第26話 信じたくなかった真実

バンッ!バンッ!とマーガレットの放つ銃声が響きわたり、サーニャとロゼッタは鳳条宗久が出現させた集団へと攻撃を続ける。


だが、集団は私には一切攻撃をしてこない。

そして、鳳条宗久もロゼッタ達には一切攻撃しようともせずただ笑いながら眺めているだけだ。

これならと思い、私はロゼッタ達から少し距離を離し、弓をキリキリと音を立てながら援護しようと試みる。


「ふっ…あなたの相手は私ですよ…?」



すると、鳳条宗久はそう言い、凄まじい速さでマーガレットとロゼッタの間をすり抜け、私の前へと現れると私の事を押し倒す様に首を絞めた。


「ぐっ…がぁ…っ!!」


後頭部を打ったからかすごく痛い。

鳳条宗久の力はそんな強いわけではないが、とにかく苦しい。


「ふふ…油断しているからそうなるんですよ。ちゃんと周りを見なきゃ…」


「じ…じゃあ…!その…こ…とばっ…!そのまま返してあげるよ!」


鳳条宗久は薄ら笑いしながら私の事を罵る。

だが、私はこんなので負けるわけにはいかないと思い、

右手に持っていた矢を彼のこめかみ目掛けて力強く刺した。

あの時の様な、初めて依頼を受けた時の生きてるものを刺す感覚が手に伝わってくる。

慣れたくない感覚だが、少し慣れてしまってる自分が怖く感じてしまう。


「あ゛あ゛っ…!」


左のこめかみに矢を刺された鳳条宗久は、どすの効いた様な声で悶絶をする。

私の首を絞める力が弱まった隙に、私はズルズルと這うようにして抜け出し、距離を取る。

立ち上がり、一瞬の間にむせながらも呼吸を整え、再び彼に矢を向ける。


「くそ…。女子高生だからって舐めてた…」


「…じ…女子高生を舐めてもらっちゃ困るよ…?」


ゆっくりと立ち上がり、自身のこめかみに刺さってる矢を抜こうとしている鳳条宗久は私にそう言った。

なんと返答すればいいか分からなかったが、私は適当にそう返答した。

正直こんな事言うつもり無いし、恥ずかしいが、自然と出てしまう。

この世界に毒されてきてるな…と感じてしまった。


バッと私に駆け寄る鳳条宗久に向け、私は何度も矢を放ち続ける。

ロゼッタから貰ったネックレスの中に何本矢が入ってるんだ?と思うぐらい放つ。

だが、鳳条宗久は矢が当たる前に移動し、矢をかわしている。

ただ彼を狙うだけではダメなようだ…。


(ただ狙うだけじゃだめ…。…なら!)


彼の動きを見るに、路地で狭いからか、回避するにも左右移動だけ。

そして、その移動時間はおそらく一秒。

となると、「さっきまでは鳳条宗久が姿を消す数秒前に矢を構え、彼が再び姿を現してから放つ」をしていたが、今からは「放ったと同時に近い感じで矢を構え、消えたと同時に別方向へ矢を放つ」をすればどうにかなるかもしれない。


けど、そうは思ったものの、いけるのか分からない…と言う心配もあるが、この状況だと躊躇っていたら殺されてしまう…、一か八かでやるしかない…!と覚悟を決め、私は矢を一本放ち、次の矢を放つタイミングを出来るだけ早めてみる事にした。


(最初に1…!)


まず始めに一本鳳条宗久へ矢を放つ。


(2…!)


それと同時に、矢を取り出し彼が消えたと同時に左側へと向け、放つ。


ドスッ!


「…ああああああ!」


矢は見事鳳条宗久の左目に刺さり、彼は再び悶絶する。

作戦は成功したが、最初のやり方のままやっていれば私は再び首を絞められたかもしれないという距離までになっていた。

彼が左目を抑えてる間に距離を取るだけではダメだと咄嗟に思った私は、ナイフを取り出し彼の胸元を力強く切りつける。


チリンチリン…


切りつけた後、彼のスーツに付いていた金色のピンバッジが地面に落ちる。

おそらくだが、ナイフで切りつけた時にナイフの刃に引っかかり外れたのだろう。

すると、鳳条宗久が出現させていた集団の動きが途端に鈍くなり、ブラウン管テレビのノイズのような感じで姿が酷くぶれ始める。


(…もしかして!)


「マーガレットさん!彼の近くに落ちてるピンバッジを撃って!」


私はピンバッジを撃つようにマーガレットに叫ぶ様に言った。

マーガレットはそれを聞き、こくりと頷くとピンバッジに向け発砲した。


ビジィン!


金属と金属が凄まじい速さで擦れた様な凄まじい音が鳴り響き、ピンバッジは粉々に砕ける。

それと同時に、集団は砂の様に崩れ落ち、姿を消した。


「嘘だ…」


その光景を見た鳳条宗久は途方に暮れ、絶望した表情を浮かべる。

数分前までの鳳条宗久とは違い、今の鳳条宗久は狂気度が完全に薄れた様な気がする。

まだ油断は出来ないが、あのピンバッジが彼に能力を与えていたのだろう。


彼だけかもしれないが、レオフレート・ファミリーのメンバーに関する小さなヒントになるかもしれないと思った。


「さあ、他のやつらがどこにいるか話な?」


マーガレットは途方に暮れている鳳条宗久の胸ぐらを掴み、彼に問いかける。

鳳条宗久はマーガレットの顔を見ると、クスッと笑いマーガレットの顔に唾を吐きかける。


「…っ!クソ野郎がぁっ!」


顔に唾がかかったマーガレットは、激怒し彼の顔を勢いよく殴りつける。

殴った時の音が人生で一度も聞いた事ないぐらい重く、顎が外れた様な音が聞こえた。


鳳条宗久はマーガレットに殴られた衝撃で地面に倒れるが、ゆっくりと起き上がり、クスクスと笑いながら外れかけた顎を無理矢理元の位置へ戻す。

その時のガゴッという音が私達にも聞こえ、ゾワっとしてしまう。


「…ふふ……。まあいい…。どうせ私は用済みだ…。私以外のメンバーはこの町にいない…。全員隣の街へ行った…」


鳳条宗久はレオフレート・ファミリーのメンバーの居場所について話し始めた。

そして、彼はポケットからライターを取り出しすと、自分のスーツに火をつけ、私の事を見た。


「それと…結衣…。お前、この世界に来た理由を知りたいか…?」


「私が…来た理由…?」


「…その口ぶりだと知らねぇようだな…。テメェは死んでんだよ…。だから、テメェには希望もく…そ…も…ねぇ………」


鳳条宗久は全身に火が回っている中、私がこの世界に来た理由を話すと限界が来たかの様に倒れた。


レオフレート・ファミリーの事はこの町にはいない事しか分からなかったが、彼の言っていた隣町であり、マーガレットの自宅がある「アレゲニー町」へと向かう事にした。

人が焼け死ぬ光景を間近で見てしまった私を心配したロゼッタが声をかけるが、私はそれを無視しマーガレットの車へと乗り込む。

アレゲニーへ向かってる道中、車内は重い空気が漂っており、サーニャやロゼッタが必死に和ませようとするが今は誰とも話したくない。


鳳条宗久の言った言葉を信じたくなかったのだ。

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