第42話 麗美の為に
麗美は疲れて座ってしまいました。
( もう…… 誰も来ないわよ…… 。
立ち止まってもメニューの少なさや、トッピングの少なさに他店との差を感じちゃうのよ。
頑張ったけど一人じゃあ、もう駄目なのかも。 )
珍しく弱音を吐きながら座っていました。
「 おうおう。 人ががんばってんのに休憩かよ。
まったくぅ〜 。 」
ふと子供の声が聞こえて立ち上がります。
「 海人…… それって…… 。 」
大汗をかきながら持ってきたのは、頑張って作った麗美のお店の看板でした。
麗美は凄い出来栄えに言葉を失いました。
「 やれば出来るんだってばさ。
これがあればもう 。 」
麗美はあまりの嬉しさに抱き締めていました。
一人ぼっちで心細そくて寂しかったのです。
そして何よりもその優しさに感動していました。
「 ありがとう…… ありがとう 。 」
海人はびっくりしましたが、直ぐに麗美をなだめました。
「 男の子だから守ってあげるのは当然だろぉ?
お礼を言うのは成功してからにしてくれる?? 」
そう言われてその通りだと思い、また店に戻りました。
海人もお手伝いをする為にバンダナを着けてスタンバイ。
看板をつけると何とも良い見栄え…… 。
他店には負けないくらい目立っています。
「 おいしいクレープやさんですよぉ〜 。
食べてって下さいなぁ。 」
海人が呼び込みを始めました。
麗美も一緒に声を出して呼び込みしました。
海人は持ち前の声の大きさと、身軽さで客を呼び込みます。
「 お姉さん。 ここのおいしいよ。
苺もおっきいし、甘くておいしいんだよ。 」
他校の女子高生にクレープの説明をする。
子供の客寄せはどうなのか?
「 そうなの、坊や。
じゃあ少し食べて見ようかなぁ。 」
何と! 可愛らしい客寄せはお客さんを捕まえる事に成功!
「 二名様入りまぁ〜〜 す。 」
そして海人は次の客寄せへ。
「 メニュー少ないねぇ…… じゃあ苺の二つ。 」
「 じゃあ、私も。 」
二人は苺のクレープを二つ頼みました。
お金を受け取り、直ぐに作り始める。
初めてのお客さん…… どうなるのか?
出来たパフェを手渡します。
「 ありがとうございます。 」
二人は近くのベンチで一口食べる。
「 …… うぇっ!?
あの坊やが美味しいって言うから、生半可な気持ちで注文したけど凄い美味しい! 」
その女の子はバクバクと食べ進める。
食べていると味の変化が起きる。
「 えぇっ?? これっ…… 。
真ん中にレアチーズが入ってるの!? 」
それを聞いてもう一人の女の子も食べる。
「 本当に美味しい…… 。
あの女の子一人で作ってるの?
バクバク…… 本当に真ん中にレアチーズ入ってる。
ブルーベリーとレアチーズの味変が、最高のハーモニーを奏でてるわ。
レベル違いだわ…… 。 」
二人は夢中で食べまくりました。
遠くで見ていた麗美は一安心して、少しホッとしました。
何ともあっという間に食べてしまい、もう一つ食べたくなってしまう。
「 違う味、半分こにしよっか? 」
「 そうしよう。 食べたいもんね。
すみませぇーー ん。 プリンの一つ下さい! 」
二つ目のクレープ。
これも自信作。 麗美はまた作り始める。
このクレープは苺のとはひと味違うのです。
生地を少しだけもちもちに仕上げて、病みつきもちもちプリンクレープになっているのでした。
明日香ママとの協力作品。
「 よぉーし。 一口…… 。 あむっ!
くぅ〜〜 っ! 甘い。 食感がまた違うっ!? 」
バクバクと食べる女の子のクレープを奪い取り、もう一人も一口食べました。
「 あーー むっ! …… 本当だ。
何なのこのもっちもっちは。
クレープ界のジャンヌダルクって感じ。 」
何とも分かりにくい表現をしているが、とっても美味しくて大満足の様子。
「 すみませーーん 。
看板の美味しいクレープ下さい。 」
また違う女の子三人組が来ました。
看板効果が激効き! どんどんお客さんが来そうな勢い。
麗美は必死に作り始める。
「 お姉ちゃ〜〜 ん 。
もう二人入りますよ。 」
また二人お客さんが。
この時はまだ分かりませんでした。
ここは明日香のお店と大きく違う点が…… 。
「 お待たせしました!
ありがとうございました。 」
そしてまた一つ作り始める。
また作り終えるとお客さんに渡し、次のお客さんの対応聞きます。
そうなのです…… 。 ここは客寄せ以外、麗美が一人でこなさなければいけません。
列が出来てしまうと全然対応出来ないのです。
海人にはお金の計算は出来ません。
料理の質を下げられないので、慎重にやりたくても人の目が気になり焦ってしまう。
「 ねぇねぇ? 他行かない?
沢山あるもんね。 」
「 そうだね。 少し楽しみだったのに…… 。 」
麗美には痛い声が聞こえて来る。
少し増えたお客さんはあっという間に四人に。
汗だくになりながら必死に料理する。
ここに来て一人でやってしまったツケが回ってきました。
麗美の精神は限界が近付いてきました。
遠くから葵と美術の先生が見ていました。
「 先生…… 。 何で一人で作ってるの?
あんなに仲間が居たのに。 」
先生は麗美の訳を話しました。
「 麗美ちゃんはね。 いじめを辞めてから、グループから抜けたのよ。
そのグループから裏切り者扱い…… 。
自分が始めた事を勝手に辞めたら、良い風には思わないわよね…… 。 」
葵はびっくりしました。
あの麗美がグループから抜けて、一人孤独に店をやっているのは想像出来ませんでした。
「 麗美ちゃんね。 凄い反省してるんだと思うんだよね。
いじめてた子に謝って回ったらり。
あの子なりに変わろとしてるんだと思うなぁ。 」
麗美の必死な姿を見て、葵は複雑な気持ちになりました。
葵は遠くからただ見続けました。
( もうダメだ…… 一人では限界。
助けて…… 助けて…… 。 )
麗美は限界でした。
「 お客さん! ちょっと待ってくださいね! 」
( ん? 誰の声…… 。 聞き覚えのある声。
誰なんだ…… ? )
麗美が必死に作っていると誰かが代わりに対応してくれている。
「 待っている人でお決まりの人居たら教えて下さいね。」
( また違う声が…… この声って!? )
お金の計算をしてたのは…… 梨香でした。
お客さんの料理を聞いているのは早織でした。
助けに来てくれたのです。
二人は茶髪をやめて、黒髪に変貌していました。
「 えっ…… 二人共。
どうして…… 。 」
麗美が立ち尽くしていると。
「 れぇ〜っみ! 今は仕事しよ? 」
「 そうそう。 そうしよっ! 」
麗美は二人の優しさにただただ、嬉しく思うのでした。
海人は友達が来てくれて、また安心して客寄せに行くのでした。
二人は麗美と仲直りする為に、色んな人に謝ったりしてまずは見た目を直していて遅れたのでした。
本当はもう少し早く来ようとしたのですが、どうにも美容室は何処お休みで、探すのに苦労しました。
料理に集中する事が出来るようになり、ペースは桁違いになりました。
どんどんお客さんにクレープが行き届く。
クレープを食べるお客さんはみんな笑顔に。
麗美はその笑顔に救われました。
頑張っていて良かったと何度も思いました。
そして、この仲間達に感謝しきれない程に…… 。
お互いに助け合い、支え合わなければいけません。
人は一人では生きていけないのです。
三人はまだ仲直りの言葉を発した訳ではありません。
それでも何となく分かってしまうのです。
後で三人が仲直りするのは目に見えていました。
三人はいじめなんかよりも楽しい時間を過ごしました。
この何時間かは今までのいじめた事なんかより、価値のある、働くと言う喜びと、仲間との結束を感じたからなのでしょう。
明日香ママもやっと安心して買いに行けるのでした。
とても心配でずっと見守っていたのでした。
麗美の事が大好きな友達になっていました。
葵は遠くから羨ましそうに見ていました。
そしてゆっくりと何処かへ行ってしまいました。
葵はまだ心の整理は出来ていません…… 。
麗美の気持ちが少しだけ伝わったように感じました。
先生はクレープを食べながら葵を引き止める事はせず、立ち止まりながら見守るのでした。
心の整理が出来るその日まで。
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