第39話 神の裁き
遥か昔、岩手県の田舎の学校に一人の少年が居ました。
その少年は親が仕事で忙しく、妹と弟の世話をするので忙しかったのです。
小さな妹達はお母さんに甘えられない分、そのお兄ちゃんの少年にワガママを言って困らせていました。
「 お兄ちゃん。 お腹空いたよ。 」
「 ボクもだよ。 」
直ぐに冷蔵庫を見ても子供の喜ぶ物はありません。
たいしてお金も持ってなくて、今みたいにコンビニもありません。
困り果てた少年は三人で散歩する事に。
妹達は泣いたりしてワガママばかり言ってしまう。
それでも少年は怒ったりはしませんでした。
まだまだ子供だから仕方ないと。
自分だってまだまだワガママ言いたい年頃。
それでも文句一つ言わず二人の面倒を見ていました。
歩いていると美味しい匂いと、凄い賑やかな声が響いて来ました。
「 ほら! あっちで楽しそうな事やってるぞ。
兄ちゃんと一緒に行こう。 」
二人の手を取り、三人はその声の方へ歩いて行きました。
そこには高校があり、文化祭が行われていました。
今よりは静かでしたが、そのお祭りは少年の目には華やかな遊園地に見えました。
屋台が立ち並んでいて、りんご飴に金魚すくいにチョコバナナに焼きそば。
特に目に止まったのは、たこ焼き屋さんでした。
美味しそうなソースの匂いに、三人はゆっくりと近寄って行きました。
焼いているお兄さんは格好よく、綺麗な円形のたこ焼きが生きているようにコロコロと回っている。
「 おう! 坊主。 たこ焼き食べるか? 」
ぐぅ〜っ。 お腹が鳴ってしまう。
お小遣いも全然無くて、買う事が出来ませんでした。
少年は。
「 良いんです。 お金ないから。 」
妹達はお腹を空かせて食べたそうに見ている。
「 そうか…… 金ないなら食わせられないな。 」
お兄さんの冷たい言葉に、当然だと分かっていても苦しい気持ちになりました。
ここに居ても仕方がないので帰ろうとすると。
「 金ねぇなら稼ぐしかないな…… 。
坊主! 妹と弟にたこ焼き食わせたいだろ?
なら働いてたこ焼きを食えよ。
教えてやるからさ! 」
少年はその優しいお兄さんの言葉に、嬉しくて涙が出そうになりながら働きました。
下手な包丁でタコを切ったり、ネギを切ったりして一生懸命に働きました。
その光景を二人の妹達はお兄ちゃん、格好いいなぁと思いながら見ていました。
たこ焼きをひっくり返すのも一苦労。
少年にはとても出来そうにない…… 。
やればやるほど崩れてしまい、売れる商品になりません。
少年は罪悪感でいっぱいになっていました。
「 なんだ? もう諦めるのか?
妹と弟腹空かせてんだろ?
頑張って丸いたこ焼き焼いてみろよ。
何度間違えてもいい…… 。
一緒にやろう! 」
その高校生のお兄さんは手取り足取り教えてくれて、やっと丸いたこ焼きが出来ました。
少年はその時に今まで味わった事の無いくらい、嬉しい気持ちになりました。
そして少年の焼いたたこ焼きはどんどん売れて、在庫がついに無くなりました。
お兄さんも一人でやっていたので大喜び。
「 良くやったなぁ。 坊主。
ここに一匹タコあるから、残りは妹達に焼いても良いぞ。
これが働いたときに貰える対価ってやつだ。 」
そう言いながらお兄さんわゲラゲラと笑う。
少年は嬉しくて泣きながら覚えた技術で、たこ焼きを材料が無くなるまで焼きました。
するとタッパーにいっぱいのたこ焼きが出来たではありませんか。
そして二人の元へ持っていく…… 。
「 お前達。 たこ焼き出来たぞ。
食べていいぞ? 」
すると妹は。
「 お兄ちゃんから食べていいよ? 」
妹からの優しさである。
頑張ったお兄ちゃんが最初に食べて欲しかったのです。
少年は大きく一口…… 。
「 うまい…… うまい…… 。 」
そのたこ焼きは今まで食べた何よりも美味しかったのです。
味も美味しかったのもあります。
一番美味しく感じたのは、「 自分で作った。 」
ここがポイントでした。
妹達も美味しそうに沢山食べました。
お兄さんは嬉しそうに見ていました。
少年はその日忘れる事の出来ないくらいの思い出になりました。
その日から少年はお母さんにお小遣いを貰い、八百屋に行っておつかいをして、妹達にご飯を作るようになりました。
全然上手く出来ませんでしたが、本を読んだり近くに住んでるおばさんに教わったりしてぐんぐんと上達していきました。
その少年は夢が出来ました。
( 立派な料理人になって、妹や弟や母ちゃんと父ちゃんに美味い料理を作りたい。 )
その夢の為に少年は学校に行きながらも二人の世話をしつつ料理を特訓して、高校出た後に料理人の道へ進みました。
その道は険しく、何度も諦めそうになりました。
その度にあのお兄さんとの思い出を思い出して、また次頑張ろう!
そう思ったのです。
そして…… 若くして34歳。
海外で料理を学び、日本に戻って来た時はもう世界が認める料理人になっていました。
自分の店を開いて大好きな家族をおもてなしをする。
家族は泣いてしまうくらいに喜びました。
その料理はお金持ちが沢山お金を払っても良いくらい、美味しい料理になっていました。
そして天皇専属の料理番に抜擢され、老いてしまうまで腕を振るいました。
辞めるときに天皇様からその功績を称えられ、一つのブローチを手渡されました。
それが…… ご老人がスーツに着けていた、黄金のブローチでした。
そして現在…… 神の料理人の前で、エセ芸能人気取りの食べ歩キングはぶるぶると震えている。
「
生きる人間国宝と言われている。
何でこんな田舎の文化祭に!? 」
周りも吉澤北斗の顔は知りませんでしたが、名前を知らない人は居ないくらいに凄い人でした。
ご老人は乱れた服装を直しつつ、食べ歩キングに近寄って来ました。
「 私は元々目立つのが嫌いで、あまり人前には出た事がなくてね。
ここは私の母校で大切な場所なんですよ。
文化祭は絶対に欠かさずに来ているんです。 」
周りがざわざわとしてしまう。
あちらこちらと写メを撮ったり、動画を録ったりTwitterで呟いたり。
明日香達はポカーンとして口が開きっぱなし。
「 食べ歩き君。 キミはここのたこ焼きをドッグフードとか言っていたのが聞こえてね。
逆に食べてみたくてね。
そしたらどうしたものか?
とっても美味しいじゃないか?
私はこのたこ焼きなら喜んで何度も食べたいと思うくらいにね。 」
周りも食べ歩キングとの評価との差に驚いてしまう。
「 お嬢さん。 最高のたこ焼きだったよ。
ありがとう。 子供の頃を思い出したよ。 」
そう言い微笑みました。
その笑顔はとても優しく、温かい表情で明日香も嬉しくなりました。
「 いいえ。 ありがとうございます。 」
深くお辞儀をしました。
そしてゆっくりと振り返る。
「 キミはここのたこ焼きを批判したね?
逆にキミの舌を疑うレベルだよ。
いや…… 人としてもどうかと思うね。 」
食べ歩キングの顔はグショグショに汗でびっしょり。
怖くてパンツの中までびっしょりに…… 。
はっ! と我に変える。
「 森山!? もしかしてこれ、全国に流れてる? 」
そうです…… 今の状態は世界で生放送されていました。
「 はい…… 。 悲しいですが、もう遅いかと。 」
最高同時視聴数は2万人。
人間国宝が現れてあっという間に急上昇に上がり、ネットではこの生放送に釘付けに。
初の同時視聴人数は、500万を突破してしまいました。
ネットでは人間国宝の話や、その国宝級が認めた料理を酷評したとどんどん話題になっていく。
そして急上昇ワードは「 食べ歩キング舌バカ 」。
ネットで笑い者になってしまいました。
「 す…… すみませんした。
許して下さい…… 吉澤さん。 」
人間国宝は謝られても全く微動だにしません。
自分はこの後にどうなるのか?
この業界で生きていくのは、もう無理ではないのか?
不安が頭をよぎってしまう…… 。
「 私は怒ってはいるが謝られても困るよ。
お嬢さん達の看板に泥を塗ったなら、本人達に謝るのが筋なのではないか? 」
そう言われて直ぐにキングは明日香の前へ行き、土下座をしようとする。
膝を地面に着けようとした時、明日香も膝を着いて。
「 私も麻衣ちゃんも傷ついた事は間違いありません。
だからと言って反省しているのに、追い詰める必要はありません。
これ…… 。 もう一度食べて本当の感想が聞きたいです。 」
明日香はキングにたこ焼きを手渡しました。
キングは何が何だか分からなくなってしまう。
「 レビューとかするのも素晴らしいと思います。
でもたまには、純粋に料理を食べてみて下さい。
絶対美味しいんですから! 」
明日香はニッコリ微笑みました。
キングは手が震えながら一口食べました。
「 う…… 美味い…… 美味過ぎです。
ひっく!! 美味しいです。
ごめんなさい…… ごめんなさい。 」
キングは全ての肩書きや経歴を忘れ、食べたたこ焼きは格別に美味しいかったのです。
くしゃくしゃな顔して食べる姿は、反省しているのを物語っていました。
明日香はニコニコしながら純粋に喜びました。
( ホッホッホ! 強いお人だ。
彼女の一言で周りの罵声が終わりましたね。
本当にここにまた来て良かった…… 。)
人間国宝は明日香の事が凄く好きになりました。
その様子はネットで流れ続けていました。
反省している=許される訳ではありません。
ですが、間違えていた事に気付き、二度とこんな事はしないのではないか?
と少しは思う人が居るのではないでしょうか?
信用を回復するには行動するのみ。
キングはまたここから初心に戻り、新しく踏み出して行くでしょう。
「 明日香ぁーー 。 何やってんのよ!
すんごい行列なんだから。
手伝ってくれる?? 」
麻衣ちゃんにそう言われて店を見ると、学校の外まで並ぶくらいの列が出来ていました。
「 うわぁ…… 大変だぁ!!
いらっしゃいませぇ〜〜 。 」
明日香は直ぐにお店に戻りました。
麻衣ちゃんと直ぐに接客へ。
その日はあっという間に完売する事になりそうです。
明日香達のお店は大成功!
今日は大忙しです。
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