第40話 孤独なクレープ屋


その頃、麗美のお店はと言うと。

…… 誰もお客さんが来ていませんでした。

一人での屋台なのでメニューは三つ。

イチゴクリームとチョコクリーム。

豪華なプリンアラモードパフェ。

全部クオリティは間違いなし。

メニューはあまりにも少ない…… 。


実の所、全学年でクレープ屋は7つ。

文化祭では定番過ぎて多くなってしまうのは、昔から変わる事はありません。

三年生のクレープ屋は、パティシエ志望の人達の本気によりメニュー数は30種類!!

店の看板や外見も華やか。

人数も多いので作るスピードも速い。

麗美は不慣れでもある為、少し時間がかかってしまう。

これは致命的な欠点である。


( クソぉ…… 。 全然駄目だ。

少しも止まってくれない…… 。

食べて貰えれば、絶対美味しいのに。 )


麗美は悔しくてたまりませんでした。

一人で意地になった事も悪かったのでした。

今頃気付いても遅かったのです。

下を向いていると急に声をかけられる。


「 そこのきみ? クレープをやまもりでくれるかな? 」


その声で我に変えり、直ぐに対応しなければ。

にしても山盛りのクレープを注文?

何とも図々しいお客さ…… そんな事よりも対応を。


「 いらっしゃいまっ…… あれ?

居ない? 何処から? 」


前を見ても誰も居ません。

周りを探しても見つかりません。

新手の嫌がらせなのか?

そう思っていると。


「 キミキミ? 下だよ。 」


麗美は屋台前に出ると、そこには小さなお客さんが立っていました。

小さくて見えなかったのです。


「 海人かぁ…… 食べに来てくれたの? 」


海人がパンパンなカエル君のお財布を片手に、クレープを食べに来たのでした。


「 そうだよ。 お金もたくさんある。

ここのお店のクレープを食べきってあげる! 」


海人は麗美が心配で一番最初にこの店に来てくれたのでした。

麗美は直ぐにクレープを作りました。

海人はイチゴクリームのたっぷり入った、レアチーズ仕立てのクレープに。


「 むしゃむしゃ…… ん!

やっぱりここのクレープはさいこうだね。 」


口の周りをクリームだらけにしながら、必死に食べていました。

麗美は横に座り、海人の口の周りをハンカチで拭いてあげました。


「 本当にまだまだ子供なんだから。 」


クスクスと笑いながら面倒をみてあげました。


「 お姉ちゃん? 何でお客さん全然居ないの?

ここのクレープはさいこうだよ?

なんでほかのお店にばっかりいくんだろ…… 。 」


海人は純粋にそう思いました。

補正は間違いなく入っています。

海人は食べながら悔しくなりました。


「 どうしてだろうね…… 。

お姉ちゃんには無理だったのかな。 」


食べ終わり、少しお腹が膨れた所で立ち上がりました。


「 ちゃんと作る準備しておいてね? 」


「 えっ…… ? 」


麗美は謎の海人の言葉を聞いてびっくりしました。


「 ぼくがお客さん呼び込みに行ってくる!

まっててね!! ソイヤッ!! 」


海人は小さな体で凄い勢いで走って行きました。

麗美は呼び止めようとすると、もう見えないくらい離れてしまっていました。


「 海人…… 無駄な心配して…… 。 」


麗美は心配してもらえて嬉しいよりも、申し訳なくていっぱいでした。


海人は他のお店に来ていました。

何故こっちには人がこんなに居るのか?

偵察に来ていたのです。


( ん〜 なんでだろ? こんなに人が…… 。

そうだ! 一個食べてみよ。 )


一個注文して食べる事に。

もぐもぐ…… 。 普通に美味しい。


( 美味しいけど…… あのクレープよりは落ちるかな?

みんなはまだしらないんだ。

あの美味しいクレープを…… 。 )


クレープを片手にどうして良いか分からなくなってしまいました。

無力感が海人を襲いました。

力になりたい…… いつも助けられてばかり…… 。

今度は僕が助けるんだ! と思い続けていました。


「 オッホッホッホ! そこの食いしん坊君。

お困りかな? 」


そこに現れたのは大きな犬の着ぐるみを着た犬君でした。


「 あっ…… 犬君かぁ…… 。

キミにはわかんないよ。 ぼくのなやみなんか。 」


海人は静かにクレープを食べました。


「 ボクには分かるよ。

キミはお姉ちゃんの力になりたいんだろ?

ボクには何でもお見通しさ! 」


何と! 犬君には全てお見通し。


「 すげぇ! 犬ってなんでもわかんの?

じゃあ、どうすれば良いか教えてくれる? 」


海人は目をキラキラ輝かせて犬君に聞きました。


「 そうだなぁ…… お店の見た目を見てごらん?

何か分かるかい? 」


海人が周りのクレープ屋さんを見る。

外見がとても綺麗でした。

華やかで呼び込みもしていて、直ぐに入りたくなってしまいそうになるくらいに。


「 そうか…… そう言う事か。

でもどうすれば…… 。 」


海人はどうやって麗美の店を華やかにするか。

考えました。 小さな頭をフル回転させて…… 。


「 キミは虫取ともう一つ。

得意な事があったね。 何かな? 」


「 あーーっ! それか!

よっしゃーー 。 図工室で何か探して来る。

ありがとう。 犬くーーん。 」


手を振りながら海人は美術室へ。

犬君は手を振って送りました。


「 あのぉ…… その着ぐるみ返してもらっても良いですかね?

そろそろ使うので…… 。 」


犬君の着ぐるみの持ち主が返して貰いに来ました。


「 あらごめんなさい。 ついつい。

本当にごめんなさいね。 」


犬の頭を取るとそこには明日香ママの姿がそこにはありました。

心配で見ていたのでした。


( 海人…… あなたは優しいの。

その優しさを全部ぶつけてやりなさい!

それでこそウチの男の子なんだから。

女の子を泣かせたら許さないんだから。 )


明日香ママは少しだけフォローをして見守るのでした。


美術室に着くと、沢山の木材や色んな道具が勢揃いである。


( よぉ〜〜 し。 ここで色々借りて華やかにするぞ。

そうすればお姉ちゃんを助けられる。 )


こっそり物色していると。


「 コラーーっ!! 何してるんだ!? 」


美術の先生。 八巻先生の登場です。

女性の30代の独身。 気は強いが優しい先生。


「 あの…… お姉ちゃん助けたくてその…… 。 」


もじもじしながら話していると。


「 泥棒は良くないわね。

ここは私の道具とかがいっぱいあるのよ。

それを盗ってしまったら泥棒になるのよ?

ボク分かるかい? 」


先生はそう言うと海人は下を向いて反省しました。


「 お金もそんなに無くて…… 。 」


「 それじゃあダメね。

ここはそろそろ閉めないといけないの。

悪いわね…… 。 」


ぐぅ〜〜 っ。 お腹の音が鳴りました。

海人はニヤリとする。


「 先生…… 。 お腹減ってるでしょ? 」


先生はギクッ! と意表を突かれてびっくりする。


「 そ…… それが何なのよ? 」


海人は肩からかけているバッグからタッパーを取り出しました。


「 お姉ちゃんが教えてくれたんだ。

お金が無いときはぶつぶつの交換ってのがあるって。

だから今がそのときなんだ。 」


海人が取り出したタッパーには、無理矢理詰め込んだ麗美のクレープが入っていました。

特製のプリンアラモード味。


ゴクリっ!! 唾を飲み込む先生。


「 ちょ…… 子供が難しい事言うんじゃない!

物々交換なんて。 そんな物なんかに…… 。 」


グギュ〜〜っ!! 竜の鳴き声のようにお腹が鳴ってしまう。

先生はクレープが大好物。

文化祭はクレープ巡りをするのを楽しみにしていました。


( この子…… 何処でこのクレープを!?

見て分かるわ…… ふっくらしてもちもち食感。

この匂いからして生地も美味いのは間違いなし。

A5くらすの生地ね…… 。

しかも中身は…… プリン!?

何て子なの。 私を脅すつもり!!? )


「 しかたないなぁ…… 。

このクレープは体育のあの味も分からなそうな人にあげようかなぁ。 」


体育教師にあげようと少し揺さぶる。

先生は帰ろうとする海人の肩を手で掴み呼び止める。


「 ちょっと!! あんな脳筋には勿体ないわ。

…… 何が欲しいの?

何でも使って良いわ。 」


「 イッヒッヒ! やったね。

看板作りたいから大きな画用紙と絵の具。

使ってもいいかな? 」


「 わ…… 分かったわ。

好きに使いなさい。 その代わりにお店も何処にあるか教えなさいよ? 」


交換成立! 海人は場所を教えてタッパーを渡す。

直ぐに勢い良くかぶりつく。


( うまい…… 美味い!!

これは…… パティシエなのか?

今回の文化祭は当たりね!

バクバクバクっ! )


先生は我を忘れて食べ続ける。


海人の虫取以外に得意な事…… 。

それは工作でした。

海人は今、麗美の為に力になろうと動くのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る