第13話 飛び火


お昼休み。 明日香と麻衣ちゃんは二人でお弁当を食べていました。


「 麻衣ちゃん…… さっきの大丈夫かな?

麗美さん怒ってないのかな…… 。 」


恐る恐る朝の出来事を話し始めました。

麻衣ちゃんも少し元気がなくなっているように感じました。


「 …… 大丈夫。 わざとじゃないんだもん。

あんなんで怒る訳ないよ。

後でまた謝るしね。 」


そう言いながらパンを沢山口に詰め込んで、憂さ晴らしするかのように食べていました。


「 そうだよね。 お金持ちなんだし絶対心広いよね。

私も謝る時は付き合うね。 友達だもん。 」


本当は怖くて堪らなかったですが、麻衣ちゃんの為なら恐怖に負けてはいられません。

たった一人のかけ替えのない親友なのだから…… 。


教室に戻ると麗美の仲間達が騒いで麻衣ちゃんの席に座っている。

麗美の側近が飲んでいたのは麻衣ちゃんの持ってきた飲み物でした。

勝手に飲んでいたのです。


「 あっ! 麻衣ちゃん。 これ貰ってるよ。 」


麗美の側近。 柳沼梨香やぎぬまりか

それと釘宮早織くぎみやさおり

麗美仲間達は暇さえあれば誰かをいじめていたいのです。

誰かに命令したり、服従させるのが快感に変わってしまって止められなくなっていました。

登校拒否になれば、また誰か気になった人を標的にしていじめます。

いじめはその繰り返しだと思います。

麗美はそのリーダー位置ではありましたが、面倒で干渉しませんでした。


「 うん。 …… あんまり飲む気分じゃなかったから全然良いよ。

朝は本当にごめんなさい…… 。

麗美のクリーニング代払うから許してもらえないかなぁ? 」


しっかりと麻衣ちゃんは頭を下げて謝りました。

早織達はそれを聞くとニコニコ笑い…… 。


「 全然気にしなくて良いから。

もう気にしてないしね。 だから私達もっと仲良くしようね? 友達だもん! 」


その友達と言う言葉はとても嫌な響きしかしませんでした。

麻衣ちゃんも苦笑いしながら頷いて一緒に笑いました。

その時、明日香は悟ってしまいました。

やっぱり、いじめる標的になってしまったのだと…… 。


放課後になり明日香は麻衣ちゃんと帰ろうとしました。

今日の事で色々話したい気持ちもあったので…… 。


「 麻衣ちゃーー ん! 今日放課後予定ある? 」


梨香達からのいきなりの誘い…… 。

麻衣ちゃんは断れるはずもありません。


「 …… うん。 何もないよ。 」


元気がなく弱々しい返事をしました。

梨香はそれを聞き、上機嫌になりながら麻衣ちゃんと仲間達で何処かへ行く事に。

明日香は体が固まって黙って動けずに立ち尽くしていました。


( まただ…… また同じだ…… 。

あの時と同じじゃない…… 。 )


高校一年生の時の事…… 。

明日香はまだ今よりも少し元気だった頃。

同級生のクラスの中心の女子の靴を思いっきり踏んでしまったのです。

直ぐにわざとじゃないので謝り、必死に拭きましたがその女子の怒りは収まりませんでした。


その次の日から、明日香が挨拶をしても誰も返事をしてくれなくなりました。

いつも話していた友達も、その女子に裏で連絡され明日香をはぶく事にしたのを皆で共有したのです。


その日から明日香はずっと一人でした。

我慢して何日も、何日も過ごしましたが何も改善出来ずに、どんどんエスカレートしていきました。

見た目とか容姿を陰で笑われたり、物を隠されたりと定番のいじめのオンパレード。

明日香のようなメンタル弱い人には耐えられるはずもありませんでした。


ある日、明日香は勇気を振り絞り友達に助けを求めました。

その子はゆっくりとこう言いました。


「 話しかけないでもらえる?

私を巻き込まないで。 もう…… 友達でもないんだし。」


明日香は頭の中が真っ白になってしまいました。

その友達は直ぐに他の友達の方に行き、明日香をチラチラ見ながら陰口を言っていました。

明日香の心はその時に砕けてしまったのです。

クラスの誰かにいじめられても良かったのです。

友達に裏切られるのだけは、どうしても耐えられなかったのでした。

明日香は次の日から学校に二度と来る事はありませんでした。


今明日香の目の前に居る麻衣ちゃんは、かつての自分にしか見えませんでした。

明日香は忘れられない過去の傷を思い出しながら、一人寂しく帰りました。


( どうしよう…… 私には何にも出来ない。

怖くて今も体の震えが止まんない。

助けたいのに…… 助けたいのに。 )


明日香はいつもの公園に行き、一人寂しくベンチに座りながら湖のカモを眺めていました。


「 可愛いなぁ…… 動物にもいじめはあるのかな?

仲間外れにされてない? ケンカはダメだよ。 」


一人でカモに話しかけながらパンをちぎって、エサやりしました。

カモは勢い良く食い付きました。

見ていると体が大きいのが前に居て独占しています。

遠くの小さなカモに投げても、食べようとする前に大きなカモに食べられてしまいます。


「 弱肉強食かぁ…… 私はあの小さなカモと何も変わんないなぁ。

動物も人間も変わんないね。 」


そう言いながらまたベンチに座り込みました。


「 ドウシタンダイ? キョウモナニカアッタノ? 」


何処からか裏声のような声で話しかけられました。


「 えっ!? 誰?? 」


周りを見渡すと誰も居ません。

すると、木の上からいつもの青年が降りて来ました。


「 わぁーーっ ! いきなり降りて来てビックリしたよ。 」


「 あまりにも風が気持ち良くて寝ちゃったよ。

またくよくよしてどうしたんだい?

話し聞いてあげるよ? 」


優しく青年は話しかけてくれました。


「 いいよ…… 。 凄い複雑だから。 」


青年はカモに自分の食べ残しのパンの角をあげました。


「 何でも話しなぁ? そうすれば痛みも半分こだよ。」


そう言いながら明日香を見つめました。

明日香は不意に優しい事を言われて、涙が溢れてしまいました。


「 泣くんじゃないよ。 泣いてると運が失くなるってジーちゃんが言ってたんだ。 」


そう言いながら明日香にハンカチを貸しました。

直ぐに受け取り、涙を拭きました。


「 どうしていつも優しくしてくれるの? 」


「 ん〜〜 勘かな? ここに居る奴って自然とか田舎に飽き飽きしてるし。

直ぐに出て行きたくてイライラしてる奴もいる。

でもお前見てると凄い自然や動物が好きそうだし。

後は人の痛みに敏感で優しいから。

だから俺がお前の味方だよ。 」


そう言いながらニッコリ笑いました。

その笑顔は純粋な子供のような表情でした。

明日香は気を許して全て話しました。

青年は黙って聞き終わり、立ち上がりました。


「 ん〜 …… 難しい。

俺には難し過ぎるなぁ。 」


青年はそう言い考え込んでしまいました。

すると何か思いつき走って家に帰りました。

明日香はポカーンっとしながら見ていました。


数時間後…… 。

明日香も時間も遅いので帰ろうとすると、青年が家から下りて来ました。


「 ごめん、ごめん。 ほいっ!

これやるよ。 」


それは熱々の出来立てパンでした。

不恰好でプロの作ったのより見た目は悪いですが、とてもふっくらと焼き上がっています。


「 これ、私の為に? 」


「 おうよ。 食べてみ? 」


そう言われてフーフーしながら一口…… 。


「 もぐもぐ…… 。 」


「 どうよ? 意外にパンは手作りよりプロの方が美味いと思わない?? 」


笑いながら自分のパンを下げていました。

言われてみると…… 売ってるのと違って、小麦粉の味が濃くて甘味がほとんどしません。


「 作るのって難しいよね。

でも、私凄い好きな味!

ほっかほっかで柔らかくて温かいもん。

ありがとう。 」


嘘ではありません。

本当に明日香には美味しかったのです。


「 作りながら考えてたんだけど…… 。

あんまり巻き込まれないようにした方が良くない?

俺はそう思うけど…… 。 」


明日香はゆっくりと食べながら。


「 それは無理かも…… 。

私も巻き込まれるかもしれない。

でも、やっと出来た友達なんだ。

絶対に失いたくない…… 。

私は決めたの。 いじめを見ているだけなんて、いじめを容認してるのと同じだって。

だから私は戦う…… 。 大切なものを守る為に。

絶対認めちゃいけないの。 」


そう言いながら黙々と食べていました。


「 ほうほう…… 。

意外と頑固なんだね。

あまり無理するんじゃないよ?

いつでも相談聞くから。 」


「 ありがとう。 私、明日香って言うの。 」


明日香は自分の名前を初めて言いました。

相手の名前を知れなくても、教えたくなったのでした。


「 明日香かぁ。 良い名前。

俺は、音弥おとやって言うんだ。 」


青年の名前がやっと聞けました。

嬉しそうに手を振りながら帰りました。

それを見えなくなるまで見続けていました。


「 世の中は理不尽だよな…… 。

強い者が楽して弱いもんが苦労して。

見ているだけはいじめてるのと同じかぁ…… 。 」


何か考えている音弥。

明日香はその日、麗美の子分やいじめと戦う事を決意しました。

今後どうなるでしょうか…… ?

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