第30話 優しい嘘
その日の夜…… 。
麗美とお父さんは謝りに明日香の家へ。
チャイムを鳴らすと直ぐにお母さんが出てきました。
「 どちら様でしょうか? 」
「
私は伊集院麗美の父親です。
この度は娘様に大変なご無礼を働きまして、本当に申し訳御座いませんでした…… 。 」
明日香のお母さんの表情は一気に変わりました。
「 状況が少し分からないので良ければ中でお話しませんか? 」
そうして麗美親子は明日香の家へ。
お母さんは明日香と海人を部屋へやりました。
状況が分からないから子供達を困惑させない為です。
そして…… 麗美のお父さんの口から全ての経緯を話しました。
お母さんは少し黙ってしまいました。
「 あなたの娘さんがいじめていた…… って事ですよね?
…… 冗談じゃありません。
ウチの娘がどれだけ傷付き、泣き、苦しんだか。
麗美ちゃん…… 。 少しでも考えたの? 」
被害者家族からは恨まれて当然。
大体の言われる事が分かっていても、いざその場でその空気と威圧感は当事者にしか分からない重さがそこにはありました。
「 ごめんなさい…… 。
私…… 私、最初は出来心から始まって段々とエスカレートしていって…… いつの間にかいじめるのが日課になっていて…… 。
全く相手の気持ちなんて考えていませんでした。
それと…… 家族がどれだけ傷付いていたか。
本当に…… 本当にごめんなさい…… 。 」
麗美は声を震わせながら何度も謝りました。
お父さんも一緒に何度も頭を下げました。
明日香のお母さんは簡単に許せる筈もありません。
海人はこっそり部屋を覗きに来ました。
( 誰が来てたんだろ?
…… お姉ちゃん!? )
海人が大好きな麗美お姉ちゃんが泣きながら話していました。
海人はびっくりしてしまいます。
ガチャっ!!
「 お姉ちゃん?? 何でウチに居るの?
何で泣いているの?? 」
海人はいじめていたのが麗美だと知らなかったので、家に来ていて良く分からなくなっていました。
「 海人君。 今日は来てもらって悪かったね。
キミに言われなかったらずっと分からなかったよ。」
「 あれ? おじさん…… 。
いじめっ子のお父さん。
えっ? もしかしてお姉ちゃんがいじめっ子!? 」
遂に真実がバレてしまいました。
麗美がどうしても傷付けたくなかった海人に、バレてしまいました。
海人の顔を見る事が出来ません。
涙も止まらなくなりました。
「 …… 海人。 私…… ね? 私…… 。 」
「 絶対に違うよ!!
お姉ちゃんがウチのお姉ちゃんいじめる訳ないよ!
何かの間違いだよ! 」
海人は強く言いました。
信じようとしない海人を見れば見るほど苦しかった。
信用を裏切ってしまったのは間違いのない事実。
変えられはしません…… 。
「 お姉ちゃんはたい焼きくれたり、一緒に遊んでくれたりね、いっぱいしてくれたんだよ。
だから絶対違うの! 」
海人は自分に優しい麗美がいじめるなんて考えられなくて、必死に守るのでした。
その光景が痛々しくて見てはいられません…… 。
麗美は正直に海人に伝えようとします。
「 海人…… お姉ちゃんね。
お姉ちゃんはあなたのお姉ちゃんの事…… 。 」
ガチャ!
扉の開く音がしました。
「 麗美さん。 いらっしゃい!
海人ぉ? 麗美さんはお姉ちゃんの友達だよ。
そんな事する訳ないじゃない。
海人の言う通りだよ。 」
明日香は笑って麗美を庇い、嘘をつきました。
麗美は驚いてしまいます。
「 えっ…… 。
どうして…… ? 」
呆然としてしまいました。
海人は疑いが晴れて喜びました。
「 やっぱりぃ〜〜。 そうだと思ったよ。
僕を驚かしてたんだなぁ?? 」
「 そうよ。 海人は騙されやすいんだから。 」
そう言い二人は笑いました。
麗美のお父さんもびっくりして声が出ません。
間違いなくいじめていました。
なのに被害者がされてないと言ったら、もうこちらからは何も言う事はありません…… 。
麗美のお父さんは何度も頭を下げて、先に車に戻りました。
麗美も乗ろうとしましたが、モヤモヤして家に戻りました。
「 ねぇーー!? どういうつもり?
私がいじめてたのに、何で無かった事にすんのよ?
おかしいじゃない! 」
麗美は明日香と暗い外で声を張り上げて言いました。
明日香は少し困り顔で。
「 海人から麗美さんの話、沢山聞いてたの…… 。
迷子の時も助けてくれたんだよね?
…… ありがとう。
海人から聞いていた、仲の良いお姉ちゃんはいつも優しくて大好きだって。
耳タコになるくらいに聞かされたの。
そんな海人の気持ちを傷付けたくなかったの。 」
明日香がそう言うと麗美は苦しくなりました。
散々いじめていたのに、いつも学校で見ていた優しさを自分にも与えてくれたのです。
「 じゃあーー…… 私の事、まだ怒ってるんでしょ?
イライラしてんでしょ?
許せる訳ないでしょ?
良い子ちゃん面しないでよ! 」
明日香はそう言われて少し悩みながら、ゆっくりと口を開きました。
「 凄い苦しくて、直ぐには忘れられないと思うの…… 。
でもね? …… 私は初めて会ったときから、麗美さんは綺麗でこんな人と友達になりたい!
って思ったんだよ?
それは…… 今も変わらないよ。 」
そう言い真っ直ぐ麗美を見つめて笑いました。
麗美はその言葉が嬉しかったですが、自分が犯した過ちを深く後悔するのでした。
「 あんたって…… 。
分かったよ。 …… ごめんなさい…… 。 」
そう言い麗美は走って行きました。
明日香は今まで悩んでいた気持ちが晴れて、スッキリした気持ちになりました。
そして麗美が車に乗ると。
「 麗美。 …… あの子は良い子だな。
弟を傷付けたくないだけじゃない。
麗美も傷付けたくなかったんじゃないか?
私にはそう見えたよ。 」
麗美は明日香の前では泣かないように我慢していましたが、二人きりになって泣き崩れました。
お父さんは静かに車を動かしました。
その次の日、麗美は学校に来ませんでした…… 。
麗美は平日に一人、池のある公園に来ていました。
昼間で誰も居なくて静かな空間。
麗美は今までの自分を見つめ直していました。
( あたしって…… 何してたんだろ…… 。
分かんなくなっちゃった…… 。 )
深く落ち込んでいました。
そこへ音弥が現れました。
「 よっ! 不良娘さんや。 」
「 何の用なのよ? ほっといてくれる…… ? 」
そう突き放しました。
「 まぁそう言うなよ。
明日香に謝ったんだってな?
明日香心配してたぞ?
学校休んでっから。 」
麗美は池を見ていました。
「 昔は楽しかったよな…… 。
俺達田舎もんは小、中、高って同じメンツが多かったろ?
だから基本幼なじみみたいな感じでさ。
高一の時までは楽しかったよな。
あんないじめが起こるまでは…… 。 」
音弥がそう言うと昔の記憶が蘇る…… 。
高一の時、あのクラスにはもう一人仲間が居たのです。
高一になってから初めて一緒になったのでした。
他の県から引っ越して来て、こっちの高校を受験していたのです。
田舎メンバーはみんな顔見知りで、上手く葵は溶け込めませんでした。
緊張したりしておどおどしている姿を見て、麗美と仲間達は少しからかいたくなりました。
最初は笑ったりするくらいでしたが、段々とエスカレートしていって、机にイタズラ書きしたりしてしまいました。
反応を見たかっただけでしたが、やられた方はたまったもんではないです。
それは一ヶ月…… 三ヶ月と続きました。
音弥は一学年上でしたが、その光景を遠くから見ていました。
そんなある日、音弥は美術室の前を通ると中には葵の姿がありました。
放課後に一人絵を描いていました。
少し覗いていると目が合いました。
「 なぁ〜 ? 絵…… 上手いなぁ。
さすがは美術部だなぁ。 」
初めて音弥と葵は話しました。
その日が最初で最後になるとは、音弥は全く分からなかったのでした…… 。
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