第29話 加害者の代償


次の日に麻衣ちゃんがわざわざ迎えに来てくれて、海人と三人で学校に行きました。


「 明日香大丈夫? 絶対に気にしちゃダメだよ? 」


「 ありがとう。 もう大丈夫だよ。

昨日はいきなり帰ってごめんね。

それと私はいじめられた事よりも、必死に拭いてくれてる麻衣ちゃん見て凄い悲しくなっちゃったの。

何でこんな事するのかなって…… 。 」


二人は昨日の事を色々話しました。

小学校近くに到着して、海人と分かれ道に。


「 お姉ちゃん、行ってきまぁーす…… 。 」


「 はぁーい。 行ってらっしゃい! 」


そう言い手を振り送りました。

麻衣ちゃんは少し違和感を感じていました。


「 海人坊や…… 何か変じゃなかった? 」


「 ん? 私を気にして元気なかったのかな。

何か言われてみるとそんな気が…… 。 」


明日香も少しいつもと違う海人を感じる。

そしてお姉ちゃんを想い、何か強い決心を胸に秘めて学校へ。


海人は学校に着くといつものやんちゃ友達たちと戯れず、学校一の物知り委員長の元へ。


「 委員長! 聞きたい事あるんだけど。 」


「 海人君。 どうしたのかしら? 」


委員長は優しく対応してくれる。


「 高校生のお金持ちのレミ? って人知ってる? 」


何と! 海人は麗美の居場所を探そうとしていました。

委員長がそれだけの情報で分かるはずは…… 。


「 …… わかったわ。伊集院さんの事だと思う。

凄いお金持ちで、ここら辺で伊集院さん知らない人居ないもん。

ただ…… 麗美さんは性格に難ありかな。 」


簡単に分かってしまいました。

海人も情報が分かり助かりました。


「 そうなんだ。

んでもって…… 家って何処か知ってる?」


「 知ってるよ。 私が案内してあげる。 」


何とも放課後麗美の家に行くことになりました。

ちなみに、委員長は海人が気になるようです。

真面目な女の子は、はっちゃけている男子が気になるのは昔から今も変わらないようでした。


放課後案内してもらい、家に到着!

凄い御屋敷にビックリしてしまう。


「 委員長ありがとう。 ここで大丈夫。

明日何か虫か何かでお礼するね。 」


「 全然気にしないで。 そんな事より今度一緒に遊びましょう。

それじゃあ、バイバイ! 」


委員長は嬉しそうに帰って行きました。

そして海人は麗美の家へ…… 。


家の中には麗美の姿が。

最近色々と楽しくなくて、学校を休んでいたのでした。


ピンポーーンッ!

チャイムが鳴り、インターホンで家政婦が対応する。


「 伊集院で御座います。 どちら様でしょうか? 」


「 ぼ! 僕…… 僕、持田海人。

レミって人いますか? 」


たどたどしく麗美と会おうと説明しようとするも、ただ怪しい人にしか感じません。

インターホンのカメラの映像にも、背が低すぎて映ってもいません。

背伸びしてなんとか声だけ届いている状態。


「 どう言った御用ですか? 」


「 会って叱りたいんだ。 僕のお姉ちゃんが、いじめられてるから。 」


いきなり率直的な事を伝える。

やっぱり海人は麗美にいじめを止めさせようと来たのでした。

家政婦が怪しいので全く取り合ってはくれません。

その話を麗美の母親にも聞こえて、家政婦と変わって対応する。


「 僕ぅ。 麗美の母です。

さっきから聞いてるとウチの麗美がいじめなんてする訳ないじゃない。

家ではいつも優しく、友達も沢山居るのよ。

勝手な事言うのは止めてくれるかしら? 」


麗美の母親は良く居る、子供がそんな事する訳ないじゃない派の子供絶対主義!

絶対非を認めずに相手を言い負かす。

こんな親バカなので、娘は裏で色々しているのでしょう。


「 でも! お姉ちゃんはいじめられてるんだよ?

何で信じてくれないの?? 」


「 だからね、ぼく?

お姉ちゃんが適当な嘘をついているのよ。

いじめる理由なんてあるわけないじゃない。

当たり屋も良いとこよ。 」


その言い争いが麗美にも聞こえて来ました。


( 何かしらこの言い争いは?

インターホンのカメラに顔が映ってない。

子供? じゃあ、監視カメラで見てみよう。 )


部屋のパソコンの画面から、玄関の監視カメラ映像を確認する。

そこに映っていたのは、海人の姿でした。


( えっ!? 海人!?

どうしてウチに来たの?? )


直ぐに話を聞きに一階へ。


「 だから麗美がいじめなんてしません!

勝手な事ばっかり言うもんじゃありません。 」


そう言いインターホンでの通話を終了させました。

自分の娘がそう言われたら誰でも良い気持ちではありません。

インターホンを切ると、何度かチャイムを鳴らして来ました。

でも出ません。


「 お母さん…… 今のって…… 。 」


麗美は恐る恐るお母さんに聞きました。


「 気にする事ないのよ麗美は。

何かお姉ちゃんがいじめられてる?

とかなんとか言ってるけど、子供だから適当な嘘ついてかまってもらおうとしているのよ。

だから気にしないで良いわよ。 」


麗美は愕然としました。

海人が言っていたお姉ちゃんとは、…… 明日香の事だったのでした。

麗美は罪悪感に襲われます。

今まで数々のいじめを重ねて傷付けました。

それと同時に海人も傷付けていた事を…… 。

元々何故いじめていたか?

ただの暇潰しでもありました。

ストレス解消程度。

被害者はどうでしょうか?

計り知れないいじめの苦痛により傷付き、学校にも来れない人も出てきます。

何の意味もなくやっていたので、この時に麗美は取り返しの出来ない事をしてしまった事が分かりました。

麗美は直ぐに部屋へ戻りました。


( そんな…… そんな…… 。

海人のお姉ちゃんがメガネちゃんだったの。

こんな偶然ある訳…… 。 )


その時、外から大声で叫ぶ声が。


「 おいっ!! レミって人。

出て来い! 僕と戦えーーっ! 」


海人が麗美の部屋近くまで来て叫んで訴えました。

麗美はカーテンから見える隙間から外を見る。

そこには小さな体で一生懸命に訴える海人の姿が。


「 お前らいじめっ子は何がしたいんだ?

何が楽しいんだ? お姉ちゃんが何したんだ?

お姉ちゃんはなぁー、ずっとずっと前の学校で色々苦労してきたんだっ!!

引っ越して来てやっとお姉ちゃんが笑うようになったんだ!

お前らなんかにお姉ちゃんの笑顔を奪う事何か許さないぞ!! 」


泣きながら二階の麗美部屋目掛けて叫びました。

直ぐに家政婦と麗美の母親が周りの目を気にして、海人を追い払いに。

麗美は震えながら声を殺して涙を流しました。

自分が何気なくやっていた事が、こんなにも傷付けていた事が分かったのだから…… 。


「 ふざけんな! お姉ちゃんはいじめられる事なんか何もしていない。

ずるいぞ。 隠れていて…… 。

そんなにいじめるのが好きなら僕をいじめろ!

僕は負けないぞっ!!

逃げないぞ! お姉ちゃんを守れるなら何でもするんだ!

男の子なんだぞ! 強いんだ!

お前らみたいに逃げたりしないんだ。

お姉ちゃんをいじめ続けるなら何度でも来るぞ!

僕の大切な家族なんだっ。

分かったなぁーーっ!! 」


麗美は泣きながら海人の大声の訴えを聞き、胸の中で何度も謝りました。

すると、海人の元へ麗美の母親より早く父親の姿が。


「 やぁー僕。 キミの話はずっと聞いていたよ。

ごめんね。 色々傷付けてしまって。 」


海人はべそべそと泣いていました。

麗美のお父さんには直ぐに分かったのです。

麗美が明日香をいじめ、今目の前にいる小さな弟をこんなにも心配にさせた事を…… 。


「 おじさんもまだ状況が良く分かっていないんだ。

キミの話は良く分かったよ。

家に戻って良く娘と話させてもらうよ。

キミは勇気ある男の子だな。

おじさん感動しちゃったよ。

偉いぞ。 」


大きな手で海人を撫でました。

後日必ず海人とまた話す事を約束すると、海人は静かにゆっくりと帰って行きました。

直ぐに麗美の母親が来る。


「 あなた。 ウチの麗美がそんな事する筈ありません。

ただの言いがかりよ…… 信じる事ないわ。 」


自分の娘がするはずない。

そう思い込んでいました。


「 お前は黙ってなさい!

私が甘かったよ…… 。

ウチは少し裕福に暮らしている。

だから少し甘やかしてしまっていたのかもしれないね。

ただ私は麗美がそんな事する筈ない!

と信じたい。

もししていたとしたら、あの子の声を聞いて何にも感じないような無慈悲な子に育てた覚えはない!

そうだろ? 麗美…… 。 」


階段で聞いていた麗美が泣きながら降りて来ました。

お父さんはその姿を見て安心しました。


「 良かったよ…… お前はいじめていたかもしれないけど、ちゃんとあの子の痛みが分かったのだから。

安心したよ…… 。 」


直ぐに麗美が走って抱きつきました。


「 お父さん! ごめんなさい…… ごめんなさい。

私…… 私。 沢山酷い事を…… 。 」


お父さんは抱きしめながら言いました。


「 麗美は沢山傷付けてしまったね。

だから誠心誠意込めて謝らなくてはね。

許してもらえるか分からないけど、お父さんも一緒に謝りに行こう。

本当に悪い子だなぁ。 」


麗美は沢山泣きました。

お父さんは流石は社長さん。

子供へ少し目が届いていませんでしたが、これからはもう少し見るように心がけようとしました。


麗美は初めてその日、大泣きをしたのでした。

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