのでした。
店からお肉を沢山届けてくれていたのです。
その日はみんなのお腹がいっぱいになるまで食べて、沢山大きな声でバカ笑いしました。
笑っていたときの俊彦君には、毎日の不安は吹き飛んでいました。
もう一人ではないのだから…… 。
その日は沢山盛り上がり、楽しい一日になりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます