第17話 真実②

コーストヴァーレの街の中。

私達はロゼッタの魔法を使い、アリスの捜索を始めた。


「アリスさーん…」


一帯にアリスの反応があり彼女の名前を呼ぶが、一切反応がない。

それに、丁度昼時で人が多く通りが狭い為少し目を離したら逸れてしまいそうだ。

それもあってか少し難航していた。


ガタン…!


「ん…?」


私は音の聞こえた路地の方に目をやると、奥の方でさっきの音の正体だろうかゴミ箱が倒れており、その後ろに何かに怯えた様子の白のワンピース姿の女性がいた。

髪がボサボサだが、ロングヘアで少しつり目。

ロバート伯爵から貰った写真のアリスと特徴が一致した。


「いたか…」


「うん…。そうだけど…なんかすごく怯えた感じだね…」


ロゼッタとマーガレットもアリスの反応に気付き保護する為に近寄ろうとするが、彼女はひどく怯えていた。

まるで生まれてからずっと人の愛情を受けなかった飼い犬のようだ。


「…っ」


私は彼女を見て、いたたまれない気持ちになり、何も言わずにアリスの元へと歩いた。


「お…おい待て…!」


マーガレットは私の腕を掴み、行くなと意思表示をする。


突然何も言わずに歩き始めたらそりゃあ誰だって驚くし止める。

だが、今はそういう場合じゃない。すぐに彼女を助けなければ…と私は思った。


「マーガレットさん、もし私に何があっても銃を抜かないでください…」


私はマーガレットの手を振り払い、彼女にそう告げるとアリスの元へと歩み寄った。


「ちっ…たっくよぉ…」


「まあいいんじゃない?ユイちゃんなりの考えがあるんでしょ?もし何かあったら私が静かに何かするから」


「…まあ……。頼む…」


後ろからちょっとイラついてるが心配そうなマーガレットと私の事を信じてくれているような様子のロゼッタの会話が聞こえて来る。

この時は二人にありがとうと心の中で伝えた。


「アリスさん…ですか?」


私はアリスの前で彼女と同じ目線になり、名前を呼ぶ。

彼女は震えながらこくりと頷いた。


彼女の首元や腕、手、脚、足首を見ると失踪した時に出来たような傷以外にいつ出来たか分からないような傷跡があった。


「さあ…お家に帰りましょう…?」


正直これでいいのか分からない。

家にいたくないから失踪したのに、こんな事言っていいわけがない。

だが、それ以外の言葉が全く思いつかなかった。


「い…いや…」


「…どうして?」


「だって…パパ…わたしがわるいことしたら…ぶってくるし…いろいろさわってくる…もういや…」


やはりそういう理由だった。

彼女の話し方は外見のスタイルの良さとは全くリンクしない。とても幼い。

考えたくもないが、幼少期の頃から監禁されといたのだろう。

娘を監禁し、欲望のまま好きなようにし、アリスをおもちゃのように扱うロバートへの怒りがふつふつと込み上がる。


「大丈夫だよ…」


「い…いや…っ!」


…ザリッ!


私は、少しでも人の温かさを知ってもらいたいと思い彼女に右手を差し出した。

だが、その選択は間違っていたようだ。

アリスの脳裏にあるトラウマを呼び起こしてしまったのか、私の手の甲を鋭く伸びきった爪で引っ掻くようにして払いのける。


「…っ…!」


「……あ…ああああ…ごめ…ごめんなさい…ごめんなさい…!」


手の甲に凄まじい痛みと生暖かいものが流れてるのを感じる。

アリスは自分のやった事に対しひどく、さっきよりも感情的に謝り始める。

その光景を見ているだけでも胸が締め付けられる思いだ。


「大丈夫だよ…。私は…あなたのパパみたいにぶったりしない…」


「…ほ…ほんとう…?」


「うん…ほら…触ってみていいよ…」


私は痛みを必死に我慢し、差し出したままの右手を少し低く、手の甲の傷口が見えないようにして差し出した。

アリスはゆっくりと震えながらだが、自身の右手で頑張って触ろうとしている。


何度か指先を私の手の平につんつんと触れ、何もしてこないと分かり始めるともう片方の手で私の指を触り始める。

力は弱いが、私の手をむにむにと触り始める。

少しだけだが、心が近付いてきてるような気がした。


「ね…?何もしないでしょ…?」


「う…うん…」


少しずつ(おそらく10%ぐらい…?)心を開き始めたアリスは私の元へ近寄り、彼女の爪で引っ掻いてしまった私の右手の甲を見る。


「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」


彼女は震えながら、弱々しい声でペロペロと私の手の甲から垂れてくる血を舐め取り始めた。

その舐め方は手馴れている様子で、なんとなくだがいやらしさを感じた。

そして、首元には切り傷の他にいつのか分からないが誰かに首を絞められたような跡がある。

絶対ロバートがしたものだろう。


考えたくもないが、ロバートが彼女にどんな虐待をしていたのかが容易に想像出来る。


「…舐めなくていいよ…」


「でも…」


「…お願い…やめて」


私はアリスに舐めるのをやめさせた。

汚いとか衛生面とかではなく、見ているのがとにかく辛いからだ。

彼女はこれが「普通」という事になっているらしいが、私達からしたら普通ではなく異常だ。

彼女は絶対ロバートの元には帰してはならないと強く感じた。


「立てる…?」


「うん…」


ふつふつと込み上がる怒りをアリスに見せてはいけないと思った私は感情を押し殺し、アリスを立たせる。

流石にこんな薄汚れた路地裏にずっといるわけにはならないからだ。

彼女はふらふらっとだが、ゆっくりと立ち上がる。


その時気づいた事だが、アリスはスタイルが良いと思っていたが、立ち上がってより実感した。

私の身長は163~4cmぐらいだった気がするが、アリスはそれより高い。

おそらく170cmはあるだろう。逆によく見つからないでいたなと思う。


「ロゼッタさん、これじゃ目立っちゃうんじゃ…」


「大丈夫、少しの間アリスちゃんの姿を見えなくする魔法かけといたし、マーガレットがすぐ近くの宿探しに行ってくれたよ」


「ならよかった…」


ロゼッタの手早い仕事に私はホッとした。

場所を移動しようとは言ったが、そのままロバートの家に連れて行くわけにはいかないからだ。


それから数分後、マーガレットの案内により私達は近くの宿で一晩明かす事にした。

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