第41話 恨みの炎
麗美は材料を切ったりしてお客さんが来るのを待っていました。
高級な大粒苺や産地直送の烏骨鶏の卵。
自分が出来る最大限の力を出すために、一生懸命に調べて買っていました。
お父さんも協力してくれて、苺も山本ファームから朝採れたての新鮮な苺。
ルビーのような輝き…… 。
悲しく一粒口に入れる。
「 美味しいなぁ…… 。 」
悲しくなりながらしゃがんでしまう。
立ち止まりはしてくれるけど、メニューとか側のお店の評判を比べると明らかに麗美の店は劣ってしまう。
三年生のスイーツパーラーは大繁盛!
田舎メディアにも取り上げられて、どんどん勢いが増していきます。
凄い…… 純粋にそんな感情しか沸きませんでした。
( 何だ…… 。 ただの一人ぼっちじゃない。
見てられないわ。 )
一人の女性が麗美を離れた場所から見ていました。
呆れたように歩いて校門へ向かう。
( 久しぶりだなぁ…… この学校…… 。 )
高校生くらいの女性は懐かしそうに学校から出ずに、色々ふらふら見て回りました。
校庭や鶏小屋やプール。 家庭科室や校内。
そして美術室にたどり着く。
( 何にも変わんないなぁ。 ここも…… 。
結構好きだったんだよね。 美術室。 )
中へこっそり入り、懐かしそうに見て回る。
木の机の匂い。 絵の具の匂いや器具独特な匂い。
昔の事を思い出していました。
「 そして…… こうやってぇ! 」
海人は一人看板を作る為に、大きく字を書こうとペンキを用意していました。
その女性は海人のような子供が何をしているのか気になりました。
「 ん? 誰?? 」
海人は目線を感じて振り向いて、話をかけました。
「 あっ。 ごめんね…… 。
覗くつもりなかったんだけど、ちょっと気になって見ちゃってたんだ。
坊やは何で一人でやってるの? 」
海人は直ぐにペンキで字を書き始める。
「 お姉ちゃんのお店の看板作ってるんだ。
作ったらさ、沢山お客さん来てくれるでしょ? 」
海人はそう言いながらぎこちない手つきで書き始める。
ふにゃふにゃな字を看板に書きました。
「 ん? おいしいくれーぷやさん?
これって…… 。 」
その女性は看板の字を見て何処の看板を書いているか気付きました。
「 麗美姉ちゃんのお店のだよ! 」
その女性は表情が強ばりました。
海人の字はとても読みにくく、派手ではありますがとても入りたくなる見た目ではありませんでした。
「 坊やはどうしてあの子のお手伝いするの?
命令されたんじゃない? 」
女性は海人に問い詰める。
海人は看板を色んなペンキでアレンジして華やかにしようと改造する。
「 命令? あはは。 違うよ。
僕がやりたいと思ったからやってるんだよ。
麗美姉ちゃん大好きだからね。 」
女性はびっくりしてしまう。
自分の知っているあの子は、子供に気に入られるような人には思えませんでした。
口調は荒く態度もデカい。
傲慢でクラスの中心でお金持ち。
人をいじめるのが大好きな最低な女…… 。
「 僕はいつも何にもうまくできなくて…… 。
麗美姉ちゃんはいつも僕を助けてくれたんだ。
お腹減ってるときも迷子になったときも。
公園で会ったときもあそんでくれたんだ。
だから、だから力になりたいんだぁ。 」
海人はいつも面倒ばかりかけていたから、次は自分が力になりたかったのです。
それが友達の証です。
「 麗美姉ちゃん今一人ぼっちなんだ…… 。
僕は男の子だもん。 絶対力になりたいんだぁ。
寂しいなら一人ぼっちより、二人なら寂しくないでしょ? 」
女性は黙ってしまいました。
海人の純粋な気持ちを聞いて、今までの麗美とは少し違うのかと思ってしまいます。
それと同時に許せない自分も居ました…… 。
( この子…… 。 相当仲が良いのね。
もしかしたらこの子に会って、変わったのかしら?
…… だからってあいつのやったことが許されるはずないんだから…… 絶対に…… 。 )
歯を強く噛み締めながら、昔の事を思い出していました。
ですが海人と居ると少しずつ癒されている自分がいました。
何をしている訳ではありません。
嘘偽り無く話す海人だからこそ安心するのかもしれません。
「 坊や? そんな看板じゃ誰も来ないわよ? 」
「 なんだってぇい!? どうして?? 」
その女性は欠点や華やかさは色を使えば良いわけではない事を伝えました。
すると筆を女性の前に出しました。
「 そんなに言うならおてほん。 見せてよ。
一緒に作ろうよ? 」
「 えっ!? 」
女性はあまりにもいきなりな事に焦り始める。
自分の嫌いな麗美の為に看板を作る…… 。
絶対にやりたくない気持ちでした。
でも海人の顔を見ていると、助けたくなってしまう自分も居ました。
( 本当自分勝手ね…… 子供は!
それなら! 殴り書きで書いてやる!! )
早い手つきで字を書いて、その字を目立つように大きくしたり角を丸くしたはらして目立つようにする。
看板の色を塗ったりして簡単にやりました。
( 雑にやったから怒っちゃうかな?
それならそれでいいや、別に…… 。 )
海人は看板を持ち上げて見ました。
「 うわぁ〜〜 。 すごいなぁ〜〜 。
お姉ちゃん上手いんだね。
ありがとう手伝ってくれて。
後は周りに絵を書いたりするね! 」
海人は大喜び! その看板は周りのお店の看板よりも格好良く見えたからです。
「 お姉ちゃんはこう言うの上手いんだね。
名前は何て言うの? 」
女性はびっくりされるとは思わなくて動揺してしまいました。
少し落ち着きながら名前を言います。
「 私は森山葵。 ちょっと前にこの学校転校したの。 」
女性の正体は森山葵…… 。
麗美達がいじめて転校させてしまった被害者です。
麗美の謝罪の電話を受けて、行くだけ行こうと思い来たのです。
「 葵姉ちゃんね! 僕は海人。
海を愛し…… 山を愛し…… 森を愛す。
ここら辺の虫を全て捕まえてやるんだ! 」
海人のよく分からない自己紹介を聞き、クスクスと笑いました。
「 私ね。 転校して友達も出来て凄い楽しい。
でもね…… ここでの嫌だった事たまに思い出すの。
でも…… ちゃんとは嫌いになれないんだよね。
変だよね? 嫌な事ばっかりだったのに…… 。 」
海人はちょっと考えました。
難しい事は頭を使わないと全く分からないからです。
「 葵姉ちゃんはここの学校が大好きだったんだね。
だから忘れられないんだよ。 」
葵はその通りだと思いました。
人に言われた時にやっと分かりました。
ここの学校の授業や生活。
景色や空気。 部活動…… 全部忘れられないくらい大好きでした。
「 ウチのお姉ちゃんが言ってたんだぁ。
いっぱいいじめられたけど、いつかは許したいって。
じゃないと前に進めないっさ!
僕もお姉ちゃんとケンカしたとき、絶対ゆるしてやらない! って思ったこともあったけど。
でもお姉ちゃん大好きだから許したの。
えへへへっ! 」
葵は分からなくなってしまいました。
同じくいじめられたのに、前に進める人も居る事に動揺するぱかり。
許す事はそう簡単に出来る事ではありません。
当然なのです…… 。
「 よし! 出来たぞぉ! 」
看板は海をイメージさせる「 青 」 を起点にして、波やスイカやクレープの絵を書きました。
字のフォントは葵が作成してとても見易く、そして目立っています。
海人のイラストも最高に目立っていて、そして可愛らしい!
葵はその出来栄えにびっくりするばかり。
「 んしょっと! ありがとうね。
葵姉ちゃんも暇なときクレープ屋来てよ。
麗美姉ちゃんも喜ぶと思うし。
じゃあ、またね! 絶対来ておくれよ〜 。 」
海人は看板を持って走って行きました。
葵は黙って海人を見送りました。
「 …… そんな簡単にいかないんだよ。
私はそんなに優しくはないから…… 。 」
そう言いながら座り込みました。
そこへ美術の先生が話を聞いていて、ゆっくり近付いて来ました。
「 葵ちゃん。 久しぶりね。
気付くのがもっと早ければどうにかなったかも知れないのにね…… 。
本当にごめんなさい…… 。 」
先生は顧問の先生として葵の事を気付けずに後悔していました。
「 先生は謝らないでよ。
全然先生の事は恨んでないから。
ただね…… 一人ぼっちの孤独だったのが悲しかったの。
先生も友達だけど、同世代の友達が誰も居なかったのが本当に悲しくて…… 。 」
そう言うと先生は用具室から一枚の絵を持って来ました。
「 本当に鈍感だったのね。
あなたを見ていてくれた人、居たじゃない。 」
葵にそう言い一枚の絵を渡しました。
その絵は音弥の書いた、葵の絵を書いているときの絵でした。
音弥に絵の書き方を教える約束だったのを思い出しました。
音弥なりにあの後に、先生から教えてもらいながら記憶の葵を書いていたのでした。
「 そんな…… どうして…… 。
会って話したのは一回なのに…… 。 」
「 音弥君。 あんな感じだけど根は真面目なのよ。
どうにかあなたを助けたかったのね。
もう少し早ければ…… 。 もう少し声をかけていれば…… ってずっと後悔してたのよ?
あなたは一人じゃなかったのね。 」
その絵はどうみたって下手くそな絵でした。
それでも良く覚えて特徴を捉えていて、絵を描くときの癖の目を細める所も書いてありました。
「 …… 本当に私って、なんも分かってなかったのかも。
いじめられて被害者だって事ばかり考えて。
本当に…… 本当に今頃気付くなんて…… 。 」
葵はその一枚の絵を抱き締めて泣いてしまいました。
今までの抱えていた痛みや苦しみ…… 。
一人だけだとしても味方が居てくれた事を、本当に嬉しく思い涙しました。
「 ゆっくりでいいから。
先生も味方だからね?
一緒にクレープ食べよ?? 」
カチッ! カチッ! カチッ!
今、葵の止まっていた歯車が動き出したように感じました。
葵は少しずつ前を向こうと思うのでした。
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