第16話 真実①

それから数時間車を走らせ、山を越えると目的地の街へとたどり着いた。


南部の港町「コーストヴァーレ」。

この町は、漁業者が多く住む町だが、南部にある割に意外と暑くない為、避暑地として別荘や、海沿いという事もあり物流で富を成した富裕層の屋敷などが多い町でもある。

私達は、その中で一番大きな屋敷の玄関前で車から降りた。


「うわぁ…!」


私は、あまりに大きな屋敷を見て圧倒された。

玄関前には彫刻物、外壁にも装飾がなされておりどれも細かい。


「お待ちしておりました。ロゼッタ様、サーニャ様、マーガレット様、ミーナ様…と…そちらの方は?」


屋敷に見惚れていると、大きな玄関の扉が開き中からメイドが現れ無表情で私達を歓迎してくれた。

だが、私の事は連絡に入っていなかったからか「誰?」という感じのリアクションを取られてしまった。


「ユイです。よろしくお願いします」


「ユイ様…。なるほど、承知致しました。…では、ご主人様のいるお部屋へとご案内いたします」


私はメイドに自己紹介をしたが、一切表情を変えないからか反応は本当に理解してくれたのか分かりにくかった。

その後、私達はメイドの先導で屋敷内へと入り、当主のいる部屋へと案内された。


屋敷内は一ついくらするか分からないような価値のありそうな壺が置かれ、床は高級感のある絨毯、照明はシャンデリアやランプ。まるで高級ホテルのようだ。

一番奥の部屋へ到着すると、メイドはドアをノックした。


「ご主人様。お客様をお連れ致しました」


「そうか、入ってくれ」


男性の声がドアの奥から聞こえると、メイドはドアを開け私達に入るよう促す。

案内された部屋の中へと入ると慌てた様子のふくよかな中年男性がいた。


「お待ちしておりました…!ささっ、どうぞこちらに…!」


私達は中年男性に促され、大きなソファへと座った。


この家の当主である中年男性の名前は「ロバート」。この町で貿易業を営んでおり、町では名の知れた有名人らしい。

そりゃあ、こんな豪邸に住んでいるのなら有名に決まっている。


早速依頼の事を聞こうと思ったロゼッタだったが、ロバートは突然部屋の中にある骨董品の話をし始めた。

絵画や彫刻など、あらゆる物を自慢しているが私達は愛想笑いするしか出来なかった。

特にマーガレットは顔では笑っているが、受け答えの口調が少し強く感じる。多分一切興味が無いから苛立っているのだろう。


「…それで、それよりもっと大事な事…ありますよね?」


痺れを切らしたマーガレットは、さっさと依頼を話せと言わんばかりに中年男性へ問い詰めた。

マーガレットの口から始めて聞いた敬語。普段とは違う恐怖を少し感じた。


「ああ、失礼。依頼の内容はですね…」


依頼の内容は、「数日前に失踪した娘を探して欲しい」というものだった。

また人探しか…と思ったが、今回のは少し違った。

前回のは何者かによって拐われた…だったが、今回は家出だ。


ロバートは胸ポケットから一枚の写真を取り出し、私達に見せた。

写真に写る娘の名前は「アリス」。歳は24歳。

それぐらいの歳なら別にいいのでは?と思ったが、親からしたらとても心配なのだろう。


「…ごめん、ちょっとトイレ」


ロバートが説明している途中で、ロゼッタは立ち上がり席を離れた。


「あっ…いいですよ。話し続けてて。マーガレット、あとで詳細教えてね」


「おう」


「それじゃ、メイドさん。場所教えてくれます?」


「…承知しました」


そう言ってロゼッタとメイドは部屋を出た。



メイドの先導についていくロゼッタ。

長く広い廊下を歩いていると、ロゼッタは小声で「ごめんね」と言い、メイドの首元に人差し指を置くとメイドに気付かれないように魔法を唱えた。

メイドは石のように固まり、ロゼッタはその隙にある部屋の前まで歩いた。

それは、豪華絢爛な屋敷内で一箇所だけ異彩を放つ部屋だ。

その部屋のドアには大きくガッチリとした南京錠が取り付けられており、内側からは開けられなくなっている。

まるで中に何かを閉じ込めておく為にあるかのようだ。


ロゼッタは紙切れを床に落とすと、紙切れは一人でにドアの隙間へと入っていき数秒後にロゼッタの元へと戻ってきた。


「…なるほど…。これは少し考えなきゃね…」


紙切れを拾い上げ、紙に書かれている情報を読み取るとロゼッタは真顔でため息をつき、そう言った。


それから数分が経ち、ロゼッタと私達はロバートの話を聞き終え、車に乗り込み屋敷を出た。

サーニャとミーナは別行動でアリスを探す事になった。


「ねぇマーガレット、あの後どうだった?」


ロゼッタはマーガレットに席を外していた間の事を質問した。


「…んー…なんかおかしいと思うんだよなぁ…」


「おかしい?」


「ああ、普通なら娘の捜索願とかを保安官とかに出すだろ?なのに一切出していないらしい…。絶対何か隠してると思うんだよなぁ…」


マーガレットは少し険しい表情でそう言った。

それを聞いたロゼッタはやっぱりか…と呟き席を外していた時何をしていたのかを話し始めた。


「多分マーガレットやユイちゃんも見たと思うけど、あの部屋の中を調べたんだ」


「あの部屋って…南京錠のかかった部屋か?」


マーガレットはあの部屋の事か?と言った。

やはり、あの部屋の異様さは私以外も感じていたらしい。


「うん、あの部屋の中なんだけど、まるで子供部屋みたいなんだけど、窓は全てカーテンで閉められていて窓枠には牢獄みたいに鉄格子がはめ込まれてた…。それで、ロバートさんの子供はアリス一人だけ…あとは分かるでしょ?」


「…ああ、アリスは箱入り娘って事だろ…?」


「しかも、重度のね…」


「それで、保安官とかに捜索願出さないって事はバレたらまずい事があるって事だな…。くそ…あのジジイ…」


私はロゼッタとマーガレットの話を聞いて、ある言葉を思い浮かべてしまった。


「あの、ロゼッタさん…マーガレットさん…。多分ないと願いたいんですけど、アリスさんって…虐待を受けてたって事ですか…?」


「…ああ、その可能性は高いな。それから逃げる為に逃げ出したが、ずっと部屋ん中にいたから外の世界なんて一切知らないから助けを求める手段も何も知らない。残酷なもんだ」


やはり、私の思った通りだった。

もし、依頼通りにアリスをロバートの元へ返したら彼女に幸せなんてない。

だからといって、見放したら彼女は助かる術も分からないまま死んでしまう。

それはあってはならない事だ。


ロゼッタとマーガレットは何も言わないが、今回の依頼は「失踪したアリスは助けるが、依頼者のロバートの元には返さない」というものに変わっているような気がした。

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