第31話 後悔
葵は絵に夢中でしたが、音弥の視線で気が付き目が合う。
「 全然上手くないです…… 。
やる事なくて描く以外何も出来ないので。 」
そう言い、また風景をキャンパスに描いて行く。
音弥は黙って見ていると、みるみる白いキャンパスが写真のように変わっていく。
「 すげぇ…… 。 絵は好きなのかい? 」
「 うん…… 。 」
緊張しながら絵を描いている。
音弥は優しく葵の心を開こうとしました。
「 お嬢さんは転校生だろ?
いつも色々麗美達にからかわれてんね。
大丈夫かい?
あいつらも悪気がないから許してやってほしいな。
俺からも注意するからさ! 」
軽くそう言うと葵の筆は止まりました。
音弥は何か気に触る事を言ってしまったのか?
「 良いですよね…… 冗談ぐらいな気持ちですもんね。
やっぱりそんな気持ちですよね。 」
悲しそうにそう言いました。
「 いじめてる側にはあまり意識はないだろうな。
だから俺が注意するから。 」
「 終わったらまた違う人いじめるんですか? 」
音弥は痛いところを突かれてしまいます。
当然そうだと思いました。
「 もう良いんですよ。
私は…… この場所や景色、生き物や空気も。
だから、これ以上嫌いになれないんです。 」
音弥は軽く考えていました。
とても傷付いていた事を…… 。
本人にとっては苦しくて、痛くてたまらなかったのでした。
「 でもありがとうございます。
私何かに話しかけてくれて。 」
「 話したかったから話したんだわ。
だから、明日もここで話そう?
俺も絵上手くなりたいしさ。 」
音弥がそう言うと葵はくすくす笑う。
「 うん…… 。 」
あまり良い返事が聞けませんでした。
音弥は帰ろうとして。
「 その絵…… 出来たら見せてよな。
じゃあ、また明日ね! 」
そう言うと葵は手を振っていました。
音弥は家に帰り文房具屋でノートを買って、明日に葵と絵を描こうとしました。
その次の日。
美術室に行くと、葵の姿はありませんでした。
風邪かも知れない…… 。
それから何日も、何日も経っても来ませんでした。
音弥は毎日放課後になると美術室に行きました。
全く来る気配はありませんでした。
それから数日して、葵は他の学校へ転校したことを知らされました…… 。
その担任の先生を問い詰めると、いじめられて両親が耐えられなくて子供の為にも、転校と言う決断を下したとの事。
音弥は呆然と美術室で一人座って外を見ていました。
「 なんだ…… 転校しちゃったのか。
絵…… 見たかったなぁ…… 。 」
音弥は何故もっと早く助けられなかったのか?
注意して嫌われる事を恐れたから?
面倒だったから?
色々考えてしまいました…… 。
音弥のノートは真っ白のままでした。
奥の美術準備室の扉が開いていました。
音弥はその部屋知らなくて、ゆっくりと入って行きました。
中には美術の用具や作品が色々ありました。
一つ一つ見ていくと…… 一つ見に覚えのある絵が。
それは葵の描いていた絵でした。
綺麗に仕上がって、色も塗られてとても綺麗でした。
「 綺麗だな…… 。 」
持ち上げて見ていると、一枚の手紙が落ちました。
内容を見てみると。
( 直接見せられなくてごめんなさい…… 。
もっと早く出会いたかったです。
本当にありがとうございました。
もこもこ髪の優しい先輩へ。
葵より。 )
葵からの最初で最後の手紙でした。
約束を守ってくれたのです。
音弥は悲しなり、ノートをテーブルに置いて帰りました。
音弥は学校に絶望してしまったのです。
周りの生徒にも先生にも。
音弥は麗美達に別れも告げずに、学校には二度と来ませんでした。
麗美に音弥が葵の事を話しました。
今の麗美には痛いほどそのやってしまった事の、重大さに苦しみました。
「 俺ってばさぁー …… 。
誰かいじめたり、からかって笑うんじゃなくて…… みんなで昔みたいに笑いたいんだわ。
だから俺は明日香に会ってから、そうする為に学校に来たんだ。
もうあの時みたいに逃げたくなくて。 」
音弥は全て話しました。
そして、一枚のメモを置いて帰りました。
「 それ。 好きに使っていいよ!
俺よりお前さんに必要かもな。 」
そう言い家に帰りました。
麗美はゆっくりそのメモを見ました。
それは、葵の連絡先でした。
音弥は一生懸命調べまくって、どうにか見つけていたのでした。
電話をかける勇気はありませんでしたが。
麗美はスマホを持ち、そこに書いてあった番号に掛けました。
プルルーーっ。 プルルルーーッ。 プチッ!
「 はい。 もしもし…… ? 」
その声は転校してしまった葵の声でした。
震えながら勇気を出して声を出しました。
「 も…… もしもし。 私。
前の学校に居た同級生の麗美。
覚えてないかな? 」
少し無言になり、何も聞こえない…… 。
「 覚えてるよ…… 。 何の用? 」
麗美はしてしまった事を謝り、どうにか許されなくても償いをしたいと言いました。
何度も何度も、心を込めて謝りました。
「 今更…… 言われてもどうしようもないよ。
今でもあの頃の事、思い出すから…… 。 」
当然の返答でした。
麗美は冗談や面白半分でやっしまい、やられてる側の事を考えていませんでした。
転校したときは、少し罪悪感はありました。
でも、少ししたら忘れてしまっていました。
「 そうだよね…… 許してもらえないよね。
今度! 文化祭があるんだ。
来てくれないかしら? 直接謝りたいの。
それと、田舎も嫌いになったままで居て欲しくないから。 」
黙って考えていました。
「 考えておく…… ブチッ! 」
電話が切れてしまいました。
多分…… 来てはくれないだろう。
一人ベンチに座って、遠くを眺めました。
「 葵…… ごめんね。
あんたの気持ち…… 何にも分かんなくて。
沢山傷付けて来ちゃったな…… 。 」
そう思い、ため息をつきました。
ですが何故かスッキリした気持ちになっていました。
麗美にも少しやる事が出来ました。
いじめてしまった人に謝る。
そして、もしも文化祭に来てくれた葵の為にも盛大に盛り上げる為の準備を!
何かしなければ! と考えた一つの答えでした。
謝罪とは頭を下げたり、お金とかでは解決しません。
誠心誠意を込めて、心からどう変わったのか?
答えは数多く存在する。
色んな人間が居るように様々。
どんな答えを導き出すか?
その気持ち一つで、相手が少しでも傷が癒されるかもしれない。
止まっているだけじゃ始まらない。
まずは行動する事から始めるしかありません。
麗美は変わる為に一歩踏み出すのでした。
次の日。 学校に明日香が着くと、そこには麗美の姿がありました。
少しホッとしていると。
「 俊彦…… 。 いじめてごめんな。
絶対もうしないから。 それじゃ…… 。 」
麗美はトッシーにも謝っていました。
本当に反省しているのが良く分かりました。
梨香と早織は全然納得行かない様子…… 。
「 麗美。 どうしちゃったの?
謝る必要なくない? ねぇ。 早織。 」
「 そうだよ。 ちょっとやっただけじゃん? 」
麗美は二人の話を聞き、少し前までは同じ考えだと思うと恥ずかしくなった。
「 もう…… 誰かを傷付ける事はしないから。
あんた達も絶対すんなよ? 」
そう言い教室から出て行きました。
廊下で聞いていた翔が呼び止める。
「 待てよ! いきなりどうした訳よ?
あんな態度してっと、お前がいじめられんぞ? 」
翔が荒々しくしながら言うと。
「 何処かで誰かがこの連鎖止めないと、いつまでもいじめる習慣が続く…… 。
なら私が被害者になろうと、どんなに傷付いても全て受け止めるつもり。
それが私が何も考えずに傷付けてきた事への、少しでも償いなんだ…… 。 」
そう言い教室を出ていきました。
教室では麗美の変貌に納得しない者や、その反省する姿を良く思う者。
このクラスは今、少しずつ変わろうとしていました。
明日香は麗美の反省する姿を、格好良く勇気ある行動に感動するのでした。
担任の先生が明日香の所へ。
「 明日香さん? 少し良いかしら? 」
明日香にどんな用なのでしょうか?
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