第35話 明日香の才能


明日香が夜に帰って来ると、リビングでは音弥と海人がお腹を大きくして眠っていました。


( ん? 何を食べたらこんなに大きくなるのかしら? )


台所へ行くと甘い匂いで、直ぐに何を食べたのか分かりました。


「 お母さん。 今日何かあったの? 」


お母さんが部屋から出てきて。


「 ちょっとね。

あっ! 冷蔵庫に明日香の大好きなクレープあるからね。 」


明日香は直ぐに冷蔵庫を開けると、美味しそうなイチゴのクレープが皿に乗って置いていました。


「 あらぁ〜っ? 麻衣ちゃんと沢山スイーツ食べて来ちゃったんだけどなぁ。

でも美味しそうだから今日は、自分へのご褒美だと思って明日はその分ダイエットしよっと!

いただきみゃあーーすっ! バグっ!!

もぐもぐ…… 美味しいなぁーー 。 」


その美味しさに負け、勢いは衰える事を知らない。

その吸引力はどんどんとブラックホールのように吸い込んで行く。

一日の総カロリーは限界を振り切っていました。

たまにはこんな日も良いでしょう。

減らすのは増やすより大変なのを、まだ良く分からない明日香。

美味しい、美味しいとあっという間食べてしまい、お皿から失くなってしまい名残惜しくなりました。

にしても不可解な事が…… 。

何故急にクレープを作ったのか?

友達が遊びに来たから?

そして…… 何故かいつもは特売品のイチゴを使用する筈が、高級デパートの大粒イチゴ。

岩手産の大粒ルビーイチゴ。

一個700円もするはずなのです…… 。


「 ふぁ〜〜っ。 食べ過ぎて体が重い。

お風呂入って寝ようっと!

にしても美味しかったなぁ。 」


麗美の作ったクレープを美味しく頂きました。

こっそり見つめるお母さんは、早く二人が友達になれる日を楽しみにしていました。

すると後ろからお父さんが肩に手を置いて、ニコニコして。


「 ただいまぁ。 何だか楽しそうね。

僕ちんのクレープは何処かしら?? 」


早く帰って来たお父さんがそう言うと。


「 お帰りなさい! もう無いわよ。

代わりに紫のたい焼き買ってあるわよ。 」


お父さんはショックで腰が抜ける。


「 最近ママ。 俺に酷くないかい?

しかも紫のたい焼きなんて…… パクっ!

美味いじゃないかぁーーっ! 」


パパの叫び声は悲しく家中に響き渡るのでした。


次の日。

学校ではもう文化祭の準備。 準備。

残す日数は一週間とちょっと。

明日香達も出し物を準備して整えていました。


音弥にはどうしても気になる事が…… 。

それは明日香とこのクラスの大きな溝です。

いじめていた事で罪悪感のある者。

命令されてたとは言え、今更仲良くするのは難しく思う者。

明日香は全然気にしていなくても、この溝はどうにも埋まりませんでした。

音弥はどうにかこの溝を埋めて、楽しい学校生活を送らせてあげたかったのです。

その方法はないのか…… 一人考えている。

そして壁に貼ってあるポスターを見つける。


「 そうだ! これだわさ! 」


音弥は急に立ち上がり周りはびっくりしてしまう。


「 音弥君どうしたの?

急に立ち上がったりして? 」


明日香がそう言うと。

音弥は笑いながら語り始める。


「 ここの文化祭は屋台も出すけど、もう一つ目玉があるんたわ。

それが…… 歌姫決定戦! 」


明日香はぽかーんっとしてしまう。


「 この高校では全学年の歌が上手い人が競い合う。 そして一番の者には歌姫の称号が与えられる。

それに…… 歌姫は学校に人気者になれるんよ!

まさに明日香の為にあるもんだろ? 」


熱く音弥が語ると恥ずかしそうに明日香は言い返しました。


「 いやいや…… 私、歌は大好きだけど全然上手くないんだよ。

人の前で唄うなんて出来る訳ないよ。 」


そう言うと麻衣ちゃんも気になり、唄う所を見たくなりました。

何故音弥は明日香の歌声を知っているのか?


「 ふっふっふ。 甘いよ明日香くん。

キミの実力は私のお墨付きなのだよ。

これが証拠なのだよ! 」


そう言いながらスマホに撮ってあった動画を、みんなに見せる。

その動画には公園で一人立っている明日香。

明日香は気持ち良く唄っている姿が。

麻衣ちゃんとトッシーがその歌声に魅了されてしまい、うっとりしてしまう。

その歌声は気持ち良さそうに、高音まで出せていて響き渡るくらいにキレイな歌声でした。


「 えっ? これが持田さんの歌声?? 」


「 明日香すっごい! 」


明日香は恥ずかしそうに顔を手で隠す。

一人で唄っていて周りに人が居たことに、全く気付いていなかったのです。


「 分かってもらえたかな諸君?

これでエントリー決定だね。

さぁ。 ここからが明日香の晴れ舞台だわ。 」


音弥は盛り上がり、それに二人も悪乗りの如く乗っかって行く。

皆はただ盛り上がりたいだけなのもあります。

それと同時に皆と明日香の溝を埋めたかったのです。

明日香は全然やる気が起きませんが、音弥が無理矢理にエントリーをしてしまう。


この歌姫決定戦には唄うのはどんな歌でも可。

CDから流して、唄う人がほとんどです。

でも音弥には作戦がありました。


「 この歌姫決定戦には裏の点数が存在する。

それは…… その音楽の演奏にある。

基本はCDからだけど、そこを人の手による生の物にする。

そうする事によって、生の歌を見せつけてやろうぜ! 」


ところが麻衣ちゃんもトッシーも合奏は、苦手で力にはなれません。

どうしたら良いのか?


するとキレイなピアノの音色が。

まるで天使が奏でるハープのような気持ちよさ。

何処の合奏部なのでしょうか?

トッシーと麻衣ちゃんと明日香が、隣の音楽室に行ってみるとそこには、既に移動していた音弥の姿が。


「 まぁ。 天賦の才ってやつだな。

俺が弾いて、お前が唄えば最強だ。

誰にも負ける気がしないな。 」


音弥の隠れた才能を魅せる。


「 す…… ごい。 こんなに上手いんだ。

私…… 出来るかな? 笑われないかな? 」


自信なくそう言うと、音弥が自信を持って言う。


「 俺がついてるだろ?

二人なら上手くやれるさ。

文化祭を盛り上げてやろうぜーーっ! 」


そう言うと音弥と麻衣ちゃんとトッシーは

大きく手を上げて。


「 オーーッ!! 」


と大きな声を上げて一致団結する。

明日香も遅れながらも。


「 う…… オ…… オーっ! 」


そしてにっこり笑う四人。

文化祭が更に盛り上がりそうでした。


誰も気にならないと思いますが、翔君は何をする予定なのでしょうか?

仲間達とくじ引きをやるようです。


「 んで特賞とか二等に欲しいもん箱で飾って、くじ引きにはその賞を入れないんだわ。

どうだ? 売れそうだろ。

ガキや無能をエサにしてやろうぜ! 」


「 さすがは翔さん。 」

「 一生付いていきますぜ! 」


相変わらず悪知恵により、お金儲けを考える。

みんなは真似しないように。


麗美は一人クレープの研究を。

ノートにはびっしりと作り方や、数々のメニューを書き留めている。

絶対に皆を喜ばせようと必死になっていました。

それを遠くから早織と梨香が見ている。


「 ねぇ? 麗美あんなに必死になって。

どうしたんだろ? 」


早織は麗美が心配で見ている。

直ぐに梨香は早織を諭しました。


「 何言ってんの?

あいつは裏切りもんだよ?

ほっときましょ。 私達は私達でやるんだから。 」


でも梨香も麗美の事が気になっていました。

簡単には割り切れない…… それが友達なのでしょう。

二人が気付くのはもう少しだけ先になりそうです。


残り日数は6日…… 。

どんな楽しい文化祭になるでしょうか?

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