第6話 迷い

「ん…」


何時か分からないが私は目を覚ました。

だが、まだ少し眠い為ベッドから出たくない。

元いた世界なら枕元にスマホが置いてあり、時間を確認することが出来る。


「ん…?あれ…?ない…」


私は顔を枕に突っ伏しながら右手で枕元を触る。スマホが無い。


「…っ!?」


もしかしてと思い、私はガバッと勢いよく起き部屋を見渡す。

昨日と何も変わらない。

隣のベッドではロゼッタが眠っており、ベランダではマーガレットがあくびをし、ガーデンチェアに座っていた。

私はこの世界は夢ではなく現実だと確信し、絶望した。


部屋に置いてある柱時計を見ると時刻は5時すぎ。あまり眠れなかったようだ。

二度寝しようと思ったが全く眠れない。一人でベッドの上でボーっとしても一分が数時間の様に長く感じて暇だ。

ベッドから出た私は、スリッパを履きマーガレットのいるベランダへと向かった。


「ん?起きたのか?」


「はい…」


「そうか、まあそこ座れよ」


部屋から出てきた私を見たマーガレットは私を隣のガーデンチェアに座らせた。

マーガレットの隣にあるテーブルの上にはウイスキーの入ったグラスとボトル、灰皿、それとよく分からない小さな紙袋とガムの様なものが置いてあった。


「それで、ロゼッタから聞いたけど…お前、この世界のやつじゃないんだな」


「はい…。そうなんで…ってマーガレットさん何してるんですか?」


「ん?タバコ作ってる」


「タバコ…」


「うん、だから私の事は気にせず話続けて」


「は…はい…」


私はマーガレットの言う通り話を続けた。

内容は昨晩ロゼッタに話した内容とロゼッタに言われた事。

マーガレットは慣れた手つきで手巻きタバコを作りながら話を聞いている様だが、適当な相槌しか帰ってこない。

正直真面目に話を聞いている様な感じではなかった。


「なるほどなぁ…」


マーガレットはくるくると巻いた手巻きタバコの紙の先端部分を舐め、再びくるくると舐めた先端部分をくっ付ける様に動かしながら言った。


「あの、話聞いてます?」


「聞いてるよ…」


私はマーガレットの態度に少し苛立ちを感じたからか、心の中に閉ざしておこうと思った事をストレートに言ってしまった。

だがマーガレットは私の言葉に特に気にしていない様子でテーブルの上に置いてあるライターを手に取り、蓋を開けタバコに火を付ける。


「んで、お前はどうしたい?」


「え…?」


マーガレットはライターの蓋をパチンと閉め、テーブルの上に置くと空を見上げ、煙を吐きながら言った。


「「元いた世界」か、「この世界」か。お前がどっちの世界にいたいかなんて私には決定権なんて無い。だからお前が決めろ」


「っ…。」


マーガレットに言われた一言により、私は彼女に何も言い返せなくなる。


「…まあ、この世界に来て数時間しか経ってないし、そんなすぐに答えを出せって言ってるわけじゃないから、私らと旅をして考えを導き出せばいいんじゃねぇか?」


マーガレットは私の顔を見て笑顔でそう言った。

その時のマーガレットの笑顔は、数時間前のバーでの戦いの時の様な戦いを楽しんでる狂った笑顔とは違う、「純粋」な笑顔だった。


「ふあぁ…それじゃ、私は眠気が来たから寝るわ…」


「あの、マーガレットさん。ソファで寝るんですか?」


「ああ、そうだけど…?」


「私が使った後のベッドですけど…もし良ければ…」


私は、マーガレットに自分が寝た後のベッドを使う様に言った。

もちろん、人が寝た後のベッドで寝るのは気分的に良いものでは無いのは分かっているが、マーガレットは私以上に疲れが溜まっている。そんな人をソファで寝かせるのは申し訳なく感じた。


「うーん…分かった。そのかわり、後から「タバコ臭くなったー」とか言うなよ?」


「言いませんて…」


「ふふっ、冗談だって。じゃあ、おやすみ」


マーガレットは笑顔で私の頭を撫で、テーブルの上に置いてあった小物類をコートのポケットに入れ、ウイスキーのボトルとグラスを持ち部屋へと入っていった。


何故か分からないが、マーガレットの一連の行動に胸が苦しくなる不思議な感覚がした。

同じ同性なのに、何故か異性と話している感覚。マーガレットの綺麗な顔立ちもあってか尚更そう感じる。


(…まあいいや…。トイレ…)


私は、何を考えているんだろう…と思いながらトイレに向かう為部屋へと入ると私の寝ていたベッドで寝ているマーガレットが目に入った。


「…綺麗だなぁ」


パサッ…


マーガレットの寝顔に何故か見惚れていると、何かが落ちる音が聞こえ、音のした方を見ると近くの椅子にかけられていたマーガレットのコートが床に落ちていた。


私はかけ直そうと思い、手に取るとコートからズシッと謎の重みを感じた。

表現すると、コートの重さプラス、ポケット両側に硯が入っているかの様だ。


椅子にコートをかけ終え、私は再びマーガレットの事を見た。


「マーガレットさん…ありがとうございます…」


私はマーガレットに小声で感謝の気持ちを伝えた。


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