第21話 一つの別れ

「ミーナ…短い間だったけど…ありがとうね…」


私はミーナに感謝の気持ちを伝える。

短い間だったが、歳が近くて、言語を教えてくれたり、相談に乗ってくれたりと色々お世話になったミーナとこれから先、一生会えないと考えると悲しくなり気付いたら泣きそうになっていた。


「もー…ユイ…泣かないでよ…私だって…もっと…うぅ…」


ミーナは私の泣きそうになってる表情を見て、声を詰まらせながら泣くのを我慢する。


「ユイに…これあげる…」


ミーナは私にブレスレットを渡した。

ブレスレットはシルバーで一箇所に紫色の宝石が埋め込まれたシンプルな物だ。

ロゼッタから貰ったネックレスとは違い、特に何もないようだ。


「ありがとう…。大切にするね…」


「うん!…それじゃあ…サーニャ、ロゼッタ、マーガレット、そしてユイ…。元気でね…!」


ミーナはそう言うと箒に跨り、コーストヴァーレを後にした。


「…さて、私らも帰るとするか…」


マーガレットはミーナを見送り終えると、そう言った。

夕日は沈みかけ、辺りは暗くなろうとしていた。

ロゼッタとサーニャ、アリスはオリビアに別れの言葉をつげ、後部座席に乗り込む。


私も助手席へ乗り込もうとドアを開けると、マーガレットがオリビアと何やら話してる様子が目に入った。

車と二人の距離は少し離れている為、内容は分からないがオリビアの笑顔を見て何故だか良い話では無さそうだと感じた。


その後、私とマーガレットは車に乗り込みコーストヴァーレを来た時とは逆方向で離れた。

車を一時間近く走らせ、小さな小屋の前で止まるとロゼッタとアリスが車から降り、小屋へと歩いた。


ロゼッタ曰く、ここがアリスの新しい住居らしい。


ロゼッタが昼間、宿で書いた手紙の宛先でロゼッタの知り合いだという。

かなり厳しいと噂の魔法使いらしいが、ちゃんとした人で、面倒見が良く、丁度弟子を探していたからという理由で彼女を選んだとロゼッタは言っていた。

たしかにその人にならアリスを任せてもいいと思う。


そして私達はアリスから別れ、数分車を走らせる。

辺りは真っ暗になり、景色はだだっ広い草原が続くだけで街灯は一切無く、灯りはマーガレットの車のヘッドライトのみだ。

サーニャとロゼッタは後部座席で寝ている。

ロバートの仕事はロゼッタ達の迅速な対応で一日で終わったが、三日か四日分体力を使った感覚がある。

特に精神的に疲れた感じが強い。


「ふあぁ…」


私はあくびをした。

体が疲れているし眠い。だが眠れない。

気になる事があるからだ。


「眠いんなら寝ていいぞ」


マーガレットが私のあくびを見てそう言った。


「寝れないんです…さっきのが気になって…」


「さっきの?」


「はい、マーガレットさんとオリビアさんが話してるのを見てたんですけど…オリビアさんの笑顔がどこか悲しく見えて…」


私はマーガレットにずっと気になっていた事を言った。

オリビアの作り笑いのような笑顔。

それがすごく頭の中に残る。


「…分かった。けどこれは二人だけの秘密な」


マーガレットは運転席の窓を手回しハンドルで開け、タバコに火をつけながら話し始めた。



…ーー「通帳助かったよ。ありがとうな」


「いえ、お役に立てて光栄です」


マーガレットはアリスの捜索前、オリビアから彼の通帳をこっそりと渡されていた。

そして、ロゼッタの魔法を使いロバートの口座から大金の三割をロゼッタ、マーガレット、ミーナ、サーニャに分け、残りの七割をロゼッタが新しく作ったオリビアの口座に全額送金した。


「…それで、お前はどうするんだ?」


マーガレットはタバコに火をつけ、吸いながらオリビアに告げた。


「私はここに残り、ご主人様とずっとご一緒いたします」


オリビアは表情を変えずにそう言った。

彼女の口座に振り込まれた七割は、無駄遣いをしなければ当分働かなくてもいい金額だ。


それさえあればロバートと完全に縁を切って自由に、平和に暮らせるはずだが、オリビアはここに残ると言った。


マーガレットはその言葉を聞き、彼女にこう告げた。


「あいつにそんな財力はない。それに、お前もアリスと同じように自由の身だ。…それでもあいつといるのか?」


「はい。私がご主人様とともに過ごせばアリスお嬢様…いえ、アリス様のような悲惨な事は起きません…」


オリビアはマーガレットの言葉にそう返答すると笑顔でマーガレットの事を見た。


笑顔だが、少し辛さを感じる。無理に作ってる笑顔だ。


だが、彼女をどう止めようと考えは変わらないと思うしかない。

マーガレットは心の中がギリっと痛く感じるも我慢して受け入れるしかなかったーー…


「…それって…」


私はマーガレットとオリビアの話を聞き、なんとなくだが嫌な事を考えてしまった。

それは、ロバートのする事、つまりアリスに行った事全てをオリビアが受け入れるというものだ。


「…ああ、ユイの考えている通りだよ…。私もやめろと言いたがったが、あいつはそれを望んでいる…いや、望まなきゃいけないって事なんだろうな…」


「……。」


オリビアがロバートのやる事全てを受け入れれば、アリスのような事は起こらない。だが、オリビアは救われない。

同性だからかとても重く考えてしまう。


「マーガレットさん…これで…よかったんですかね…?」


「…分からない」


マーガレットは一言そう言い、タバコを吸った。

その時のマーガレットは、私が初めて見るつらそうな感じだった。



場所と時間は戻り、コーストヴァーレ

オリビアはロゼッタ達を見送り終え、屋敷の中へと入る。


「オリビアあぁっ!」


マーガレットに何もかもを破壊され、苛立つロバートは大声でオリビアを呼ぶ。


「いかがなさいましたか、ご主人さっ…」


オリビアはロバートの部屋へと入り、普段と変わらない態度で問いかけようとすると怒り狂ったロバートにメイド服の胸ぐらを掴まれ、壁に強く押し付けられる。


「お前がぁ…!お前が全てやったんだろぉっ…!」


「何を…」


「アリスだ!アリスをあの部屋から逃し、俺の全てを破壊したんだろうがぁ!」


ロバートは怒りをオリビアにぶちまけた。

だが、オリビアは表情を変えず、ただ黙ってロバートの事を見続けた。


「なんだ…なんだその目はあぁ…!!」


バチンッ!


ロバートは胸ぐらを掴んでいた右手を離し、左手で勢いよくオリビアの顔を叩いた。

オリビアは強く叩かれた衝撃で倒れ、右手で頬を抑えながらロバートの事を黙って見ていると、ロバートは自分のベルトを外し、鞭の様にして暴言を吐きながらオリビアに何度も打ちつける。

オリビアの着ているクラシックタイプのロングスカートメイド服は少しずつ破れ始め、オリビアの体に傷がつき始める。


「んっ…!っつ…!……っつ!……」(我慢すれば…これをずっと我慢すればいいだけ…!)


オリビアは心の中で強い痛みに我慢しながらそう唱えた。

叩かれる度に出てくる苦痛の声。傷口からは血が出始める。

メイド服と体はボロボロになっても何度も何度もそう唱え、耐え続けた。



数分間に及ぶ鞭攻撃は終わり、ロバートは鞭代わりにしていたベルトを投げ捨てる。

オリビアの着ているメイド服ははだけ、所々破ける。

体は全身にあざや切り傷ができとても痛々しい様子になっていた。

それでもオリビアは目に涙を浮かべながらも必死に声を上げずに耐え続けた。


「ん……ぐっ………」(やっと…終わった…?)


「…はぁ…はぁ…はぁ…。お前はどんな声で鳴くんだぁ…?」


ロバートはオリビアの痛々しい姿を見て、勃起した股間をグッと握るとオリビアのメイド服を無理矢理脱がし始めた。



「おら!おら!…いいんだろ!?鳴けよぉ!」


「ん…ぎ…!ぐっ…!」


ロバートは必死に腰を動かす。

オリビアは気持ち悪い感覚に耐えながら、必死に声を我慢しつつ左腕でロバートの顔を見ないように、自身の涙を見て彼の思い通りにならないように目元を隠す。


(これで…いいの…!私が…!私一人で…!全て…!この男が満足するまで…!死ぬまで我慢すれば…いいの!)


オリビアは必死に何度もそう唱え続けた…。

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