第38話 別れ

それから数日後…。

私とロゼッタの問題は一旦置いとくという形になり、普段と変わらない時間が続いた。

だが、「私の時間を戻すタイミング」を決めなければならない時が来てしまった。


その事に対してとりあえず私は、ロゼッタ達が受けている仕事「レオフレートファミリーの壊滅」を最後まで受けてからがらいいと告げたが、メンバー全員に反対されてしまった。

その中で一番反対していたのはロゼッタだ。


あまりに時間をかけ過ぎると私自身の元いた世界の記憶が薄れ始め、戻れなくなるからとロゼッタは言ったが、一番の理由は途中で死んでしまったら元も子もない上に、蘇生が出来ないからだ。


「それじゃあ、ユイちゃん。そろそろ始め…」


「待ってください…。あの、最後に私のわがままを聞いてくれますか?」


ロゼッタが私の時間を戻す準備を始めようとするのを遮るように、私はサーニャ、ロゼッタ、マーガレットにわがままを言った。

それは、「この世界の事を教えてほしい」だ。

なぜ今更なのかは分からないが、おそらくロゼッタ達ともう少しいたいからそう思ったのだろう。


それを聞いたロゼッタ達は快くこの世界の事を教えてくれた。

歴史、通貨、様々な街の事まで色々だ。

それと同時進行で、マーガレットからは銃の事や自動車の事、ロゼッタは魔法、サーニャは文化について色々話してくれた。


この世界に来て、一番楽しい時間でもあり悲しい時間でもあるような気がしてきた。

そして、とうとうお別れの時間が来てしまった。


「…よし、これでOK!」


ロゼッタは一枚の紙に魔法を書くと、その紙を私に渡した。

見てもいいと言われたのでなんとなく見てみるが、書かれている意味はさっぱり分からない。やはりこれはゲームとかと同じのようだ。


「じゃあ…ユイちゃん、何か言いたい事ある?」


「…いえ、特にありません。けど、また会えたらどこかで会いましょうね!」


ロゼッタは私にそう言うと、私は笑顔で返答した。

みんな一人一人に言葉を言った方がいいとは思うが、私は悲しい別れにしたくなかった。

私の記憶からは消えてしまうが、ロゼッタ達の記憶には残るから、気持ちが勝手にそう思ったのだろう。


「…うん、そうだね。…それじゃあ、またどこかで…ユイちゃん…」


少し悲しげにロゼッタはそう言うと、私の方へ手を差し出し、上へと上げた。

すると、辺りの景色がノイズがかった感じになり、映像が高速で巻き戻されているような感覚と、強烈な眠気が襲ってくる…。


「…いっちゃったね」


「ああ…」


「けど…なんとか無事に送り出せてよかった…。途中で死んじゃったらどうしようかと思ったもん…」


夢の中で誰かが私の事を話している…。

なんかどこかで聞いた事ある気がするのに顔が思い出せない…。

確か名前は……ロゼッタとサーニャと…マーガレット…?いや…ロゼッタって誰…?

あれ…結局誰の声だったんだろ…?




「…い……結衣ー…。結衣ー?ちょっと結衣?」


「…っ!」


私は夢の中で呼ばれているような気がしていたが、部員の声で目を覚ました。

辺りを見渡すと、そこは武道場で、私は弓と矢を持っていた。

だが、数秒前まで別のどこか分からない場所にいた感覚があるが、そこがどこなのかさっぱりわからない。


「…あ、ごめん…呼んだ?」


「もー、呼んだって…さっきからずっと呼んでたのに全く反応ないから心配したよー…大丈夫?今日も自主練するの?やめといたら?」


「…う…うん、今日はやめとくかな…。待ってて、着替えてくる」


「うん…けど、大丈夫…?私もついて行こうか?」


「大丈夫…!すぐ終わるから待ってて!」


私は心配そうにする部員でもある友人にそう言うと、更衣室へと向かい、制服へと着替える。

普段なら部員の事は気にしないで自主練をするのだが、今回は気分が全く乗らない。

それどころか、誰かに「やるな」と言われている感覚があるが、それが誰なのか分からない。


着替えを終え、ロッカーの中に入れていた小物などをバックに入れる為に、バックを開く。

すると、見覚えのない日記が入っているのに気づいた。

何なのかと思い、開いてみると長文の英文の下にふりがなが振られているページ、別のページではどこかに行って何かをしたと書かれているページなど、色々な事が私の字でびっしり書かれている。

だが、私はこの日記を見た事もないし、書いた記憶も無ければ日記に書かれている行動をした記憶すらない。


「なにこ…」


「結衣ー。まだー?」


「あ!ごめん!今行く!」


不思議に思った私だったが、友人に急かされた為日記をバックに押し込み、更衣室を出た。


「もー結衣何してたの?」


「ううん、何でもない。帰ろっか」


「うん!」


そして、私達はたわいもない話をしながら最寄駅へと向かった。

昼と比べると少々風が強く感じるが何事もなく最寄駅へ辿り着くと、定刻通りの電車に乗り、再び会話を続ける。


「いやー、なんか結衣と帰るの久しぶりだなー」


「え?そう?」


「うん!だって大会終わってから結衣ずっとピリピリしてて話しかけにくかったし、思い切って誘っても断られるから正直凄く怖かった!けど、今の結衣は大会前の結衣に戻った気がする!」


「そうか…」


私は友人の話を聞きそう一言返答した。

感覚的には今のような時間がずっと続いていたような気がするのは気のせいだろうか。

記憶にはないが、そんな感覚だけが頭の中にある。

私は少し不思議に感じたが、大した事じゃなさそうと思い、友人と久しぶりの会話を始めた。

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