第18話 真実③
コーストヴァーレの宿にて
私とロゼッタ、アリスだけ宿の部屋へと入り、マーガレットは車の中で待機していた。
「ロゼッタさん、マーガレットさんはなんで車の中で待機なんですか?」
「んーっとね…サーニャとミーナちゃんの進捗次第で変わるからかな」
「進捗次第…?」
ロゼッタは万年筆で便箋にさらさらと文章を書き、便箋を書き終えると封筒へと入れ魔法で封をした。
「じゃあユイちゃん、これをポストに入れてきてくれないかな?私はその間アリスちゃんとお話したいし…」
ロゼッタは私に封筒を渡し、そう言った。
おそらくアリスとのお話というのはカウンセリングとかなのだろう。
「分かりました…ってアリスさん…?」
私は立ち上がり、ロゼッタから封筒を受け取ろうとするが隣に座っていたアリスに服の袖を掴まれ引っ張られた。
アリスの表情を見ると、どこか悲しそうだった。
「いや…いかないで…」
「…あらあら…。じゃあ、私が出してくるから二人は留守番しててね…。あとこれ食べていいよ」
ロゼッタはクスッと笑い、私にサンドイッチの入った紙袋を渡して部屋を出た。
正直どうすればいいか分からない。
「…食べる?」
「…うん」
とりあえず、アリスにサンドイッチを渡した。
アリスはサンドイッチをもしゃもしゃとハムスターのように頬張る。
美味しそうに食べてはいるが、口の周りには食べかすが付き、スカートにトマトの汁やドレッシングソースを垂らしそうになる。
まるで子供みたいだ。
「美味しい?」
「うん…おいしい…」
「ならよかった」
私はそう返答をするとアリスは私の事をじっと見つめてきた。
口の周りに付いた食べかすやドレッシングソースを拭いて欲しいと言いたいのかは分からないが、私はとりあえずハンカチでアリスの口に付いている食べカスなどを拭き取る。
「んーんー?…ちがう!ねぇ……えっと…」
「ん?どうしたの?」
「えっと…ユイ…?」
「私の名前?ユイで合ってるよ」
どうやら私の事をじっと見つめてきた理由は口を拭いて欲しいではなく私の名前を知りたかったらしい。
そして、私の名前を知れた事にアリスは少し嬉しそうだった。
「ユイってあのまほうつかいさんとかとちがうね…。オリビアみたい…」
アリスは私の顔を見てそう言った。
おそらく「魔法使いさん」とはロゼッタの事だろう。
そりゃあ、この世界の住人ではないから…と伝えたいが、説明したところで童話を聞いてる子供みたいなリアクションか理解出来ずに質問責めにあうの二択だ。
それよりも、アリスの口から身に覚えのない人物の名前が出てきた。
「オリビア?」
「うん!オリビアってユイみたいに口を拭いてくれたりいろいろしてくれるの!」
「へーそうなんだ」
アリスはオリビアという人物の事を楽しく話し始めた。
オリビアという人物は、アリスの言動や監禁されていた事、屋敷内の人物などを考えるにロバートの屋敷にいた一切表情を変えない、ロボットのようなメイドの事だろう。
アリスの話を聞くと、オリビアはアリスの食事、入浴などの世話を全て一人でこなしていたらしい。
「でも…わたし…でちゃだめっていわれたへやをかってにでちゃったから…オリビアに…おこられちゃう…うっ…うぅ…」
アリスはそう言ってボロボロと涙を流し始めた。
帰ったら罰を受けると思っているのだろう。
オリビアならそんな事はしない…と伝えたい気持ちはあるが、確信かどうかは分からない。
オリビアのミスなら罰はある可能性が高いが、あのメイドがミスをするようには一切見えない。
考えるごとに正解が分からなくなる。
さっぱり分からない。
アリスに返す言葉が全く浮かばず、ただ頭を撫でてあげる事しか出来ない。
何もできない自分に少し苛立ちを感じる。
それから数時間が経ち、午後15時半
「ごめんごめん…遅くなっちゃ…あら…」
「お帰りなさい、ロゼッタさん」
郵便物を出し終えたロゼッタが宿部屋に戻ってきた。
「アリスちゃん…寝ちゃったの?」
「うん…一時間前ぐらいに。それに、全然離してくれないからちょっと困ってる…」
ロゼッタはアリスの事を見て嬉しそうだった。
数時間前までは警戒心むき出しだったアリスが、今では私の右手を握りながらすやすやと眠っているからだ。
私もそれに関しては嬉しいが、流石にトイレに行きたい…。
引き離そうとするとぎゅっと握る力を強め離そうとしない。
ロゼッタが戻ってくるまで我慢するしかなかったのだ…。
「じゃあ、変わってあげるからその間に行ってきな」
「うん、ありがとう」
ロゼッタは私とアリスの手の隙間に指を入れ、気付かれないように私の右手を離してくれた。
トイレはなんとか間に合った。
「ありがとうロゼッタ」
「うん。けど、やっぱりユイちゃんの方がいいのかな…?ちょっと不機嫌そう…」
「…そうだね」
私はアリスの方を見るとロゼッタの言う通り、寝顔が少し不機嫌そうな感じがした。
試しにロゼッタと交代してみると、アリスは私の体にくっつき、すんすんと匂いを嗅ぐと嬉しそうにしていた。
「うぅん…ユイ〜…」
「相当気に入られちゃったのかな…?」
「そうじゃない?いい事だと思うよ」
ロゼッタは机の上に置いていた封筒を手に取り、中を確認しながらそう言った。
「そういえばロゼッタさん、さっきアリスさんから屋敷内にいたメイドの話を聞いたんですけど」
「メイド?」
「はい。名前が「オリビア」と言うらしくて、アリスさんのお世話などをしていたみたいです」
「…へー…なるほどね…。やっと意味が分かったわ」
「意味…?」
ロゼッタはペラペラと数枚の紙をめくり、あるリストを眺めた。
「うん。ロバートが取引してるリストを調べてたんだけどね、「奴隷」の枠にアリスちゃんともう一人「オリビア・メリーズ」って名前が書いてあるの。だからあのメイド…アリスちゃんがいなくなってもあんなに平然としてたんだ…」
私はロゼッタの話を聞き驚いた。
アリスの言っていたメイド「オリビア」が奴隷なら、アリスが監禁されてると外部に言えるわけがないし、言ったら彼女にも罰が下る。
納得がいった。
「それは凄いですけど…どうやってそのリスト手に入れたんですか?」
「ん?簡単だよ。「表向き」のロバートの取引先の会社はこの町の至る所にあるからそこからどんどんリストを貰っていくだけ。「裏」はそのリストと魔法を使ってしまえばあっさり出てくるよ」
「へっ…へぇ…すごいね…」
私はロゼッタの話を聞き言葉を失った。
私のいた世界で言えば警察がやって数日はかかるような事をロゼッタは半日で、しかも「あっさり」とやってのけてしまう。
魔法使いに嘘はつけない…と強く思った。
「あっ、そういえばマーガレットさん達は…?」
「ん?マーガレット?彼女達はその取引先に行ってもらったよ。リストの中に「薬品」って書いてあったからグレッタのと何か関わりがあるんじゃないかな〜って思ってね」
「そうなんですか」
「うん、しかも「憂さ晴らしにどうぞ」って言っておいたから…すごいと思うよ…」
ロゼッタは笑顔で言った。
「憂さ晴らしにどうぞ」の言葉のせいだろうか、その時のロゼッタの表情はただの笑顔だが凄く怖かった。
あのロゼッタが何がとは言わないが「アレ」をOKを出すと言う事は、彼女達は悪を徹底的に潰す気でいるらしい。
一瞬だが、ロゼッタ達の方が悪役に思えてしまった…。
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