第12話 誕生日


仕事に疲れて帰宅するお父さん。

お父さんは車の整備士をしています。

一生懸命なお父さんは新しい職場の皆と仲良くなる為に、残業をしたりして人の嫌がる仕事も何倍もこなしました。

手は帰る頃にはすすや油で汚れ、手をしっかり洗わないと落ちません。

手はしっかり洗っていても爪の間や、シワとかに黒い油とかが詰まってしまい落ちません。

専用石鹸を使えば落ちますが時間がかかります。

夜中まで仕事してやっと帰宅してきました。


( 疲れたなぁ…… 。

でも帰ったらママの美味しいご飯がある。 )


家に入るといつもお母さんが出迎えてくれます。

どんなに遅くなっても温かいご飯を食べて欲しくて待ってくれています。

母親の鏡のような人です。

でもどうでしょうか?

いつも付いている明かりは付いていませんでした。


( そうだよなぁ…… もう12時だしママには出来るだけ早く寝て良いって言ってるもんな。

静かに入って適当にご飯でも食べるか…… 。 )


静かにドアを開けてからゆっくりリビングに入ります。

いつもは待っている筈の暗い静かな部屋へ。

入ると真っ暗で何も見えません。

こう言う時に人は当たり前だった事が、大切な物だったのだと深く感じるのです。

すると…… いきなり電気が付きました。


パコーーーンッ!!


クラッカーが炸裂してお父さんもビックリ!


「 何だぁーーっ!? 」


すると家族がひょっこり現れました。


「 お父さんお誕生日おめでとう!! 」


お父さんも急な事に状況が把握出来ていませんでした。

直ぐにカレンダーを見てやっと誕生日だった事を思い出しました。


「 えっ…… 俺、誕生日だったのか。 」


ビックリして棒立ちになってしまっていました。


「 お父さんがいつも頑張ってるから、子供達も絶対お祝いするんだって聞かなくて。

忙しくて自分の誕生日忘れちゃうなんて。 」


お母さんがクスクス笑っています。


「 お父さん帰ってくるまで起きる為に、僕は沢山お昼寝したんだよぉ? 」


「 海人はただお昼寝しただけでしょうが! 」


子供達はそう言い笑っていました。

お父さんは疲れててヘロヘロでしたが、家族が待っていてくれて嬉しかったのです。

お父さんの疲れは何処かへ行ってしまいました。


「 そうか、そうかー 。 可愛い家族達よ。

よーしっ! お父さん誕生日会やるぞぉ!

みんなありがとうーー 。 」


みんなに感謝して席に着きました。

お父さんは気分から入る人なので、専用の三角帽子を被り準備万端!

子供達も三角帽子を被り席に着きます。


「 お父さん。 これ私と海人から。 」


「 お父さんお誕生日おめでとう!

開けておくれよ。 」


そう言い二人は綺麗な包みに入れたプレゼントを渡しました。

お父さんは喜びながら受け取ります。


「 ありがとう。 何かな? 何かな?

…… わぁっ! 長財布じゃないか。

お父さんのボロボロのボロになっていんだよ。

ありがとう。 大切にするよ。 」


お父さんはあまり財布とかにお金をかけません。

家族と楽しむ物とか美味しい物ばかりにお金を使うので、私物に気を掛けていませんでした。

二人はそんなお父さんの為に綺麗な財布を買ったのでした。


「 安いけど凄い良さそうな財布でしょ??

大事に使ってね。 」


「 うん。 お父さんの財布は僕が使う! 」


お父さんは嬉しそうに直ぐに新しい財布にカードや現金を移し、直ぐに財布を受け継ぎしました。


「 明日香。 海人。 本当にありがとう。

お父さん大切にするな。 」


するとお母さんからもプレゼントが。


「 はいっ。 お父さんプレゼント。

お誕生日おめでとう! 」


「 ありがとう。 何かな? 何かな?

…… 魚図鑑だ! 前から欲しかったんだよ。

母さんありがとう。 さすがは俺の妻だっ! 」


魚図鑑が欲しいなんて子供みたいですね。

でもお父さんは釣りが大好で、魚に詳しくなりたくていつも立ち読みばかりしていました。

お母さんはそれを見ていて、お父さんを喜ばせたくてこっそり買っていたのです。

お父さんは大喜びしてソファで踊りました。

皆はお父さんの喜び方を見て大笑い。

踊りながらお父さんは思いました。


( 仕事は大変でまだまだ大変だけど、本当に明日香の為に引っ越して来て良かった。

あの子がまたこんなに笑えるのが何より嬉しい。

家族が居るから仕事の疲れ何てへっちゃらだ!

俺はこの家族が居るから頑張れる…… 。

皆…… 本当にありがとう。 )


お父さんは泣きそうなくらい嬉しかったのでした。

恥ずかしいので絶対涙は見せませんが。

その日は皆で少し夜更かしをして、朝起きるのは大変になってしまうのでした。

それでも皆にとって掛け替えのない一日になりました。


少し寝坊した明日香と海人は急いで学校へ出掛けていきました。

途中で別れて何とか遅刻せずに済み一安心。


「 おっはよ! 何寝坊してんのよ。 」


麻衣ちゃんがいつものように挨拶に来ました。


「 おはよう。 夜中お父さんのお誕生日お祝いしてたから、少し寝坊しちゃったの。 」


「 お父さんのお祝い??

どんだけ明日香はお父さん大好きなんだか。

普通反抗期とかあるでしょ?

相当良いお父さんなのね。 」


麻衣ちゃんは少し明日香のお父さんが羨ましくなりました。

誰でも他人のお父さんが羨ましく見えるものですね。


授業が始まり、いつものように淡々と時間が流れていきます。

明日香は勉強は良くできる方で、先生に指名されても簡単に答えを返す事が出来ます。

不登校の時は家での勉強を、人一倍やったお陰かも知れませんね。

そして昼休み…… 。


「 本当に明日香は勉強も出来て凄いわね。

私なんて全然。 」


麻衣ちゃんは明日香を誉めまくりました。

照れ臭そうに直ぐに反論しました。


「 他に取り柄ないだけだよ。

少し勉強すれば誰だって出来るんだから。 」


そう言いながら二人はお弁当を食べていました。

そして話は弾み、麻衣ちゃんは興奮しながら話し始めました。


「 だから違うんだってば。

私のパパは家ではぐぅーたらで! 」


炭酸飲料を片手に興奮して立ち上がりながら話していると。


ドンッ!! バシャッ!


麻衣ちゃんは興奮して周りが見えずに、後ろを通ろうとしていた麗美の制服に飲み物をかけてしまいました。

直ぐにやってしまった事を反省してハンカチで拭きました。


「 ご…… ごめんなさい。

今拭くから…… 本当にごめんなさい…… 。 」


怯えながら麻衣ちゃんは必死に拭きました。

それを明日香も怖がりながらも見ています。


「 うっざ! …… これ結構高いんだけど。

もう拭かないでくんない? 汚い…… 。 」


麗美は麻衣ちゃんのハンカチを手で払いました。

麻衣ちゃんもYシャツに黒いシミが出来ていて焦ってしまいます。


「 ごめんなさい…… 絶対弁償するから。

だから…… 本当にごめんなさい。 」


必死に謝り続けました。


「 こんなYシャツ死ぬ程持ってるから。

にしても…… あんた調子乗ってんじゃない? 」


麗美は麻衣ちゃんを凄い剣幕で睨み付けました。

麻衣ちゃんは罪悪感で下を向いて謝っていました。


「 もぉー いいや。 」


そう言いながら肩に手をポンっ! と置いてから去って行きました。

それを麗美の仲間達がニコニコ見ています。


( 次のターゲット発見! )


その後、明日香と麻衣ちゃんに会話はなく授業が始まりました。

明日香は何となく嫌な予感が頭をよぎるのでした。

何も無い事を願い続けるしかありません。

明日香の学校生活は段々雲行きが怪しくなって行くのでした…… 。

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