第7話 決断
「ユイさん!これとかどうですか?」
それから数時間経ち、ロゼッタ、サーニャ、ミーナと共に朝食を食べ、ロゼッタの「ユイちゃんの変えの服ないし、サーニャとミーナと二人で買い物してきたら?」という一言で今日一日サーニャ、ミーナと町を散策する事になった。
私達は服屋に入り、色々な服を試着したりした。彼女達との会話はまだ馴染んでいないので敬語だが、不思議と二人が同い年な感覚がした。
…ーーこれ、結衣に似合うんじゃない?ーー…
「……。」
サーニャ、ミーナの和気藹々な様子を見て、元の世界にいた時の友達と服屋で色んな服を見て回っていた時の記憶が蘇る。
「ユイさん…?ユイさーん…?」
「……っああ!ごめんなさい…」
ワンピースを持ったサーニャに声をかけられ私は目を覚ましたが、サーニャ、ミーナは少し不安そうな顔していた。
「もしかして、ユイさん…楽しくないですか…?」
サーニャは持っていたワンピースを商品棚に戻し、私にそう言った。
私は心の中にあるどうすればいいか分からない複雑な気持ちを表に出さないようにしていたつもりだが、表情には表れていたようだ。
「いや…そういう訳ではないんですけど…」
何か彼女達に言わなきゃ…と思うが何を言えばいいか分からなかった。
私の気を遣ってかサーニャ達は私を近くのカフェへ連れて行き、飲み物も奢ってくれた。
「すみません…色々してくれているのに全然楽しめなくて…」
私はサーニャとミーナに謝った。
だが、サーニャとミーナは全然気にする素振りを見せなかった。
「いえ、大丈夫ですよ。あと、私達と話す時敬語じゃなくてもいいですよ?もしユイさんも良いのなら私も敬語やめますし」
サーニャが笑顔で私に言った。
確かにサーニャとミーナは同い年か歳下だと思うのにずっと敬語なのは堅苦しくて話しかけづらい。
「うん。じゃあ、サーニャって呼んでいい?」
私はサーニャにそう言った。
ずっと暗かった私の顔が、少し柔らかくなったからかサーニャは私の顔を見て安心した様子だった。
「いいよ。それで、ユイは何か悩みとかある…って言っても突然この世界に訳も分からないで来たら混乱するし悩みだらけだよね…」
「うん…。それもあるし、マーガレットさんに言われた事でずっと悩んでて…」
「それは何?」
サーニャとミーナは私の話を真摯に聞いていた。この瞬間も、元いた世界の記憶が蘇り複雑な気持ちになる。
「「元いた世界」に戻るかどうか…。…実は私、元いた世界で弓道…ここで言うアーチェリーやってたんだけど全然上手くいかなくなってて悩んでたんだ…。それに、親に進路の事で喧嘩して仲も良くない状況でさ、元いた世界が嫌になってたの…」
私はサーニャとミーナに全てを話した。
元いた世界での出来事、この世界に来てよかったとは思うが時間が経つ毎に強くなる寂しい気持ち。
サーニャとミーナに話すにつれ、気持ちがぐちゃぐちゃになっていき泣きそうになる。
「…だから…私どうすればいいか分からなくて…」
「…そうなんだ…。ユイ、実はね私、ロゼッタがいなかったら今みたいに楽しい生活を送れなかったんだ」
私の話を聞いていたミーナが口を開き、自身の過去の話をし始めた。
「そうなの…?」
「うん。私が小さい時、私の家族全員殺されちゃってね…住んでいた町も壊滅されて必死に逃げてた事があったんだ」
「え…?」
私は、ミーナの話の内容に驚きを隠せなかった。
あまりに壮絶で残酷。
目の前で両親、兄が惨殺され、町唯一の生き残りだからという理由で家族を殺した者から命を狙われるという生きた心地のしない話。
私だったら自殺しているような内容だ。
偶然立ち寄った本屋でロゼッタ達と出会わなかったら、ミーナは今のような楽しい生活は送れず、最悪の場合殺されていたかもしれない。
私がもし元いた世界に戻れたとしたら、家族や友人達に再会出来る可能性だってある。
今だって元いた世界では両親や友人達が突然姿を消した私の事を心配し、不安な生活を送っているかもしれない。
なのにうじうじと悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「…ありがとう、サーニャ、ミーナ。気持ちの整理がついた気がするよ」
「うん、そうだね。だってユイの顔さっきと違って笑顔になってるもん」
サーニャは私の顔を見て笑顔でそう言った。
不思議とだが、サーニャとミーナに話したからか気持ちがスッキリきた気がした。
ついでにカフェで昼食を取り、買い物を再開した。
午前と比べて気持ちが軽く感じ、サーニャ達との買い物がこの世界に来て初めて楽しく感じた瞬間だった。
サーニャ達との買い物を終え、宿に戻る頃には18時を回っていた。
私がこの世界にいる間の服が入った紙袋をベッドの上に置き、ベッドの上に腰掛ける。
「お帰り、楽しかった?」
昨日と同じ場所で書類らしき物を片付けているロゼッタが私に話しかけてきた。
サーニャ達と出かける事になったのはロゼッタから切り出した事であり、大丈夫だったか少し気になったのだろう。
「はい、気持ちが少し軽くなりました」
「そう、ならよかった」
笑顔で返答した私の表情を見てロゼッタは安心したのかニコッと笑った。
「あの、ロゼッタさん。私、元の世界に戻りたいです!」
戻れるかどうかは私には分からない。だが、サーニャ、ミーナ、マーガレットから強く信頼されている魔法使いのロゼッタなら元の世界に戻る方法を知っているかもしれない。
どういう返答されるか少し不安だが、私はロゼッタにそう思いを伝えた。
「…分かった。…けどユイちゃん、私は魔法でなんだって出来るけど、ユイちゃんの件は一度もやった事ないから私にもどうなるか分からない。もし、この世界から姿を消せたとしても、その先に行くまでに失敗する可能性だってある。それでもいいの?」
ロゼッタは真剣な顔で話した。
もし失敗すれば私はよく分からない空間で一人になって二度と出れないか、途中で死ぬ可能性だってあるという意味だろう。
ロゼッタからしたら、責任重大な事だ。二つ返事でやれるようなものではない。
だが、私の思いは固まっている。
「はい、大丈夫です。その覚悟があるからロゼッタさんにお願いしたんです」
私は真剣な顔で話した。
するとロゼッタはふふっと小さく笑った。
「分かった!やった事ない事だし色々調べたりするから少し時間掛かるかもしれないけど、戻れる様になったら教えるね!」
「あ…ありがとうございます!」
私はロゼッタの言葉を聞き嬉しくなった。
どれぐらい時間がかかるかは分からないが、元の世界に戻れるという希望が見えたからだ。
そして、期間は分からないが私はロゼッタ達の仲間に正式に加わる事になった。
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