第20話 依頼達成

ロバート邸にて


コンコンコン


「ご主人様、マーガレット様をお連れ致しました」


「そうか、入ってくれ」


ロバートはそう言いマーガレットを自室へと入れた。


「おや?今回は一人かな?」


「ええ、報告は一人で十分ですから」


マーガレットはロバートにそう告げた。

ロバートはそれを聞き、笑顔になった。


「という事は…!」


「ええ、アリス様を発見し、確保しました」


「おお!そうか!なら今すぐここに…!」


「そうする前に…」


ロバートはマーガレットの言葉を聞き、喜びを爆発させた。

だが、マーガレットはアリスを差し出す前に自身の胸ポケットに入れていたA4サイズの紙をロバートへと突きつけた。


「この事について説明してもらおうか?」


それは、屋敷に入る前ロゼッタから渡された「裏ルートのリスト」と「アリスの心身、外傷リスト」だった。

それを見てロバートは驚くが必死に冷静さを演じ始める。


「な…なんなんだ!それは!」


「あ?なんだ読めねぇのか?てめぇが取引していた裏のリストだ。ちゃんと取引先に行ってそいつらから話を聞いているから騙そうたって無駄だぜ?」


「ふ…ふざけるな!そんなデタラメっ…!」


「デタラメ?…残念ながら、こっちには有能が魔法使いがいるもんでね。人の心ん中やら色々覗こうと思えば平気で出来るのがいるんだ。裏ルートの出さなくてもアリスのを出しちまえば…お前はどうなるんだろうなぁ?」


「ぐっ…!」


ロバートはマーガレットの言葉を聞き、返す言葉が見つからなかった。

そして、マーガレットは残高が0と書かれたロバートが所有する口座の預金通帳を投げつけ、さらにロバートに要求し始める。


「そこで提案だが…。アリスを私らに渡せばこのリストはチャラだ。どうだ?…だが、一つだけ言っておく。裏ルートの取引先はすでに私らで壊滅済みだ」


「ぐっ…くぅ…!くそ…!ふざけやがってええぇ…!」


「そんなキレんなって…。でもよ、人ってのは一度甘い汁を吸っちまうと元には戻れない。それは自分が一番分かってるよな?自分だけ多く金が入るようにしてたロバートさんならなぁ?」


裏稼業で富を成し、バレないと思っていた事を自分が依頼した小娘共にバラされたロバートは怒りが頂点に達し、机の裏に隠していた拳銃を取り出しマーガレットに向けようとした。

だが、マーガレットの銃を取り出す速度、発射速度が明らかに速かった。

マーガレットの放った弾丸はロバートの拳銃に命中し、拳銃は轟音をたてロバートの手から離れた。


「私の前で銃使おうなんて馬鹿な考えやめな。YESかNO。どっちかにしな…」


「ぐっ…!」


ロバートは再び口を閉じ黙りだす。

マーガレットはさっさと決断しないロバートに少しイラつき始めたのか、タバコを吸い始め部屋にある骨董品を触り始めた。


「ふーん…。これいくらすんだろな…」


ガシャガシャアアアアアン!


マーガレットは小声でそう言うと、無表情で骨董品の置かれている机の脚を思いっきり蹴飛ばし壺を割り始めた。


「なっ…!お前何やって…!」


「……。」


ロバートはマーガレットの突然の行動に驚き、止めようとするがマーガレットは無言でタバコを吸いながら次々と骨董品を割り、ナイフで破き、蹴飛ばし、床に投げつけたりとめちゃくちゃにした。


「やっ…!やめろ!…分かった!アリスはお前らにやる…!」


次々と壊されていく骨董品を見るのを耐える事が出来なくなったロバートはマーガレットに大声でそう告げた。


「ふーん、そうか。ならそれで行こう。…だが、私らだって馬鹿じゃない…」


ロバートの言葉を聞いたマーガレットは骨董品の破壊をやめ、彼の机の上に一枚の紙をバンっと力強く置いた。


紙には「誓約書」と、「我々、(ロゼッタ、マーガレット、ミーナ、サーニャ、ユイ)を法的な者へ通報した場合、裏ルートの取引先リスト等を開示する」など、ロバートには不利になる内容ばかり書かれていた。


「ぐっ…お前ら…!」


「ふっ…、これに書いてある通りお前が私らに何をしようがどうやっても勝てない。諦めるんだな。…あー、これは口約束じゃないぜ?」


マーガレットは笑顔でロバートに告げると机の上に置いてあった万年筆をロバートに向けた。


「あとはどうするか貿易業やってるお前なら分かるよなぁ?」


それは、ロバートからしたら誓約書に「サインしろ」と言われているようなものだ。

ロバートは万年筆をぶん取り、ザラザラと力強く怒りを込めながら誓約書の氏名記入欄にサインする。


「これで…いいんだろ…?」


「おっし、じゃあ私らの業務はこれで終わりだ。じゃあな、ロバートさんよっ」


ロバートから受け取った誓約書を胸ポケットに締まったマーガレットは、笑顔で彼の部屋を出ようとした。


「おっと、ロバートさん。これからも裏稼業で富を得たいんならならず者やクズばっかの私の故郷、アレゲニーをオススメするぜ。だけど…お前のやり方だったらすぐにバレて死ぬだろうけどな」


マーガレットはロバートにそう言い放ち、わざと彼の部屋に飾られていた絵画がガタンと床に落ちるように部屋の扉を強く閉めた。


「…くそ…っ!」


富も何もかも奪われ、最後には馬鹿にされたロバートは怒りを隠す事が出来なかった。


ロバートの屋敷の外にて

私ユイとロゼッタ達はマーガレットの帰りを待っていた。


「お待たせ」


一仕事終えたマーガレットと、ロバートの屋敷内にいたメイド「オリビア」が屋敷から出てきた。

よかったと安心したが、オリビアの姿を見たアリスが私の手を離し、オリビアの元へと駆け寄ると彼女の前で座り、ボロボロと涙を流した。


「オリビアごめんなさい!かってにへやをぬけだして!ばつはうけます!だからゆるしてください!おねがいします…!おねがいします…!」


それは、見ているのが辛くなるものだった。

アリスは口ではこう言ってるが、体はガタガタと震えている。罰を受けたくない。そう感じる。

アリスが屋敷内でどのような扱いを受けていたのかすぐに分かる。

オリビアはアリスと同じ目線になるようにしゃがみ込むとアリスの目から流れ落ちる涙をハンカチで拭き取る。


「泣かないでください、アリスお嬢様。罰はいたしません。貴女は今日から自由なのですから…」


「ばつ…ないの…?」


「はい。今日からは好きなように生きてください」


「…うん!わかった!」


アリスはオリビアの言葉を聞き、これから先今までの様な罰はないのだと分かり嬉しさを爆発させ、笑顔で返答した。

その時の笑顔は、宿で会話した時の笑顔よりも明るく感じた。

初めて見た笑顔だ。


これで幸せになれるんだと嬉しかった。

だが、それと同時にミーナと別れる時が近づいている事が少し辛かった。

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