最終話 謎
私はマーガレットの話を聞いた後、サーニャがどういう心境なのか聞きたくなったが、どう聞けばいいのか分からなかった。
多分だが、サーニャはマーガレットに言ったことを私にそのまま言い、私はマーガレットと同じ返答をするだろう。
「……。」
その事を考えると、家の中にいるサーニャに会うのが少し怖く感じてしまう…。
「ユイ、ちょっといい?」
「あっ…うん…」
すると、家の中にいたサーニャが玄関の扉を開け、私を呼んだ。
私はサーニャの指示に従い中へと入る。
「多分マーガレットにも話したんだろうけどさ、なんでこの世界に戻ってきたの?」
サーニャは私の顔を見ながらそう言う。
気のせいだと願いたいが、サーニャの声のトーンが少し低いような感覚がした。
私はサーニャに元の世界で見た夢の話など色々話すと、サーニャはふーんといった表情をした。
「…そう、いつ帰るの?」
「アリスさんの魔法次第だけど、多分一時間後かな…」
「へーそう」
私がサーニャの質問にそう答えると、サーニャはまるで私達が邪魔でさっさと帰って欲しいような感じに返答した。
何年か振りの再会だからもう少し喜んでくれても…と思ったが、おそらくサーニャの頭の中はロゼッタの事でいっぱいなのだろう。
とにかく空気が重い。
「…ねぇ、サーニャ…。マーガレットから聞いたんだけど…」
「ロゼッタの事?」
「うん…。行方不明だって…」
「そうだよ。…何?ユイもマーガレットみたいな事言うの?」
私は何を思ったのか、サーニャにロゼッタの事について話してしまった。
サーニャには私が言おうとしていた事がバレているようで、マーガレットに散々言われたから嫌になっているのだろう。
だが、マーガレットの話から想像できるロゼッタは私が知っている優しいロゼッタではなく「化け物」だ。
サーニャの「助けたい」という気持ちは分かるが、サーニャとロゼッタの魔力差は素人目でも分かるぐらい差がある。
どう足掻いてもサーニャが負ける。
ここで止めないとサーニャの命が危ない。
「うん。私だってロゼッタさんの事は心配…。けど、サーニャが死んじゃう事の方が…」
「…うるさいなぁ!もうそのセリフ聞き飽きたんだよっ…!マーガレットに散々言われた…!「助けに行くな」っ…!「お前の命が危ない」…!「あれはロゼッタじゃない」って…!そんなの分かってんだよ!けど…、けど…!私が助けなかったら…ロゼッタは一人で苦しむんだ…!」
私が一言言うとサーニャは我慢の限界が来たのか、今までの冷酷な感じは消え、涙を流しながら怒鳴るようにして私に当たり散らした。
「自分じゃコントロール出来なくなって…!一人で…!自分でも何が起きてるか分からない状態で…!」
「…っ!」
私はサーニャが涙を流しながら訴えてる様子を見ているのが辛くなり、サーニャの事を抱きしめる。
そうだ。
ロゼッタがいなくなった事で一番辛いのは、ロゼッタと関わりが一番深く、彼女の事を師匠だと思っているサーニャ自身だ。
「ユイ…苦しいよ…」
「……。」
サーニャは苦しいと言っているが、私は抱きしめるのをやめなかった。
「ユイ…さっきはごめん…。そして、心配してくれてありがとう…。…けど、私は死のうが、苦しむ事になろうが、ロゼッタを救う」
落ち着きを取り戻したサーニャはそう言うと私の右脇腹を触り、私に聞こえないぐらいの小声で魔法をかけた。
サーニャに触られた右脇腹から強烈な痛みと、生温かい感覚がじんわり襲い始め、目元が霞み始める。
強烈な痛みによりサーニャを抱く手が弱まると同時に、私の体は崩れ落ちるように座り、痛みのある右脇腹を触ると手のひらには大量の血がべっとりついていた。
(サー…ニャ…な…に…したの…?)
私は意識が徐々に遠のく中、心の中でそう言った。
「…さよなら、ユイ」
「……っは…!」
あの後意識が飛んでいた私は突然目が覚め、辺りを見渡す。
室内には観葉植物が飾られ、大きな水槽には熱帯魚が泳いでいる。そして嗅いだ事のある芳香剤の匂い。
「戻って…きたの?」
なぜか床に座っていた私は立ち上がり、アリスさんがいるかを確認する。
アリスさんは机に突っ伏したまま、眠っているようだ。
幸いにも、アリスさんの腹部に怪我はない。よかったと胸を撫で下ろす。
ロゼッタ達が何者かに殺される夢の謎を解決出来るだろうかと思い、サーニャ達の世界に一時的に戻ったわけだが、逆に謎を増やしてしまった。
あの後サーニャはどうなったのか、なぜ私の右脇腹に攻撃をしたのか?最後のかすかに聞こえた「…さよなら、ユイ」の言葉の意味は?
「…なんであんな事になったんだろ…」
仲良かったサーニャ達の関係が崩壊した現実を受け入れられない私は一言そう呟き、ため息をついた。
Magical Reve ~Dreams and Newlife~
完
Magical Reve ~Dreams and Newlife~ 柏木桜 @spesio
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