第13話 初めての依頼終了

何が起こったのか分からない。

時間としては数秒なのだろうけど、体感としては何時間もかかったような気がした。

冷や汗が止まらない。


「…ロゼッタ…さん…伯爵って…」


どうすればいいか分からない私はロゼッタに質問をする。

ちらっとロゼッタの事を見ると少し戸惑った表情をしていたが、私の声を聞いたからか数分前のような冷静な表情へと戻った。

私の事を心配させない為に感情を無理矢理押し殺しているのだろうか。


「…うん、あと…その子も…」


「え…」


最初はロゼッタの言っている事がよくわからなかった私はとっさにメアリの胸元に手を当てる。


「動いてない…」


メアリの心臓の音は感じられず、呼吸も止まっていた。


「ロゼッタさん…メアリちゃんの事を生き返らせることって出来るんですか…?」


「…一回外の空気吸いに行こう…。その後の動きは後で説明する…」


私は現実を受け止められず、ロゼッタに再び質問する。

だが、ロゼッタはそう言い、私の顔を見ずにドアを開け外へと出た。

仕方なく私はメアリの遺体を床に寝かせ、ロゼッタの元へ行き、外へ出てみるとロゼッタは玄関ポーチ(入り口の前にある段差)に静かに座っていた。


「隣座っていいよ…」


「…はい…」


「…ユイちゃん…さっき言ってたメアリちゃんを生き返らせられるかどうかなんだけど…。正直に言うと、それは無理…」


私はロゼッタの言葉を聞き、何も言い返す事が出来なかった。

それと同時に、化け物の体内での出来事、手に残るあの感覚が突然フラッシュバックし、ゾワゾワと「私がメアリちゃんを殺してしまった…」という罪悪感などの色々な負の感情が込み上げてくる。


「うっ…」


メンタルがボロボロになり耐えられなくなった私は、泣きながら吐くしか出来なかった。

そして、吐き終えると涙を流しながら「ごめんなさい…」としかいえなかった。

ロゼッタは何も言わずにただ優しく背中をさする。


何時間泣いたのか分からないが、辺りは暗くなり、街の街灯には灯りが灯っている。

メアリと伯爵の遺体はロゼッタの魔法によって弔われ、私達は行きと同じように箒に乗り宿へと目指す。

一つ違うとすれば、終始無言だという事だ。

話す話題なんてあるわけないし、それよりもロゼッタの表情が険しく感じたため話しかけづらい。



「…ロゼッタさん…この後どうするんですか?」


宿の前にたどり着き、私は箒を降りるとロゼッタに心の中で気になっていた事を伝えた。

ロゼッタも察したのか宿の外で話し始める。


「ベリーちゃんの事?」


「はい…」


「…少し残酷かも知れないけど、彼女の記憶からメアリちゃんとの記憶を消して、今回の件は彼女が「迷子」になったって事にする…」


「……。」


これは仕方のない事なのだろう。

正直に伝えれば、責め立てられるのは私だろうしメアリの心に深い傷が付く事になる。

ロゼッタもこんな事はしたくないのだろうが、これしか方法はない。

嫌でも残酷な現実を受け入れるしかないのだ。


「私…こんな事言うのもあれかも知れないですけど…メアリちゃんに顔向け出来ないです…」


「…じゃあ、ベリーちゃんが部屋を出るまでどこかで待つ?」


「…はい、すみません」


「ううん、ユイちゃんは何も悪くないよ。よく頑張った」


ロゼッタは私にそう言い、頭を優しく撫でてくれた。

私はベリーちゃんが宿から出るまでの間、宿内にある売店近くのベンチに座って待つ事にした。

ここならベリーちゃんに見つかる可能性は低いと思う。


「…ユイちゃん?大丈夫…?」


「…サーニャ」


何も考えたくないなぁ…って思いながら向こう側の壁を眺めていると、私の事が心配だったのかサーニャがやってきた。


「何か食べる?」


「ごめん、食欲ない…」


「分かった」


サーニャは私にそう言い、売店で買い物をし始める。

昼から何も食べていないが、食べ物が通る気がしない。


「はい」


「え…?私いらないって…」


「いいからいいから、食べたくなったら食べればいいんだし」


サーニャは私に紙袋を渡し、隣に座った。

紙袋はずしっと重く、何が入っているのか気になり中を覗いてみると、コンビニで買うと5~600円ぐらいしそうな量のハムトーストサンドが入っていた。

しかも一個が大きい上に食パンが分厚い。


「え…?こんなにいいの…?」


「うん、ユイ一人で食べていいよ。私はドーナツとメロンパンあるし」


一人で食べるには少し多い量に私は戸惑いサーニャに質問するが、サーニャはドーナツを口に頬張りながら大丈夫と言った。

サーニャの紙袋の中にはメロンパン三つにドーナツが四つ入っているのがちらっと見えた。

しかもメロンパンはまあまあ大きい。多分ミーナやマーガレット、ロゼッタに分けるのだろう。


数分後、サーニャと私はロゼッタのいる部屋へと戻った。

部屋の中にはもちろんベリーちゃんはいない。それに、ミーナもいない為彼女が送っていったのだろう。

サーニャから買ってもらったハムトーストサンドは一人では食べきれないので、ロゼッタやマーガレットに分けた。


食後にロゼッタから聞いた話だが、この世界には、ゲームやフィクション作品の様な死んだ人が生き返るなんてものは無い。死んだらそこで終わり。


とは言うが魔法では「死者蘇生」という強力魔法はあるらしい。

ロゼッタ以外のサーニャ、ミーナ、マーガレットが過去に体験しており、それをやったのはサーニャの母親だったらしいがその後亡くなったという。

私の推測だが、死者蘇生をすると相手は生き返るが自分は「代償」として無条件で死ぬという事だろうか。


とにかく、私が勝手に判断したために起きてしまった事。

ロゼッタなら絶対やってくれるという甘え、魔法があるのなら全て出来るという甘え、私はこの世界の事を舐めていたのかも知れない。

私はこの世界に来て、重要な事を学んだ。

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