第3話 マーガレットの仕事

あれから数時間が経ち、辺りは暗くなっている。

マーガレットに「少し寝とけ」と言われたが、寝れるわけもなく私は後部座席で三時間近くじっと座っていた。


スマホがあれば時間を潰せたが、普段入れている場所のポケットを触っても何もない。

少しスマホに依存してたのかなと思った。


「…んー!うーし…!やるか!ってお前ずっと起きてたのか?」


「は…はい…」


マーガレットは目を覚まし、体を伸ばすと自身の座っている運転席の背もたれを元に戻す。

私はマーガレットの言葉に小さな声で返答するとふーんと興味なさげに返答された。


私とマーガレットは車から降り、ある店の前に立つ。


「ユイ、これから先、私の指示には絶対従え。分かったか?」


「はい……?」


マーガレットの言葉に私は疑問に思いながら返答した。

そしてマーガレットは店の扉を開け、私は着いていくようにして店の中へ入る。


中は小さなバーっぽいが客が屈強な男や厳つい男しかおらず、私達の見る目はとても鋭く場違い感が凄い。

だがマーガレットは何も気にする事なく平然とカウンターへと歩いていき、行きつけの飲み屋に「ただ普通に」飲みに来ただけという雰囲気だった。


マーガレットはカウンター席へと何食わぬ顔で座ると、マスターに声をかけられた。


「おい、ここはお嬢ちゃん達が飲みに来るような場所じゃねぇんだ。帰んな」


「ああ、私らは飲みに来たわけじゃねぇからな?」


マスターの言葉を聞いたマーガレットはふっと鼻で笑い、そう言い返す。

それを聞いた周りの客は更に私達の事を睨みを効かせる。後方は見てないが謎の威圧感を感じた。


「嬢ちゃん、もう一度言っとくが帰んな。無理矢理帰らせられたくないんなら」


「…そうか…。ならこっちもやってやろうじゃねぇか!」


マーガレットはマスターにそう言うと腰に締まっていた拳銃を取り出し客に向け発砲した。(この間恐らく1秒ぐらい)

その銃声を合図に、周りにいた客もマーガレットに向かって攻撃しようとする者、隠していた銃を取り出そうとする者などでバーはごちゃごちゃになり、まるでアクション映画みたいな光景が広がっていた。


私は何も出来ず、カウンターの前で凄まじい銃声を抑えようと耳を必死に塞ぎ、目を瞑りながらしゃがむ。


ちらっと見えるマーガレットの奮闘は同じ女性とは思えないほど強いパンチ。機敏に攻撃を回避。リボルバー(私は銃に詳しくないから何て言うのかよく分からない)に銃弾を込める速さ。凄いとしか言葉が出てこない。


「…ふぅー…立てるか?」


辺りが静かになると頭上からマーガレットの声が聞こえ、私はマーガレットの顔を見ると彼女は全く息を切らさずに手を差し伸べる。

私はマーガレットの手を掴み、立ち上がるとさっきまでいた5人の屈強な男達は床に倒れて気絶していた。


「さて、私らが探しに来たものの場所を教えてもらえるかな?」


驚いているのも束の間、マーガレットはカウンターの裏に蹲っているマスターに銃を向け脅していた。


「こっ…この扉の奥の階段を登った奥だ…。だから…殺さないでくれ…」


「ほー…なるほどな…じゃあ殺さないでおくわ…」


マスターの言葉を聞いたマーガレットは軽く返答すると銃を少し下ろしマスターの肩目掛けて一発発砲し、肩を撃たれたマスターは痛みに悶えていた。


「ああああああああっ!場所教えただろうが!…クソアマがああああああ!」


「ああ、場所教えたから殺しはしないさ。けど、撃たないとは言ってないよな?」


マーガレットは表情を一つ変えずに言い放つ。

この瞬間、私の中で一番サーニャ、ミーナ、ロゼッタ、マーガレットの中でマーガレットがずば抜けて怒らせてはいけないし怖いと思った。


「それと、ほら。これ持っとけ」


私がそう考えているとマーガレットはコートの中からマーガレットの持っているリボルバータイプとは違う、よく映画で見るハンドガンとマガジンを渡してきた。

ずっしりと手に乗る重みと共に、持ち手がほんのり生暖かいためマーガレットが倒した男たちの銃を勝手に奪ったのだろう。

初めて持つ銃に私は更に恐怖心が増す。


「使い方分かるか?」


「い…いえ…あまり…」


「…だろうな…。まず、ここをこうしてこうすると…」


正直に分からないなら分からないと言った方がいいと思った私だったがマーガレットに聞くのは怖かった。

だが、聞かないで迷惑かけるよりマシだと思い勇気を振り絞り、聞いてみるとマーガレットは使い方を簡単に分かりやすく教えてくれた。使う機会がない事を願う。



銃の使い方の説明を簡単に受けるとマーガレットと私は階段を登り、マスターの指示通り奥にある部屋に入る。

中には椅子に両手足をロープできつく縛られ、口には布が巻かれ、涙を流している女性がいた。

何故か女性の足元は水浸しで変な臭いが立ち込める。


「ビンゴ」


マーガレットと私は女性に近づき、マーガレットに布とロープを外してやるよう指示を受ける。

私は女性の口に巻かれた布を取ろうと近寄ると足元の水溜りの意味が分かった。

いや、分かってしまったと言った方がいいだろう。


恐らく女性は、私達が来るまでの間男達に「何か」されていたのだろう。よく見ると縛られた腕付近に何かで叩かれた傷がある。何を受けたかはあまり想像したくない。少し考えただけで気分が悪くなる。

私は受け入れたくない現実に目を背けつつ臭いを我慢をしながら女性の口に巻かれた布を取る。


「んはっ…!…あなたたちは…?」


「あなたを助けに来ました…。今ロープを取るので少し我慢しててください…」


女性は私の言葉を聞き、ありがとうと言いながら涙を流す。必死にロープを解こうとするが、がっちりと縛られておりなかなか解けない。

間違えて縛ってしまったら痛みを伴うほどだ。

ナイフみたいな鋭利なものがないか辺りを見渡すとマーガレットが棚からショットガンを盗み出している光景が見えた。


「マーガレットさん、ナイフってありますか?」


「ナイフ?あるよ。ほれっ」


私の言葉を聞いたマーガレットは腰にあるサバイバルナイフをカバーから取り出し私に手渡す。そしてマーガレットはショットガンに銃弾を込めていく。


ちゃんと手入れされているのかかなり切れ味が良い。

ギリギリと音を立てながらロープを切り、すべて切り終えると女性を立ち上がらせマーガレットとともに部屋を出ようとすると廊下からギシッギシッと床がきしむ音が聞こえ私と助けられた女性はマーガレットの背後に隠れる。


「へっへっへ…こいつらを殺せばいいのか…?」


廊下に立っている屈強で背の高い大男は私達のことを見てニヤニヤ笑いながら言った。


「…はぁ…邪魔」


マーガレットは男を見るやいなや、ため息をつきショットガンのスライドをガコンと動かし大男の脚めがけ発砲した。


「ああああああああ…!!てめぇえええええ…ひぃっ…!」


「へぇ…見かけのわりに大したことないな…。これ以上私らの邪魔するか?」


大男は倒れ、撃たれた脚を押さえながらマーガレットの事を睨みつけるが目の前にはショットガンの銃口が向けられており何かを察した大男は言葉を失った。


「邪魔しねぇ…さっさと行ってくれ…」


「そうか、ありがとうな」


大男の震えた声を聞いた後、マーガレットは大男に一言告げショットガンのストックで殴りつけた。

大男の視界は一気に暗くなる。

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