第38話 キングとゴッド


酷い非難をされてしまい、慌ててしまう明日香。

周りもざわつき始めてしまう。

食べ歩キングの毒牙により、明日香達の屋台は窮地に追いやられてしまう…… 。

麻衣ちゃんが強気で言い返しに行きます。


「 ちょっと! 何酷い評価してんのよ?

これの何処がドッグフードなのよ。

営業妨害よ! 」


食べ歩キングが立ち上がり、見下ろすように上から話し始める。


「 おいおい…… 美味いかどうか決めんのは、お客様じゃなかったのか?

これだからこんな不味いたこ焼きしか作れないんだよ。

ガキが作るたこ焼きなんて食えねぇわ。

皆さぁ〜ん。 こんな店より他行った方が良いですよ?

悪い事は言いません。 」


その声により長い列はどんどんと散ってしまう。

食べ歩キングがこんなに酷評するんだから仕方ない。

そう思いながら他の店を探そうとしてしまう。


( んっふっふ。 ザマぁないぜ。

俺様をバカにした罰だ。

もうこの店は誰も来たりはせんよ…… 。

悪く思うなよ。 )


食べ歩キングは心の中で笑っていました。

何処までも汚れている奴でした。

麻衣ちゃんは列が散らばってしまう光景を見ながら、悔しくて涙が出そうになりました。

その時、肩にそっと手を乗せられました。


「 大丈夫だよ。 私は全然気にしないよ?

私達は一生懸命頑張ったんだもん!

あんな酷い人の一言で私達のたこ焼きが負ける訳ないもん。

そう思わない? 」


明日香はその時穏やかでした。

どんなに酷評されようと、このたこ焼きを作る為に頑張った労力、努力、周りの人達の協力。

全てが合わさって出来たたこ焼き…… 。

負ける訳ないと信じていました。

麻衣ちゃんはその優しい言葉に、その通りだと思いながら明日香に抱きつく。


「 明日香の言う通りだね。

うん。 負けない! 絶対沢山売ろう!! 」


挫けてしまいそうな心は保たれて、また頑張ろうと思いました。

その話をたこ焼きを焼きながら男二人は見守る。


「 そうだよ。 僕が沢山の動画や本から導き出したレシピが犬の餌なんてなる訳ない!

そうだろ? 」


トッシーもこの仲間達と作るたこ焼きが、あんなエセ芸能人の言葉一つに負けるとは到底思えませんでした。


「 んだ。 あんなニャローはほっとけよ。

バカにされた腹いせだろ?

このたこ焼きは熊さんのお墨付きだぜ。

絶対負けねぇーんだわ。 」


音弥も信じていました。

明日香も麻衣ちゃんも負けずに頑張る。

四人の意思は折れる事はありません。


それを遠くからニヤニヤしながら見ているキング。


( そんな生ぬるい友情一つ容易く崩れ落ちるのだよ。

さぁ! 最低な思い出を作るがいい。 )


キングは自分の思い通りにならないと気が済まない。

お客さんが居なった屋台を見て、自分の力に酔うのでした。


「 お嬢さんや。 一つたこ焼きをくれないかな? 」


一人のおじいちゃんが注文してくれました。


「 あっ! いらっ…… 森じい! 」


そうです。 明日香の親友の森のおじいさん。

森じいが来てくれたのです。


「 明日香ちゃんの美味しいたこ焼き食べたくて、森からここまで出て来たんだよ。

さぁ。 美味しいたこ焼きをくれないかね。 」


「 ありがとう。 森じい。

はいっ! 熱いから気を付けてね? 」


森じいはたこ焼きを受け取り、直ぐに食べたいがその前にさっき見ていた事について一言言いたかった。


「 あんなモンにはこのたこ焼きをバカにする資格はないんじゃよ。

食べる人も作る人もお互いに居るから成り立つんじゃよ。

どっちが偉いなんてありゃせんのじゃよ。

だから全くもって、一ミリも気にするんじゃないよ。

ワシは明日香ちゃんの大親友じゃよ。

いつも味方だかろのぉ。 」


森じいは優しくそう伝えました。

さすがは森で生きるおじいさん…… 。

明鏡止水の如く、心は何の動揺や怒りや哀しみに揺れ動かない、透き通る水のようなおじいさん…… 。

明日香はさすがだと思…… 。


「 あの若造めいっ!! ふざけやがって。

あんな酷評次したら許さんからなっ!

チクショーーめい! 」


まだまだ怒りを隠す事は出来ませんでした。

明日香は相変わらずの森じいを見てクスクス笑う。

ベンチに座りながら、美味しそうに黙々と食べる。


「 あら音弥ちゃんに明日香ちゃん。

やってんじゃないのよ! 」


「 ん? ママじゃねぇか?? 」


音弥は直ぐに店の前に来て対応する。

オカマのマリアが来てくれたのです。


「 文化祭よ? 楽しみにしてんたんだから。

あら? 全然列出来てないわね。

味が悪いんじゃないの?

一個いただき!!

ばくっ!! …… 美味過ぎ2000倍! 」


ママは一個食べて驚く。

外はカリカリに、中はとろとろ。

最高のたこ焼きになっていたのです。


「 そりゃそうだろうよ…… 。

俺っちが一から技術を叩き込んだんだからな。 」


この渋いワイルドな声は…… 。


「 熊さん! 来てくれたの? 」


明日香は嬉しそうに迎える。


「 当然だろ? 俺はお前らの師匠だぞ?

来ない訳ないだろうよ。 」


グラサン姿は相変わらず怖い見た目。

ママは熊さんが来てくれて興奮してしまう。


「 もぉーーっ! 熊さんたら。

こんなとこに居たのぉーーっ??

お店に行ったら居ないから先に来たら、もう来てるんだから悲しかったわよ。 」


「 あんまりくっつくなよ!

男同士で暑苦しい…… 。 そうだろうと思って、裏道使って来たんだ。

んな事よりたこ焼き結構売れ残ってるな。 」


熊さんは作り置きされてるたこ焼きを見て、何も知らなくても上手くいっていない事が直ぐに分かりました。


「 大丈夫よぉ! こんなに美味しいんだもん。

直ぐに行列よーーっ。 」


ママはパクパクとどんどん食べている。

その姿は立派な男そのものでした。

明日香は二人が来てくれて安心しました。


( 何だ、何だ!? 傷の舐め合いかい?

醜い、醜い、醜い…… 。

身内の慰め合い程見るに値しないね。

もうこの屋台は俺に目をつけられた瞬間に終わりなのさ…… 。

諦めな? )


食べ歩キングは明日香達が落ちぶれる所を見て、笑いが止まりません。

最低な人間だったのです。

そこへ…… 。


「 おいっ! 食べ歩きの何とか!

お前の舌は本物かよ!?

このたこ焼き美味くないのかよ?? 」


一人目のお客さんの少年でした。

自分の大好きなたこ焼きが酷評され、いてもたっても居られなくて文句つけに来ました。


「 ガキんちょじゃんかよ。

シッ! シッ! あっち行けよ。

お前何かじゃ分からんくらい、俺様は舌が良いんだから。

あっはっはっは!! 」


その笑う姿はまさに、悪者そのものでした。

少年は悔しそうにして立ち去りました。

それを明日香達も悔しそうに見ていました。


「 美味しそうな匂いはここからだったんだね。

お嬢さん。 一つ私にもたこ焼き貰えないかね? 」


「 いらっしゃいませ! はい。

少々お待ち下さい。 」


明日香は優しそうな白髪の老人のお客さんに、直ぐにたこ焼きの準備をしました。

その老人はロングコートに中にはスーツを着ていて、いかにも紳士って感じの風格でした。

甘い匂いのコロンを漂わせ、大人の身だしなみもバッチリでした。

そうしてたこ焼きを受け取り、直ぐにお箸を使って一口食べる。


「 …… これは美味しい。

さすが直火の鉄板で焼いたたこ焼きは違いますね。

それと何とも香ばしくも、中はレアのような柔らかさ…… 長芋が良いスパイスになっていますね。 」


そのご老人は簡単に長芋が入っている事を言い当てる。

二個目をパクリっ!


「 もぐもぐ…… それと海鮮の出し汁が隠し味になってますね。

これは一般の屋台とは思えない出来栄え。

凄い美味しいですよ。 」


また隠し味の出し汁を言い当てる。

明日香達はパカーーンっとしてしまう。

黙って居られなくて、食べ歩キングが飛び出して来ました。

絶賛している老人を見て、また酷評しに舞い戻って来たのです。


「 おいおいおいおいっ!

何言っちゃってくれちゃってんのよ??

なぁジジイ!!

ここは俺様が酷評した屋台だぞ?

食べ歩キング知らんのか?

おい! カメラ回しとけ。

生ライブしておけよ? 」


そのご老人に絡みに来ました。

カメラマンはこの様子を生ライブで、ファン達に流していました。

ご老人は動揺する事なく返答しました。


「 食べ歩キング? 知りませんね。

私は周りの情報とかに疎くて…… 。

すみませんね。

私は美味しいから美味しいと言っただけですよ?

何がそんなに文句あるんですか? 」


食べ歩キングは地獄の底までこの屋台を落としたかっただけでした。

なのでこのおじいさんの意見を否定しようとします。

そして胸ぐらを掴み、しっかり着ていたコートがはだけてしまう。


「 じーさん。 何も分かってないんだな。

じーさんくらいになると何食っても変わんないだよ。

だから美味いなんて分かるはず…… えっ!? 」


胸ぐらを掴んでいましたが、急に放してゆっくり後退りしてしまう。

みんなは何だろう? と思いながら見ている。


「 食の神…… ゴッドハンド吉澤…… 。 」


ご老人のスーツにはコートで見えなくなっていましたが、はだけてしまって黄金のブローチが顔を出しました。

そのご老人の正体とは!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る