第9話 罪悪感


学校に着いてから席に着きました。

明日香は一番後ろの席。

左側は不登校の無人の席で右上の席が俊彦君の席になっています。

いつも早くから来ている俊彦君の姿が見当たりません。

明日香は嫌な予感がしていました。

そしてチャイムが鳴り先生が来ました。


「 皆さん静かに。 欠席取りますよ。

今日は俊彦君が風邪でお休みね。 」


明日香は愕然としてしまいました。

昨日の事がそんなにも響いていたなんて、思いもしませんでした。

甘い考えでした…… 彼の心の中では張り裂けそうなくらい助けを求めていた事を感じました。

もしあの時…… 手をさしのべていたら…… と思うとやりきれない気持ちになってしまうのです。

授業が始まってからもずっとその事が頭から離れないのでした。


お昼の時間。

その事を麻衣ちゃんに話しました。


「 そうだったんだ…… 。

それは気になっちゃうよね。

でも…… ここでは翔と麗美に目を付けられたら、生きていけないのよ。

それだけは覚えといて。 」


「 …… うん。 」


明日香はゆっくり返事をしました。

自分も標的にされたら?

直ぐにその事が頭を過るのでした。


麻衣ちゃんと居ると学校生活もとても楽しくなっていました。

挨拶程度なら皆と出来るようにもなっていました。

一歩前進です。

帰りに一人ゆっくりまた公園に来ていました。


( 何だよ…… 何処に行ったって私はビビりで怖がりでただの卑怯者じゃない…… 。 )


明日香は思いっきり握りこぶしを作って、自分に腹を立てていました。

そこにまた暇人の青年が現れました。


「 また居たんだ…… 。

またお悩み中かな? 」


明日香黙って湖を見ていました。


「 本当に私ってダメな奴なんだ…… 。

また逃げ続けてるの。

ずっと…… ずっと。 」


そして悔しくて少し涙目になってしまいました。


「 ん? 泣いてるの? 」


高身長の青年は覗き込むように見詰める。

明日香はびっくりして突き飛ばしてしまう。


ドンッ!!


「 うわっ! 行きなり何するの! 」


頬を赤らめて怒りました。


「 何か泣いてるのかな?

って気になってさ。 」


そう言いながらゆっくりぐるぐると回りました。


( 何よこの人…… 前から思ってたけど、少し変なのよね。

何考えてるのかしら? )


そう言えば全く素性を知りませんでした。

明日香は思いきって聞く事に。


「 ねぇ? あなたは名前は? 」


青年は木に登り猫のように枝の上でくつろぎ始めました。


「 俺…… ? んー …… ヘンゼル? 」


明らかな偽名…… 。

しかも女の子の名前。


「 もしかして適当につけたでしょ?

ヘンゼルとグレーテルはグレーテルが男の子よ。 」


青年はびっくりして返答する。


「 えっ!? そうだっけ?

ずっとヘンゼルがお兄ちゃんかと思ってた。

ありがとうー 。 」


そう言いニッコリして小説を読み始めました。

とても怪しい…… 尚且つとても変。


「 ヘンゼルは何歳なの? 」


「 ん?? もう少しで18。 」


一個明日香より年上でした。


「 ヘンゼルは何でいつも公園に来るの?

家は近いの?? 」


小説を真剣に読みながら適当に返答してきました。


「 落ち着くからよ。

…… 公園より上に住んでんよ。 」


訛りなのか変な話し方もしています。

明日香は初対面とこんなに話したのは初めてでした。


「 にしても…… お前はいつも悩んでるな。

もっと楽に生きればいいのに。

周りに流されながらまったり生きろよ?

そうすれば責任とかそう言うしがらみから解放されんだからさ。

自分だけ特別だと思うなよ。

周りに合わせて生きんのが基本よ。 」


そう言いながらポケットからリンゴを取り出して食べながら本を読んでいました。


「 私はね…… そう言うのが嫌で引っ越して来たの!

だからいじめてるのをただ見ているなんて、出来ないの…… 。

だって…… 私はいじめられる痛み知ってるもん!」


明日香は大きな声で青年に言い返しました。

明日香はこんなに物事を強く言う性格ではありません。

否定したかったのでしょうか?

いや…… それを認めてしまうのが怖かったのかもしれません。

必死に訴えかける明日香を木の上から見ていました。


ピョーーンっ!

上から降りて来ました。


「 ごめんね…… 怒らせるつもりはなかったんよ?

ただ傷ついて欲しくなかったんだ。 」


青年は年上としてアドバイスしていたつもりでしが、明日香にはそれが受け入れられませんでした。


「 あっ! …… 別に怒ってないの。

私も楽に生きたいって思ってる。

でも…… いじめられてる人見ていると、私はどうしても自分と重なっちゃうの。

だから助けたくなるの…… 。

私には誰からも手を差しのべてもらえなかったから。 」


青年はじっと聞いていました。


「 知ってるか? 特ばかりしてる奴より損してる奴の方が最後は強いんだよ。

だって沢山痛みや苦しみも知ってるから、色んな人の気持ちが良く分かんだよ。 」


青年はそう言いながら明日香の頭を撫でました。


「 よっしゃ! 俺はお前気に入った。

いつでも俺に悩みとか言いなよ。

そしたらいつでも助けてやるよ。 」


そう言いながら髪の毛をぐしゃぐしゃにしました。


「 もうー! 何するのよ。

髪がぐしゃぐしゃだよー 。 」


明日香は照れながら髪を軽く整えました。

青年はじーっと見ていました。


「 お前…… 。 」


そう言い勝手に眼鏡を取りました。


「 うわぁ。 眼鏡返してよ。 」


自分にその眼鏡を掛けて明日香を見ました。


「 やっぱり…… グレーテルは眼鏡ない方が可愛いよ。 」


一瞬ドキッとしてしまい、直ぐに眼鏡を取り返して掛け直しました。


「 んな訳ないんだから。

誰がグレーテルよ!

しかも気に入ったって何? 」


「 んにゃ! 人の痛みに敏感な奴あんま見た事なかったからさ。

嬉しくてね。

だから俺がいつでも助けちゃる。

誰か一人ぐらいグレーテルを気にしてあげる奴が居ても良いだろ? 」


青年は何も嘘を言ってる気はしませんでした。

明日香は嘘だったとしてもその気持ちが嬉しかったのです。


「 ありがとう…… 。 ヘンゼル。

また公園来てもいい? 」


そう言うと両手を掴みながら。


「 うんっ! いつでも来い。

あの家が俺の家だから居ないときは家来いよ。 」


と言いながら上の家を指差しました。

その家はウッドな丸太で出来た家のようでした。

とても綺麗で可愛いらしい家でした。


「 あの煙突見えんだろ?

あそこから煙見えたら作業してっから。

ピザ焼いたりとかパン焼いたり。 」


「 凄い…… グレーテルは何でも出来るのね。 」


明日香は感心してしまいました。

ピザは焼くものではなくて、焼いてもらう物だとずっと思っていました。


「 全然だよ。 ヘンゼルは絶対無理するなよ?

何かあったら絶対言えよ。 」


そう言い笑い掛けた後に家に帰って行きました。

明日香手を振り見送りました。


「 本当に変な人…… でも。

全然悪い人には見えないなぁ。 」


クスッと笑い明日香は家に帰りました。

青年は家で薪割りをしていました。


「 ほいっと!! ふぅーっ。

にしてもあんな子珍しいよなぁ…… 。

都会もんだと思ってたけど、満更悪い奴じゃないし。

いつも落ち込んでっから俺の陶芸技術で、プレゼントでもしてやろうかな?

喜ぶぞぉーーっ! 」


そう言いながら回転テーブルみたいのを回しながら、その上に粘土のような物を置いてテーブルを自動で回しながら形を整え始めました。

青年は必死に何かを作り始めたのです。


家に帰りロフトから景色を堪能していました。


「 少しだけど落ち着けたのかな。

また会いたいなぁ…… ヘンゼル。 」


とニッコリして部屋に戻りました。

明日香にまた一人可笑しな友達が出来ました。

沢山悩みはつきませんが、明日香はまた一歩前に進みました。

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