第46話 チェンソーの女②
(く…苦しい…!)
首を絞めてくる手を外そうと抵抗するが、あまり効果はなく私の意識は徐々に遠のいていく…。
いや、意識が無くなるよりも首の骨を折られ、神経などを切られるのが先かもしれない。
それぐらい女の絞めてくる力は凄まじい。
バンっ…!
私の意識が遠のき、視界が霞んでいると突然どこからか銃声が聞こえ、私の首を絞める女の力が一気に弱くなったのを感じた。
そして女は私の事を離すと地面に倒れ、それと同時に私も床に倒れる。
「…!……!っ…!」
息は出来るようになったが、まだ苦しい。
誰かが私の顔を見て叫んでいるが、視界がぼやけていて誰だか分からない。
それに銃声の後からか耳鳴りと全ての音が深海の中に沈められたような感じに聞こえ、なんて言っているのかさっぱり分からない。
だが、その人からほんのりとするにおいはどこかで嗅いだ事あるにおいだ。
「…っ!……!」
「………っはあ…はぁ…息…できる…」
そう言った事を思っていると突然心臓辺りに強い衝撃を感じ、さっきまで浅くでしか出来なかった呼吸が比較的正常に出来るようになり、視界と聴覚がじわりと元に戻っていった。
「ユイ!…はぁ…!よかった!」
「マーガレットさん…?」
「はぁ…よかった…じゃねぇよ!なんでお前がここにいるんだよ!?」
私の意識を取り戻してくれたのはマーガレットだったようだ。
マーガレットは私のことを見ると安心した様子だったが、すぐに怒りと疑問が混ざったような表情を浮かべ、私にそう言った。
それもそうだ。
私の安全のために時間を戻して運命まで変えた相手がこんな危ない場面にあっているなんて想像つかないからだ。
「説明はあとでお願いします。それよりも、アリスさんは大丈夫なんですか?」
私は説明しようと思ったが、それよりも今は数分前に腹部にチェンソーが突き刺さっていたアリスのほうが心配だ。
「ああ、大丈夫。サーニャがどうにか治療している。けど、あの様子だときついだろうな…」
マーガレットはそう言い、私は廊下に横たわってるアリスと回復魔法をしているサーニャの姿があった。
アリスの腹部は赤黒く血で染まっており、だれが見ても危険な状態だと分かる。
だが、それを見て私はあることを思い出した。
「あれ…ロゼッタさんは…?」
ミーナは私が旅に参加していた時に事情で離脱したが、普段いるであろうロゼッタの姿がどこにもない。
「ロゼッタか…。あいつはお前がいなくなった数ヶ月後に行方不明になったんだ…」
マーガレットは私の言葉を聞き、そう返答した。
ロゼッタが行方不明…?どうして?と聞こうと思うが、マーガレットの普段とは違う悲しげな表情を見て、言うのをやめた。
「…とりあえず、ここを離れるか。サーニャ、そっちは大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
マーガレットは立ち上がりながらサーニャにそう言い、サーニャは返答すると目を瞑り呼吸だけしているアリスの体を背中に背負って建物を出る。
「離れるって…。あの子は…っ!?」
バン!
私は椅子に縛り付けられた少女を助けないのかと言うと、マーガレットは何も言わずに少女の額に弾丸を撃ち込んだ。
少女はガクッと息を引き取り、私はその光景を見て驚きを隠せなかった。
「何やってるんですかマーガレットさん!!なんで殺したんですか!?」
バシン!
私はマーガレットの突然の行動に彼女に対して初めて怒りを露わにすると、マーガレットは何も言わずに私の頬を叩き、胸ぐらを掴んだ。
「お前は忘れたのか!?この世界は確実に殺らないと私らが死ぬって事を!!ここはお前の世界とはちげぇんだよ!!!」
マーガレットは感情を露わにして鬼の形相で怒鳴りながら私に言った。
その時のマーガレットは同じ性別だとは思えないほどに怖かった。
「……はぁ…くそ…。……すまない…。さっきは悪かった…。とりあえず…ロゼッタの事とか話すからついてこい…」
怯えるような表情を浮かべた私を見て、マーガレットは我に帰ったのか私の胸ぐらを掴んでいた手を離し、少し距離を置くとコートに入れていたタバコに火をつけ頭をぐしゃぐしゃにかきむしりながら謝った。
あんなマーガレットは初めて見た。
見たくなかった…。
ロゼッタがいなくなってからマーガレット達の中で何かがおかしくなってしまったのかもしれない…。
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