第14話 ロゼッタ達の過去

「それと、伯爵の口から「グレッタ」の名前が出てくるなんて…思わなかったわ…」


ロゼッタは、話を続ける。

屋敷内での伯爵の最期の話のようだ。

確かに、私達の背後には誰もいなかったのに伯爵は何かに取り憑かれたかのように必死に「グレッタ」という人物名を叫んでいた。


何か心当たりがあるのか、グレッタの名前が出るとマーガレットはピクッと反応し、飲んでいたウイスキーグラスをテーブルの上に置いた。


「ロゼッタ、それってどういう事だ?」


「伯爵がね、最期気が動転した感じにずっと「グレッタ」の事呼んでたの…。それに、元々人間から化け物に変わるなんてありえないし、伯爵にはそんな知識持ち合わせてるように見えなかった。それを見ての私の憶測だけど、グレッタが作った「生物」をなんらかの形で入手してそれをメアリちゃんに投与か何かしたんだと思う…」


ロゼッタは自身の憶測を語った。

おそらく箒で宿に戻っている間、ロゼッタはこのことを考えていたのだろう。

憶測を聞いたマーガレットは普段の冷静さとは異なり、少し苛立ってる様に見えた。


「…ちっ…あいつ絡みはもう二度とごめんだ…」


「あの、ちょっと気になるんですけど…グレッタってなんなんですか?」


「ああ、ユイは分からないよな。グレッタってのは簡単に言うとマッドサイエンティストだ」


マーガレットはロゼッタ達の話に入りやすくする為の基礎知識という理由で、グレッタの事とグレッタがいた組織「ヴィランズコースト」の事について簡単に説明してくれた。


グレッタというのは、人間だろうが動物だろうが、生きてようが死んでようが関係なく臓器移植や遺伝子操作などといった「改造」をし、新たな生物を作る事が生きがいな人らしい。

そこに所属していたのが「ヴィランズコースト」。

自身の欲求の為だけに殺人や盗みなどの犯罪行為をする犯罪組織。

とにかく危ない人達ばかりで、気に食わないことがあれば味方だろうと子供だろうと関係なしに平気で殺す絶対関わりたくない集団だ。


ロゼッタ達は嫌でもヴィランズコーストと関わってしまうらしく、ロゼッタは最愛の友人がヴィランズコーストに潜入し、再会後メンバーに殺され、サーニャは父親が監禁され、その後行方不明。


マーガレットは師匠と呼んでいた人をグレッタによって改造させられ、人間で無くなった師匠を自身の手で殺める事になってしまい、ミーナは故郷をヴィランズコーストのメンバーの手によって跡形もなく破壊され、両親を殺された。


話を聞くだけでもロゼッタ達がどれぐらいヴィランズコースト絡みの依頼を嫌がるのかがよく分かる。

関わるだけでも神経がすり減らされ、命がいくつあっても足りないぐらい危険なのだろう。


「でもよ…ヴィランズコーストって壊滅したんじゃねぇのか?主要メンバーのグレッタは私が殺したし、残党ももういないだろ」


マーガレットはロゼッタに話を振った。

私はマーガレットの話を聞いて少し気になる事(殺した…とか)があったが、今は聞きづらいし、気にしないでおこうと思い口出しをしなかった。


「うん、それは追々調べる。多分だけど、入手ルートを辿るうちに分かるだろうし…」


「…そうだな。今はそういった話は聞かないから」


マーガレットはロゼッタの話を聞き、頷くことしか出来ない感じだった。

話を聞く感じ、何年もの間ヴィランズコースト絡みの事件や話は一切無く、ロゼッタ達の間では壊滅したという認識。

残党がいたとしてもどこにいるのかすら分からない。

無理に調査をすればロゼッタ達、いや特に私の命が危ないとロゼッタとマーガレットは思っているのだろう。


ロゼッタ達の話し合いが終わり、私はシャワーを浴びて自分のベッドへと腰を下ろす。

私とロゼッタが依頼を受けてる間に、サーニャ達が準備してくれていたようだ。

部屋の灯りは消え、ロゼッタ達はぐっすりと眠りについているが私は眠れなかった。


(ん…なんだろう…疲れたのに眠れない…)


「…ねぇ、ユイ…まだ起きてる?」


隣のベッドで寝ているサーニャに声を掛けられた。


「うん…なんか眠れなくて…」


「そっか…じゃあ、眠くなるまで話しよう?」


「うん」


「…そういえば、ユイのいた世界ってどんな感じなの?」


「へ?どんな感じって…」


サーニャは私に話を振ってきた。

数分考えるが、いざ話してみようとするも今いる世界にあれが存在するのか?伝わるのかどうかわからない…といった不安が現れる。


「うーんと…なんて言えばいいんだろう…。難しいなぁ…。…全然違うかな?」


「違う?どういう風に?」


「例えるのなら、私のいた世界は魔法なんて誰も使えないし、銃を持ってる事なんて普通ありえない。だから、今まで起きてる事が全て嘘みたいって感じるんだ」


「へー、そうなんだ…。私もユイのいた世界に行ってみたいなぁ…」


「なんで?」


「魔法が完全にない世界ってのを一度体験してみたいなーって思う時があってね。なんかそれはそれで楽しそうって思うの」


「ふーん…」


サーニャの話を聞いた私は最初不便になるだけでは?と思ったが、たまに人里から離れて、あえて不便で、自給自足で生活する人をテレビで見た事を思い出すとなんとなく理解する事が出来た。

魔法でなんでも…いや、ある程度の事が出来るようになったサーニャだから尚更そう思うのだろう。


数分話しているとサーニャは寝落ちしてしまい、私も強い眠気に襲われる。

不思議とだが、サーニャとの会話が元いた世界で一度体験した事あるような気がしたが、それが何なのかがわからない。

あれ…このシーンなんかの映画と似てるような気がする…と似たような感覚で、完全に思い出せない。


気のせいだといいが、徐々に、時間が経つごとに忘れちゃいけない物が消えていってるような気がした。

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