第19話 作戦実行

コーストヴァーレ内某所


マーガレット達は裏ルートの取引に関わっているであろう組織の隠れ家が入るビルの中にいた。


「うっし、じゃあサーニャ頼むぞ」


「わかった」


彼女達は鉄板の扉の前で小さな声で作戦会議をした。

サーニャは咳払いをし、小声で「あー……あー…」とボイスチェックをする。

最初の発声はサーニャの声だったが二回目の発声はサーニャの声ではなく、低い男性の声へと変わっていた。


「…よし…」


ゴンゴンゴンゴン…。


「俺だ、開けてくれ」


サーニャは鉄板の扉を4回ノックし、組織内のメンバーを装った。


「誰だ。名前を名乗れ」


扉の奥からメンバーの男の声が聞こえ、サーニャ達に名乗るよう命じた。


「ひどいじゃねぇか。声聞いて疑うなんてよぉ?なあ?ミーナ?」


「うん」


サーニャはミーナの方を見ながらメンバーの男にそう告げた。

ミーナは頷くと、扉に向けて魔法を放つ。

鉄板の扉は轟音をたてながら衝撃で吹き飛び、近くにいたメンバーの男を押し潰す。

他のメンバーはそれを見て驚き、サーニャ達の方を睨みながら警戒する。


「やあやあ、どうも皆さん…。順調ですか?」


コツコツと吹き飛んだ扉の上を歩きながらマーガレット達は組織内へと入り込んだ。

吹き飛ばされた男は奥でぐったりとしていた。


「な…なっ何なんだお前らぁ…!」


「何って…名乗るもののもんでもないさ。お前らがやってる取引リストが欲しいだけさ」


組織のメンバー内の男がマーガレット達に怒鳴るように質問すると、マーガレットは笑顔で返答をした。


「リ…リストぉ…?何言ってんだてめぇら…!」


バンッ!


男が誤魔化すような事を言うと、マーガレットは表情を変え床に一発発砲した。

そして、マーガレットは男の事を睨みつける。


「うっせぇなぁ…。しらばっくれても無駄なんだよ」


マーガレットは男達にそう言い、拳銃を向けた。



場所は変わり、コーストヴァーレの宿。


「そういえば、ユイちゃんに伝えそびれた事あったね」


「伝えそびれた事…?」


私とロゼッタは、マーガレット達が戻ってくるまでの間する事がないので会話をしていた。


「うん、実はミーナちゃん今回の案件が終わったら私達の仕事から離れるの」


「え…離れるって…」


それは、ミーナが今回の案件で私達の元から離れるというものだった。

たしかに、ロゼッタ達の仕事は精神的、肉体的にもかなりきつい仕事だ。


「あっ…!この仕事が嫌になったとかじゃなくてちゃんと理由があるの!」


「そうなんですか…?」


ロゼッタは私の気持ちに気付いてしまったのか、慌てながら事情を説明し始めた。


「うん。ミーナちゃんには「ニル」っていう小さい弟子さんがいてね、もうそろそろ魔法学校卒業して一人前の魔法使いに向けて準備をする時期なの」


「へー…でも、魔法学校行ってるんなら一人前になってるんじゃ…」


「まあ、本当はそうなんだけど…。なんか馴染めなかったらしくて辞めちゃったんだって…」


「あっ…なるほど…」


私はロゼッタの話を聞いて言葉を詰まらせる。

ミーナの弟子である「ニル」という少女がなぜ馴染めなかったか気になるが、自分の好奇心で聞いていいのか分からない。


「あの、ニルちゃんってどんな人だかって教えられる範囲内でいいので教えてくれますか?」


「ん?いいよ?」


聞いていいのか分からなかったが、好奇心が勝ってしまい私はついロゼッタにニルの事を聞いてしまった。

だが、意外とロゼッタあっさりとニルについて教えてくれた。


ミーナの弟子であるニルは、年齢は12歳ぐらい、幼少期の頃に闇魔術の勉強による事故で顔の右半分(目元付近)を火傷し、右眼の色は灰色で色が灰色しか見えないらしい。


それもあってか、基礎は完全にマスター(闇魔法は基礎をマスターする事が必須)しており授業があまりにも退屈だったらしい。

それと、何でも出来るニルに対し嫌味を感じたクラスメイトからいじめを受けていたらしい。

どの世界にもそういうのはあるんだなと実感した。


「そうなんですか…」


私はロゼッタの話を聞いてそう返答した。

ミーナは私と同い年だが、凄くしっかりしている。尊敬するレベルだ。

それでアリスが幸せになるのなら嬉しいが、それと同時に仲間が一人いなくなると考えると寂しさを感じる。


ジリリリ!


そんな話をしていると、突然部屋にある黒電話が鳴り出した。

ロゼッタはすっと立ち上がり、受話器を手に取る。


「はいもしもし…あーマーガレット!…うん…うん……そっか……分かった。下で待ってればいい?…うん…分かった!待ってるからね!」


電話の相手はマーガレットだったらしい。

おそらくだが、取引先の仕事が終わったからだろう。

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