第六章「記憶」
第39話 不思議な夢
それから数時間後、私は珍しく母の料理の手伝いをした。
料理中、母にも友人と同じ事を言われた。
「速報です。18:50頃、列車脱線事故が発生しました」
出来上がった料理をテーブルの上に運んでいると、何気なくつけていたテレビから速報ニュースが流れ始めた。
画面にはヘリコプターで上空から撮影されている横転し変形た電車と数台の救急車が映し出され、現場の緊迫さを嫌と言うほど伝わる。
「これ、結衣が通学の時に使ってるやつじゃない…?よかったね、今日は早く帰ってきてて」
「うん…」
脱線した列車は、母の言う通り私が普段通学に使う路線だ。
もし、学校で自主練をしていたら…と考えると恐怖を強く感じる。
それから数年が経ち、私は大学生になった。
弓道は高校の部活を最後に辞め、大学に入って新たにやりたい事を見つけようと思ったが、今は見つけるのに思った以上に苦労をしている。
だが、これも少し楽しく感じている。
「ねー結衣!今日ここ行かない?」
「いいよ!いこう…」
ザザッ……!
友人と講義後、新たにオープンするアパレルショップへ行こうと話が盛り上がる中、突然一瞬の軽い頭痛と私の脳内に灰色の映像で誰か分からない人達が倒れている光景が浮かび出した。
「…いっつ…!」
「…?結衣?どうした?」
「あ、ううん。大丈夫。ちょっと寝不足だっただけ…」
「…そ…そう…。ならよかった」
私の事を心配した友人に声を掛けられるが、私は適当に返答した。
頭が痛かった上に変なのが頭の中に浮かんだ…なんて言ったら不安がられてしまうし、私自身そんな事で心配してほしくない。
その後、数日は何事もなかったが、再びあの時の映像がノイズの様に脳内に映し出される日が突然現れた。
最初は1秒もないものだったが、日に日に回数が増え、0.5~2秒ずつ映像の長さが伸びてる気がする上に、たまに誰かの悲痛な声が聞こえる時もある。
それだけかと思いきや、今度は私がどこかの列車に乗っている映像、大きな神社のような建物の前にいる映像が映し出される。
ただの夢なら大した事ないが、回数があまりにも多すぎる上に何者かが私に対して何かを訴えかけてるような感覚さえあった。
ザザッ…ザザッ…ユ…イ………ちゃ……
「…っ!……今…誰かが私の名前を呼んだ…?」
そんな事が続いた夏のある日、就寝中に再びあの映像が夢で映し出されるが、今回は今までのとはっきりと違う事があり、飛び起きた。
それは、「言葉」だ。
正直言って私の名前を呼んだ事を言葉と言っていいか分からないが、今までは瀕死な感じの息遣いと、苦痛そうな声しかなかったが、今回ははっきりと聞き取れる言葉だった。
誰かが私の事を呼んだのははっきりと聞こえが、誰なのかわからない。
夢以外で聞いた事ある気がするのにそれが誰だかさっぱり分からない。
眠気が無くなってしまった私は、部屋の電気をつけ、近くにあった紙とボールペンに手を伸ばすと今まで映し出されたものを書き始める。
「…はぁ…はぁ…」
結衣は夢の中で見えたものを「現実感のあるような光景」とその逆のものでリスト化していき、現実感のあるような光景をスマホで必死に検索し、結果が分かったものをガリガリと紙に殴り書きしていく。
そして、何時間経ったか分からないが「倒れていた四人」、「どこかの神社のような建物」、「仙台市にある東照宮駅」という結果に絞り込むことが出来た。
「…よし…!駅の近くに神社がある!それで明日…いや、今日行こう…!」
結衣はそう言いながら、スマホの時計を見ると時刻は「5:00」を回っていた。
今日は大学の講義があるが、結衣はそれどころじゃないと思い、急いで身支度をし、仙台へと向かった。
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