第47話 亀裂

私はサーニャとアリスとともに建物の前に停められているマーガレットの車に乗り、マーガレットの運転でこの村から比較的近いサーニャの家へと向かった。


あの後だからか分からないが、ロゼッタがいた時のような楽しげな雰囲気は一切無く、車内では無言が続く。

とにかく空気が重い。

早く抜け出したいが、知らなければならない事があまりにも多すぎる…。


私達はサーニャの家にたどり着き、アリスとサーニャは寝室へ、私とマーガレットはリビングで時間を潰す事になった。

すると、私は部屋にかけられている時計に目が入った。


(16時…。えっと…この世界に来たのが確か…15時すぎ…)


私は箒で飛んでいた時に見た腕時計の時刻を思い出す。

そうなると、この世界にいれるタイムリミットは残り一時間。

だが、アリスのあの怪我とマーガレット達に何が起きたかを知るのに一時間はあまりにも短すぎる時間だ。


「…あの、マーガレットさん…。さっきはすみませんでした…」


「…私も悪かった…。ユイ…悪いけど…外で話さねぇか?ここだと話しにくい…」


「…分かりました」


私が先に謝るとマーガレットも続けて謝る。すると、マーガレットは外で話そうと提案し、私は承諾し、二人で部屋を出る。


「…はぁー…。ユイ…お前が多分一番知りたいのは、私らに何があったかだよな…?」


「…はい」


「…全部話すが、辛くなったりしたら言えよ?」


マーガレットはタバコを吸い、しゃがみながら私にそう言いうと私がいなくなった後の事を話し始めた。


遡る事数ヶ月前。

私がいた頃の仕事はひと段落し、新たな仕事を受けよう思った時にロゼッタは高熱を出し、倒れた。

サーニャとマーガレットは心配したが、ロゼッタは「風邪だから大丈夫」と言い、心配させないようにした。


数日後、熱はひいたがロゼッタは起き上がれなくなり、サーニャが看病を率先してやるようになった。


だが数日後、ある事件が起きてしまう。


「ロゼッタ…食べれる?」


「はぁ…はぁ…サーニャ…ちょっと…顔を…」


「…顔?」


いつも通りお粥をスプーンで食べさせてあげようとするサーニャにロゼッタは顔を近づけてとお願いし、サーニャは言われるがまま近づける。

するとロゼッタは左手でサーニャの服の襟を鷲掴みにし、ぐっと引っ張るとサーニャの首元へ鋭い牙で齧り付いた。


「いやああああああ!」


突然の状況と首元に走る凄まじい痛みに驚き、サーニャは悲鳴を上げ、ロゼッタを突き飛ばすようにして自身から離れさせる。


「どうした!?」


サーニャの悲鳴と物音を聞き、不慣れな書類整理をしていたマーガレットがサーニャ達のいる部屋へと入ると、噛まれた首元を抑えるサーニャと、床にはお粥が散乱し、ロゼッタの口からサーニャの血が垂れ、掛け布団を汚している。


マーガレットの姿を見たサーニャは、マーガレットの元へ駆け寄る。

サーニャは震えており、首元にはロゼッタの歯でついてしまった傷が痛々しい。


「ご…ごめ…ごめん…サーニャ…。……!はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…なんで…?………っ!」


ロゼッタは謎の衝動に必死に耐えようとするが、時間が経つ毎に耐えられなくなり、ベッドの横のテーブルに置いていた薬をある分だけ勢いよく飲むが結果は変わらず、現在の自分の状況を理解できずにパニックになっていた。


「ロゼッタ……お前…」


マーガレットは今のロゼッタの姿を見て心が締め付けられる感覚がした。



「…とまあ、そんな事があったんだ…」


「そうだったんですか…」


「それがあった次の日、ロゼッタは姿をくらまして…もう何ヶ月経ったかな…。…サーニャがロゼッタを探すって言ったんだけど私は「あのロゼッタは危険だ」と言って反対したんだ…。それでどんどん亀裂が入り始めていって今に至るんだ…」


「…。」


「だから最近はサーニャと最小限の会話しかしてねぇ…。いや…出来ねぇが正しいかな…。……なぁ…ユイ…。私…どうすればいいのかな…?もう…何もわかんねぇ…」


その時のマーガレットは今までの勇敢さはなく、悲しげな表情で話し、誰が見ても分かるぐらいに弱り果てており見ているのがとても辛かった。

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