第36話 文化祭前日


遂に文化祭まで残す事一日。

それぞれは最後の取り掛かりをしていました。

文化祭は三年に一度。


一年生で文化祭をすると上の学年の手前、あまり大きく騒ぐ事は出来ません。


三年生はやりたい放題。

一番態度がでかく、誰にも文句は言われない。

ただし進路が気になったりとかで、少し慌ただしく真に楽しむのは難しい。


二年生はと言うと、意外にも真ん中が一番良いタイミングなのかもしれません。

三年生と違い、進路はまだ少し悩む時間もあり、一年生と違い肩身は狭くもなく。

なので明日香達は最高のタイミングで、文化祭を送る事が出来るのです。


明日香達はたこ焼きを本格的に、電気の鉄板ではなくてガスで直火により高温で焼き上げる。

そうする事により、中はトロトロで外はカリカリに焼き上げる。

電気ではまだこの芸当は難しいでしょう。

その代わりに直火は火加減がとても難しい。

前日にやっと自分達の思うような形に仕上がり、大満足していました。


明日香は音弥と大会に向けて歌の練習もしている。

明日香の唄に合わせて音弥が伴奏している。

音弥は明日香の唄うのをしっかり見て、音がずれないように一生懸命やっていました。


そして…… ついに二つのハーモニーが一つになり、最高の音楽になりました。

それをずっと聞いていたトッシーと麻衣ちゃん。

麻衣ちゃんは我慢出来ずに走って明日香に抱きつく。


「 最高ーーっ! 明日香が優勝よ。

音弥君の伴奏に合わさって最高の仕上がり。

ねぇ? トッシー! 」


「 そうだよ。 僕が聞いた中で6番目くらいに。 」


ゴツッ!!

鈍い音が鳴り響く。

トッシーの気を使わなさを麻衣ちゃんがゲンコツ!

痛そうに頭を撫ででいる。


「 ありがとうみんな。

音弥君も本当にありがとう。 」


明日香はそう言い手を出しました。

握手しようとする。


「 照れくさいから。 んで、優勝しないと意味ないんだから集中するだぞ?

俺達なら誰にも負けねぇからさ。 」


そう言いにっこり微笑む。

皆も笑い合いました。

明日香はその時笑いながら思いました。

ずっと欲しがっていた友達がやっと手に入ったと。

遠くから仲良くしている周りを見ては、いつかは自分もその輪に入りたい…… 。

そう夢見ていました。

その夢は叶っていて、音弥の言うように沢山友達が欲しいとは思っていましたが、この欠け替えの無い仲間が居るだけで充分幸せだと思いました。


( 本当に音弥君。 麻衣ちゃん。

トッシー。 みんなと友達になれて本当に良かった。

私は今が一番幸せだよ。 )


明日香は心の中でそう思っていました。

言葉にするのは恥ずかしくて言えませんが、感謝しかなかったのでした。

当然みんなも同じ気持ち。

麻衣ちゃんもトッシーも。

そして音弥も四人は( 親友 ) と呼べるくらいに、絆は深まっていました。


その頃、麗美は一人家庭科室で頑張ってクレープ作り。

もう生地もちゃんと焼けるようになり、時間がかかってしまいますがちゃんとしたクレープを提供出来るくらいに成長しました。


ガラガラーーッ!

梨香と早織が入って来ました。


「 麗美! もういい加減無理やめな?

何意地張ってんの?

前みたいにあたしらと楽しくやろ? 」


梨香が和解に来たのです。

早織も。


「 そうだよ…… 。

何であたし達と距離置くの? 」


早織が心配して言うと、麗美は思い込んだ表情で口を開く。


「 あんた達と居て楽しかったよ?

でもね…… 人を傷つける事も沢山しちゃって、今はどう償えばいいか分かんなくなっちゃったんだ。

都合が良いかもしんないけど、もう私にはいじめたりすんのは…… 無理なんだ。

だから…… 離れたの。 」


梨香がそれを聞き怒り出す。


「 はぁ? 何言っちゃってくれちゃってんの?

あんたが始めたんでしょ?

あたし達は付いてったんだよ?

今更止めろなんて無理だし。

意気地無しじゃん! 何びびってんだよ。 」


梨香が怒ってるのは理由がありました。

それは今までの自分を否定され、これからどうして良いのか分からなくなってしまったからです。

今までずっと自分を引っ張っていた憧れの人が、こんなに落ち込んでいて、失望してしまっているのかもしれません。


「 正直…… 麗美って自分勝手じゃない?

何いきなり良い子ちゃん面してんの?

今更謝ったって許してもらえる訳なくない? 」


早織も梨香と想いは同じでした。

それと同時に…… もし今の生き方が間違えていたら、これからどう変われば良いのか…… 。

早織は優柔不断で物事を決めるのが苦手。

だから麗美のように変わる事が受け入れられませんでした。


「 ごめんね…… 。 早織。 梨香。

あたしが全部間違ってた。

悪い生き方ばっかり教えてきたね…… 。

ごめんなさい…… 。

あたしの言う通りにしてきたからあんた達は何も悪くないから。

だから…… これからは、あたしみたいに間違えて欲しくないだ…… 。 」


麗美は必死に訴えかけました。

二人は黙って聞いていました。


「 いじめたりしてストレス解消出来たかもしれないけど、やられてる方は凄い傷ついてるの。

あたし。 こんな簡単な事今更分かるなんて。

バカだよね…… あんた達はあたしを許さなくていい。

その代わり…… これからは絶対誰かを傷つけないで?

何かするときは自分がされた時を考えて?

いじめより楽しい事沢山あるから。 」


そう言いまたクレープ作りに戻りました。

二人は黙って出ていきました。

帰りながら早織が口を開きました。


「 梨香…… 私ね? 麗美の事…… 全然怒ってないんだよ?

悪い事沢山してきたし、いきなり止めるとか言い出すし勝手だけど…… 麗美と居て楽しかったよね?」


梨香は麗美との事を思い出しました。

一緒にご飯食べに行ったり、海で沢山遊んだり、クリスマスには三人で彼氏なんてほっといて、朝まで遊びあかした事も…… 。

思い出すのは楽しい思い出ばかり。

梨香も麗美の事を怒っていても、嫌いにはなれませんでした。


「 早織…… 。 あたしね…… 。

麗美の事嫌いになってないんだ。

なれる訳ないよ…… 。 親友だもん。

だから…… あたし達も変わらないといけないのかもしれないね。

そうすればあの頃みたいな三人に、戻れるのかもしれないよね。」


梨香は決心しました。

あの頃の三人に戻る為に、いじめたり人を傷つける事はもう辞めようと…… 。

そんな事しなくても楽しい事は山ほどあるのだから。


「 早織…… あたしね。

あんな必死な顔見てたら、麗美も凄い傷ついて後悔したんだな。 って思ったら…… あたし…… 。 」


不意に涙が溢れてきてしまいました。

友達だからこそ、その痛みが良く分かったのです。

早織ももらい泣きしてしまいました。

早織は一度泣くと止まらなくなるのです。


「 うぇーーん…… !

ぐすっ。 ぐすっん! うぇーーんっ!

麗美一人ぼっちで寂しい…… んだよね。 」


早織をなだめながら梨香はある決意をしました。


「 ねぇ? トッシー坊やとか、いじめて来た人に謝りに行かない?

許してもらえないかも知れないけど…… 。

何もしないより良くない? 」


「 うん…… うん。 うーーーん!!

うぇーーん!! 」


また押さえきれないくらい涙が溢れてきました。

梨香は早織の手を取り謝りに行きました。

二人は少しずつ新しい一歩を踏み出しました。

非難されたり、険しい道になるのかもしれない。

変わる事は難しいのかもしれません。

それでも少しずつ、少しずつ前へ歩きだしました。

もう少しだけ仲直りは先になるかもしれませんが、もう直ぐまたあの頃の三人に戻れる事を願うのでした。


その頃、翔達は大量の大型ゲーム機やタブレットの空き箱を学校に運んでいました。


「 イッヒッヒッ! これは良く集まったな。

こんなに空き箱…… 。 」


翔はニヤニヤと笑いながら酔いまくっていました。

子分達も笑っていました。


「 翔さん。 これフリマアプリで空き箱だけで売ってる奴から大量に買ってやりましたよ。 」


こんなにも悪知恵を働かしたのでしょうか?

翔もあまりの嬉しさに子分の頭を撫でる。


「 良くやったぞ…… よしよし。

これでくじ引きやれば大儲けだ! 」


その時っ!!

ガラガラーー!!


「 オラーーッ!! お前らがインチキくじ引きやるってたれ込み入ったぞ!

なんだ? この大量の空き箱は!!? 」


体育教師の通称、鬼のマッスラー井之頭!

こいつには翔も歯が立たない。

下位のくじしか入ってない箱も見つかってしまう。


「 ん〜〜…… ここの店は閉店だぁーーっ! 」


「 そんなぁ…… 。 」


井之頭のガサ入れにより、悪は撲滅されてしまいました。

翔達は文化祭はどうするのか??

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