第二章「貿易業 ロバート」

第15話 新たな依頼先


「はぁ…はぁ…いやっ…!」


雨降りしきるとある街の路地。

真っ暗な夜中に白のワンピース姿の一人の女性が何かに怯え、ガクガクと体を震わせながらしゃがみ込んでいた。


ガサッ…


「ひぃ…!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」


ゴミ箱から出てきたネズミの音にひどく怯え、普通の様子ではなかった。



場所は変わり、ユイとロゼッタ達のいる宿。


「さて、忘れ物とかない?」


ロゼッタが私達に言う。

次の依頼相手の家へ行く準備の為、私達は宿から自分の荷物をマーガレットの車に載せていた。


とはいうもの、マーガレットの車は古い車(車の事はさっぱり分からないけど、おそらく1930~40年代の外車…?)故トランクなんて物は最小限しかない。


魔法を使えるサーニャ、ミーナ、ロゼッタは魔法でどうにかする為、大きな荷物があるのはマーガレットのみだ。

それでも、車の後ろにあるトランクにすっぽりと入るトランクバックのみで、すぐ使う物はコートのポケットに入れているらしい。

なので、準備はすんなり終わった。


「ねぇロゼッタ、ちょっと雑貨屋寄りたいんだけど」


私は、ロゼッタにそう言った。


昨日の寝る前に気づいた徐々に元いた世界の記憶が消えてるような感覚。

どこまで消えてしまうのか、元いた世界に戻れる時、いやそれより前に記憶が消えてしまうのか…先が読めない現象に少し恐怖を感じた。


日記さえあればメモ帳代わりにもなるし見返す事が出来る。

その為に雑貨屋に寄って日記を買いたかった。


「そう?ねぇマーガレット、時間って大丈夫?」


「まあ、大丈夫だけど…。あまり遠くに行くなよ?」


ロゼッタはマーガレットに余裕があるか聞くと数十分はあるようだ。

なので、私とロゼッタで雑貨屋に行く事にした。


雑貨屋に着き商品を眺めてみるが、予想通りシンプルなデザインの物しか置いていない。

元いた世界の雑貨屋ならキャラクターがあしらわれている物などもあるが、この世界は茶色や黒の合皮なのか本革か定かではないがカバーのされている物、カバー無しといった二つしかない。


悪く言えばバリエーションがないとなるが、良く言えば値段は10円しか変わらず、カバー無しで200円、カバーありで210円と思ったよりも値段が安い。

私は暗めの茶色のカバーがされている日記と黒の万年筆をロゼッタに買ってもらった。


「ありがとう、ロゼッタ」


「いいよ。それじゃあ、ちょっと私の用事にも付き合ってくれない?」


「いいよ」


私はロゼッタに着いていくと、ロゼッタは薬局の前で立ち止まり私に「ここで待ってて」と言い店の中へと入る。

ロゼッタが戻ってくるまでの間、買ってもらった日記を開き中を確認してみると、月と日にちは元いた世界と同じのようだ。

ただ一つ違うとすれば、西暦だ。

元いた世界では2021年だったが、日記には958年と記されている。

常識や歴史など色々と違うところはあるが、心なしかタイムスリップしたような気分になる。


「お待たせ…って何見てるの?」


薬局から戻ってきたロゼッタが日記を眺めている私に問いかけた。


「ねぇロゼッタ、この西暦ってどういう基準で決まってるの?」


「えぇー……うーん…。考えた事無かったなぁ…そんな事…そういえば何なんだろ…うーん…」


私の質問を聞いたロゼッタは頭を下げて深く考え始めた。


「あ…ごめん…。大丈夫…多分だけど、そんな深い意味ないんでしょ…?」


「うーん…多分無いんだろうけど…なんか気になるなぁ…」


私とロゼッタは会話をしながらマーガレット達の戻る場所へと戻り、マーガレットの車へと乗り込むとマーガレットはすぐに車を発進させ目的地へと運転した。


ロゼッタと会話してる時に知ったが、ロゼッタは一度も日記をつけた事がなく、西暦なんて気にしないで生きていたらしい。

それと、ロゼッタが薬局に行った理由は「ある薬」を買う為だという事だ。


この世界の魔法使いには「両親が魔法使い」、「片親が魔法使い」、「両親が魔法使いではない」という三つの種類があり、ミーナは一つ目、サーニャは二つ目、ロゼッタは三つ目にあたる。


両親が魔法使いなら私と同じように長くて100歳を生きられるらしいが、二つ目と三つ目は違い、「魔力の負荷」によって寿命が短くなるとのこと。


「魔力の負荷」とは、人間だったものが魔法を習得し、増えていく事で発生する現象。

症状は個人差があるが、ひどい場合だと体内の臓器に負荷がかかり吐血などを起こし最悪死亡する。


二つ目にあたるサーニャは片親の遺伝子を受け継いでいる為「魔力の負荷」に耐える事が多少出来るが、三つ目のロゼッタは耐性が一切ない。

魔力の負荷をモロに受けてしまうのだ。


さらに、ロゼッタは見習い魔法使いや魔法使いになりたい者が通う魔法学校で、見習い魔法使いが一年で5~6種類の魔法を習得するのが普通だが、ロゼッタは一年で14~15種類の魔法を短期間で寝ずに習得してしまった事もあり、負荷は他の魔法使いの何倍も掛かっている。


一つの魔法を習得すると寿命が軽い魔法なら-2歳、強力になれば-10歳と負荷により減っていく為、大体の魔法は使える今のロゼッタは生きている方が奇跡というレベルだ。


それの抑制剤をロゼッタは買っていたようだ。

ロゼッタの話を聞いてからは、余計にロゼッタとサーニャに頼みづらくなった気がした。


街を抜けると景色は一気に草原へと変わり、一本道が長く一直線に続く。

元いた世界の様な田んぼなどは一切ない。

自然豊かな世界だ。

マーガレットが言うには、目的地は目の前に聳え立つ山を越えた先にある街らしい。


私は車の中で日記を書きながら、次の依頼では前回のような迷惑をかけないようにしようと強く誓った。

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