第16話 止まった時間


明日香の叫び声を聞いて音弥が駆け付ける。


「 どうした…… って、おっちゃんじゃない。

ダメじゃないか。 おっちゃんは顔が怖いから、笑顔でいなくちゃびっくりさせちゃうよ。」


殺し屋風のおっちゃんは少し慌ててしまい、自分の顔の怖さを反省します。


「 ごめんね。 おっちゃん顔怖くて。

でも全然怖くないんだよ?

裏でガーデニングしてるし、ハーブも自家製だし。

ここの店長の熊井輝明くまいてるあきって言うんだよ。

宜しくね。 」


そう言いニッコリスマイル!

でも慣れない笑顔なのかとても怖い…… 。


「 叫んじゃって…… ごめんなさい。

明日香って言います。 」


明日香は怖がっていましたが、音弥が元の席に案内して座りました。


「 おっちゃん。 美味いもん食わしてよ。

俺達腹ペコリンなのよ。 」


おっちゃんは厨房から乗り出して来て。


「 お前はいくらツケが貯まってると思ってんだ!

ダメだ、ダメだ! 」


怖い顔で怒りました。

優しいからツケをさせてくれているのでしょう。

明日香は少しお金があったので。


「 私が払いますので大丈夫です…… 。 」


明日香がそう言うと。


「 明日香ちゃん。 キミは払う事ないよ。

こう言うのは男が払うもんだから。

仕方ねぇなぁ。 音弥。 お前の借金に上乗せしとくからな? 」


そう言い厨房に戻って行きました。

明日香はクスっと少し笑ってしまいました。


「 あんにゃろう…… 常連さんのツケぐらいたまには忘れろって話だよね。 」


音弥は歯を見せながら笑いました。

直ぐに店長がジュースを運んできました。


「 明日香ちゃん。 これはウチの特製ブドウジュースだよ。

ブドウ農園から直接送られて来るから、美味さはそこら辺のブドウとは訳が違う!

それで作るブドウジュースはどんな味だと思う?

神の飲み物なのさ。 」


店長はズラズラと語りました。

見る限り普通のブドウジュースに見えます。

明日香は飲もと思っても、店長が近くに居て飲みにくい…… 。


「 おっちゃん。 見られたら飲みにくいだろ?

早く厨房へ帰りなよ? 」


「 …… ふん! 」


店長は渋々帰っていきました。

明日香は気にせずやっと飲める。


ごくごく…… っ。


「 うぇっ?? 凄い濃厚!

100%のジュースでもこんなに違うの?

凄い美味しい! ごくごく。 」


明日香はその味の虜になり沢山飲みました。

厨房から覗いてた店長が直ぐに走って来ました。


「 分かるかい? やっぱり明日香ちゃんは。 」


直ぐに音弥が注意します。


「 お腹減ってんだから早く作ってくれよ!

その後なら話に混ぜてやるから。 」


デカイ図体しながらションボリ帰っていきました。


「 おっちゃんは昔の事あんまり語んないんだ。

元軍人とか殺し屋とか色々噂されてる。

体もムキムキだしね。 でもすげぇ優しいんだよ?

俺の最高の親友なんだ。

皆は怖くて全然この店来ないんだけどさ。 」


明日香はその話を聞きながら厨房を見ると、店長はニコニコと楽しそうに料理をしていました。


「 私も誤解してたの…… 顔が怖くて逃げちゃった事もあるし。

でも凄い酷い事しちゃってたね。

本当は話したら凄い優しくて、面白いのに。

見た目だけで判断しちゃダメだね…… 。 」


少しションボリしてしまいます。


「 何言ってんのさ。

怖いあいつが悪いんだよ。

明日香は気付いてくれたんだろ?

ならもう気にする事なんてないさ。

明日香もこのお店の仲間だよ。 」


その優しい言葉が嬉しかった。

最近は家族以外とはほとんど口を聞いて貰えなくて、凄く寂しかったのです。

店長がパスタとスープを運んできました。


「 お待ちどう様!

こちらは、ウニといくらのクリームパスタ。

スープはじっくり煮込んだ、じゃがポタージュで御座います。

是非、御堪能下さいませ! 」


とても美しい料理の数々…… 。

明日香は口を開きながら驚きました。


「 美味しいそう…… ありがとう熊さん! 」


熊さん? 一瞬二人はなんだと思います。


「 あっはっはっは! 熊井だから熊さんか。

面白い呼び方だ。

あはははっ! 」


音弥は爆笑しました。


「 熊さんか…… そんな呼ばれ方初めてだなぁ。

笑い過ぎだボケ! ゴツっ! 」


熊さんに音弥はげんこつされてしまいます。

凄い鈍い音が響きます…… 。


「 いただきまーす。 パクっ!

…… 美味しい。 美味しい。 」


そのパスタは全ての食材が調和されて、最高の味を奏でていました。

まさに、料理の黄金比率を知り尽くした男!

これが800円は激安だ!


「 そうでしょう、そうでしょう。

沢山お食べなさい。 」


熊さんは嬉しそうに見ていました。


「 おいっ! 俺の料理はどうしたんだよ! 」


「 お前の? ボンっ!!

これでも食っとけ。 」


明日香の違い、ナポリタンが置かれました。


「 おいっ! 嘗めんなよ!

ナポリタンって子供かよ! 」


二人はその訴えを聞いて笑いました。

仕方なく音弥はナポリタンを食べました。


「 もぐもぐ。 美味いけどさ。

ウニといくらのクリーム俺も好きなのに。 」


文句言いながらバクバクと食べました。

明日香も久しぶりに楽しい食事。

食べながら思い出していました。

少し前までは毎日のように、麻衣ちゃんとお弁当や外食したりして楽しかった事を…… 。

もしかしたら学校での事は嘘だったのでは?

と思ったりしました。

でも…… ポケットの中には二つのブレスレットが。

手で二つあるのが分かると、やっぱりもう一人なのだと思ってしまいます。


「 美味しい…… 美味しい。

バクバク! ぐすっ。 美味しいなぁ…… 。 」


思い出しながら涙が溢れてしまいました。

二人は気付いて黙って見ていました。

とても辛い事があったのが直ぐに分かりました。

明日香は沢山泣き、沢山食べて疲れて寝てしまいました。

最近はまともに睡眠出来てなくて、ろくに食べ物も食べてなくて、満足して安心してしまったのだろう。


二人はその姿をほがらかな気持ちで見ていました。


「 音弥。 この子はどうしたんだ?

何か嫌な事があったのかい? 」


「 学校で色々あったんだ…… 。

俺は明日香の人の事を思いやるとこが大好きだ。

でも…… 学校にはいじめとか色々ある。

だからどうにか関わんないで欲しかった。

もし巻き混まれたら、絶対に負けちゃうって思ったんだ。

最初は、もしかしたら大丈夫なんじゃないか?

何て思ったけど間違いだった…… 。

もっと強く止めてたら、こんな悲しい姿は見ずに済んだのかもな…… 。 」


音弥は凄く後悔していました。

助けた明日香の行動は凄い尊敬している。

でも、その反動で傷つく事を何よりも怖がっていたのです。


「 そうか…… 。

音弥。 またいつでも連れて来い。

ここはもう明日香ちゃんの味方なんだってな。 」


熊さんは悲しそうに見詰めました。

もう日は暮れて暗くなってしまいました。

起こすのも可愛いそうなので、おんぶして音弥が運ぶ事に。


「 おっちゃん。 今日はありがとう。

助かったよ。 」


「 気にすんなよ。 お前は歓迎しないけど、明日香ちゃんはいつも大歓迎だってな! 」


と嫌味を言いました。

音弥がおんぶして運ぼうと立ち上がる。


「 音弥…… お前が助けてやれよ? 」


振り返りながら音弥は。


「 最初からそのつもりだ。

俺はもう逃げないからさ。 」


何やら意味深な事を話して帰りました。

暗い森のなかをゆっくりと歩きました。


「 お嬢様。 おウチは何処かな?

全く…… 世話が妬けるな。 」


難いの良い音弥には女の子の一人くらい易々と運んでしまいます。

相当疲れていたのでしょう。

ぐぅぐぅといびきをかいて眠っている。

音弥は何となく家の場所は分かっていたので、ゆっくりと歩きました。

音弥はその重さを深く噛み締めながら…… 。


「 安心しろ。 絶対もう傷つけさせない。

俺も…… 逃げかいから。 」


そう言いながら家まで歩きました。

音弥には何があったのか?

それはまた別の機会に…… 。

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